サイエンス

Microsoftがバッテリー内のリチウムの約70%を置き換えられる材料をわずか数日で発見、Azure Quantum Elementsを使ったシミュレーションとAIモデルで実行


リチウムイオン電池は、現代社会でスマートフォンや電気自動車などに広く使用される一方で、破裂や火災につながる危険性が指摘されています。2024年1月9日にMicrosoftとパシフィック・ノースウエスト国立研究所(PNNL)は共同で、既存のリチウムイオン電池よりも破裂しにくい可能性のある新たな固体電解質を用いたバッテリー材料を発見したことを発表しました。今回の発見には、Microsoftの量子コンピューティングサービス「Azure Quantum Elements」が用いられました。

Discoveries in weeks, not years: How AI and high-performance computing are speeding up scientific discovery - Source
https://news.microsoft.com/source/features/sustainability/how-ai-and-hpc-are-speeding-up-scientific-discovery/

Unlocking a new era for scientific discovery with AI: How Microsoft’s AI screened over 32 million candidates to find a better battery - Microsoft Azure Quantum Blog
https://cloudblogs.microsoft.com/quantum/2024/01/09/unlocking-a-new-era-for-scientific-discovery-with-ai-how-microsofts-ai-screened-over-32-million-candidates-to-find-a-better-battery/

Microsoft Azure Quantum and PNNL join forces to accelerate scientific discovery - YouTube


How Microsoft found a potential new battery material using AI - The Verge
https://www.theverge.com/24027031/microsoft-new-solid-state-battery-material-ai

Microsoft finds new material to replace lithium in batteries using AI | Windows Central
https://www.windowscentral.com/microsoft/microsoft-leverages-ai-to-identify-a-new-material-that-can-potentially-reduce-the-use-of-lithium-in-batteries-by-70

記事作成時点で広く使われているリチウムイオン電池は液体電解質であることから、エネルギーの伝導において優れている一方で、破裂して火災を引き起こす可能性があります。また、リチウムイオン電池の需要拡大に伴い、さまざまなメーカーがバッテリー工場を建設していますが、リチウムイオン電池の生産には大量の水やエネルギーが必要なため、環境への悪影響が指摘されています。

さらに、アメリカエネルギー省によると、リチウムイオン電池の需要は2030年までに最大10倍まで高まる可能性があるとのこと。そのため、科学者の間ではリチウムの使用量が少ない次世代のバッテリーの開発が進められています。


2023年にMicrosoftはPNNLの研究チームに対し、高性能計算(HPC)や量子コンピューティング技術、AIを統合したプラットフォームである「Azure Quantum Elements(AQE)」を提供しました。

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PNNLの研究チームはAQEに対し、「リチウムの使用量が少ない電池の材料はどれか」と尋ねました。すると、AQEはただちに3200万通りもの候補を提案。その後研究チームは提案された候補の中から、安定して使用できる可能性のある約50万個の材料をピックアップしました。

さらに研究チームは、それぞれの材料がエネルギーをどの程度伝導するかの推測や、各材料内で原子や分子がどのように動くかをシミュレートしました。また同時に、コストや入手の容易さを含めて、各候補がどの程度実用的であるかの推測も行いました。


研究チームによる選定の結果、最終的に23個までバッテリー材料の候補を絞り込むことに成功。3200万個もの候補の提示から23個への絞り込みにかかった時間はわずか80時間でした。PNNLのスタッフサイエンティスト兼材料科学グループリーダーであるヴィジャイ・ムルゲサン氏は「3200万個もの資料を人間による手作業で調べ上げようとすると、おそらく20年以上を要していました。今回の発見はAIとAQEなしでは成し遂げられませんでした」と述べています。

研究チームは最終的に残った23個の候補の中から、バッテリーとして使用できる可能性の高い候補を1つ合成し、テストを行いました。その際に製造されたバッテリーを用いて、電球や時計に電力を与えることに成功しています。


今回製造されたバッテリーには、従来のリチウムに加え、ナトリウムが使用されています。Microsoftによると、今回発見された新素材は、従来のリチウムイオン電池に比べ、リチウム含有量を最大70%削減できるとのこと。また、液体電解質のリチウムイオン電池とは異なり、固体電解質であることから、安全性が向上しているとされています。

一方で、固体電解質のバッテリーは液体電解質のバッテリーに比べてエネルギー伝導性能が劣ることや、今回発見された材料は、研究チームによる当初の予測よりもエネルギー伝導性能が低いことなどから、今後も研究チームによるテストや微調整が行われることになります。そのため、今回発見された材料を用いたバッテリーが市場に登場するのは、まだ先のことです。


それでも、Microsoft ResearchのMicrosoft Quantum – Redmond(QuArC)グループのリーダーを務めるクリスタ・スヴォア氏は「AIとAQEを用いることで、これまで250年必要だった化学材料研究をわずか20年に圧縮することが可能です」と述べました。

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in サイエンス,   動画, Posted by log1r_ut

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