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 「運用コストは増えるのか」「また方針が変わったのか」――。デジタル庁が整備するパブリッククラウドの利用環境「ガバメントクラウド」を巡り、不満や不信の声が強まっている。当初の見込みが二転三転するなど、次々と綻びが見えているのだ。

 同庁はベンダーロックインの回避とマルチクラウドの推進を掲げるが、各府省庁や自治体利用は、足元で9割以上を「Amazon Web Services(AWS)」が占める。複数自治体利用による「割り勘効果」でコスト減をうたうが、むしろ従来よりも運用コストが増加するといった指摘も出ている。

 度重なる計画変更に加えて、デジタル庁の意思決定プロセスや情報の不透明さも問題だ。ガバメントクラウドへの移行はスムーズに進むのか、決して楽観視できる状態ではない。

「ガバメントクラウドの利用料低廉化を図る取り組みを実施」とアピール

 2023年秋、ガバメントクラウドへの移行を検討する各自治体から、システム運用コストの増加を指摘する声が相次いだ。全国1741自治体には、2025年度末までに20業務システムを標準準拠システムに移行させる「自治体システム標準化」が義務付けられている。ところが、ガバメントクラウド上に構築する標準準拠システムへの移行によって、2026年度以降の運用コストが従来の数倍から10数倍に跳ね上がるという試算や見積もりが、複数の自治体から出てきた。

 デジタル庁は、ガバメントクラウドへ移行することを自治体やシステム構築・移行を担う事業者に対して強く推奨してきた。「ガバメントクラウドへ移行すればコストは安くなる」――。デジタル庁は自治体に対してこうしたアピールを続け、ガバメントクラウド利用を促してきたわけだ。

 ガバメントクラウドにはこれまでに、AWSに加えて「Google Cloud」「Microsoft Azure」「Oracle Cloud Infrastructure(OCI)」が採択されてきたほか、2023年11月にはさくらインターネットの「さくらのクラウド」も採択されている。ただし自治体システム標準化の先行事業では全8団体がAWSを利用し、ガバメントクラウド全体としても9割以上がAWSの利用が占めているのが現状だ。

ガバメントクラウドに採択されたクラウドサービス
ガバメントクラウドに採択されたクラウドサービス
(出所:デジタル庁の資料や取材を基に日経クロステック作成)
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 デジタル庁はこれまで、多くの府省庁や自治体がガバメントクラウドを共同利用することで各クラウドサービス事業者(CSP)の大口割引(ボリュームディスカウント)を引き出すことができ、複数自治体で共同利用する「割り勘効果」も相まって安価な利用料でクラウドを使えると説明してきた。

 その一方で先行事業を踏まえて同庁は、クラウドへの単純移行では運用コストが跳ね上がるといった試算を2022年に公表。その後、アプリケーションをクラウドネイティブに変えるなどの最適化による「モダン化」を行えば、ガバメントクラウドを利用することでコスト削減になるとして、運用コストの低減には「モダン化」が必要だという説明を後から加えた。

 これに対し、各自治体の2026年度以降の運用コストの試算や見積もりではクラウド利用料に加え、ネットワーク費用、システム利用料、保守運用費などの費用がかさむとするもので、モダン化してクラウド利用料の低減が期待できるとしても移行前よりもコスト高になる懸念が浮上した。

 政府のデジタル行財政改革会議は2023年12月20日に公表した中間とりまとめで、「ガバメントクラウドの利用料低廉化を図る取り組みを実施した」と同会議の成果をアピールした。運用コスト増の指摘に対して、デジタル庁では「自治体が事業者から取った見積もりを精緻化することで、実際にはコストが下がることもあるので、確認をしている」(同庁ガバメントクラウド担当者)とするが、依然としてクラウド利用料以外の部分で跳ね上がる運用コスト増加の懸念に対する、根本的な対策は取られていない。

デジタル行財政改革会議のとりまとめを行う岸田文雄首相
デジタル行財政改革会議のとりまとめを行う岸田文雄首相
(出所:首相官邸)
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