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メールソフト「Thunderbird」の知られざる歴史をプロジェクトマネージャーが明かす


「ネット上にはThunderbirdに関していろいろな話が転がっているけれど、肝心の部分が抜けてしまっている」ということで、Thunderbirdのプロジェクトマネージャーであるライアン・サイプス氏が「これまで外に出したことがないから誰も知らないのは当然」というThunderbirdの知られざる歴史を公式ブログで語りました。

An Untold History of Thunderbird
https://blog.thunderbird.net/2023/11/the-untold-history-of-thunderbird/


「Thunderbird」の起源は、ウェブブラウザやメールソフト、ニュースリーダー、HTMLエディタなどをひとまとめにしたパッケージ(インターネットスイート)「Mozilla」です。その後、インターネットスイートの衰退によりパッケージになっていたソフトは分割され、ウェブブラウザ部分は単体で「Firefox」になり、メールソフト部分は「Thunderbird」になりました。「Thunderbird」の正式版がリリースされたのは2004年のことです。

そこから2011年まで、Thunderbirdは最大で2000万人のユーザーを抱えつつも、それに見合った収益を上げていないという状態が続いていました。大規模プロジェクトとして開発・保守・修正・配布のコストはかかっているので、持続可能なプロジェクトにしていくために運営母体をMozilla財団からスピンオフしたMozilla Messagingに移すなどの試みがありましたが、うまくいきませんでした。


2011年にMozilla MessagingはMozilla財団のMozilla Labsに統合されて、ThunderbirdもFirefoxと同様のラピッドリリースに切り替えられましたが奏功せず、MozillaはThunderbirdの開発優先度を下げることを決定。2012年に、新機能開発はコミュニティ主体で行っていくことになりました。

サイプス氏がThunderbirdに加わったのは2017年のこと。このころ、3人の人員を雇えるぐらいの寄付が集まり、コミュニティマネジャーのサイプス氏のほか、開発者とインフラ維持担当がチームに加わりました。当時、Thunderbirdの抱える課題に対してチームは小さすぎて維持が手一杯で、しかも目指すビジョンや指針もない状態だったとのこと。

Thunderbirdに加わってすぐに評議会の財務担当になったサイプス氏によると、当時のThunderbirdは持続可能な状態にはなく、あと数年で維持できなくなるような状態だったそうです。

「これほど多くのユーザーを抱えるソフトが、このままだと本当に死んでしまう。ユーザーに助けが必要だと伝えなければ」と考えたサイプス氏は、ビジョンを定義してロードマップを策定。混沌とした状態を「組織的な混沌」へと改善していきました。同時に、ユーザーにどうすれば危機が伝わるかを相談し、ソフトを起動したときに表示されるスタートページに「ユーザーからの寄付で成り立っている」「存続のために寄付を検討して欲しい」というメッセージを表示するようにしました。


この試みは見事に成功し、ユーザーはThunderbird支援のために多額の寄付をしてくれました。また、プロジェクトそのものがMozilla財団の完全子会社であるMZLA Technologies Corporationに移管され、チームの組織化が進み、Thunderbirdの開発を困難にしてきた課題も解決されたとのこと。サイプス氏は「この部分については本が書けるかもしれないぐらいです。すべての問題を解決するのは本当に大変なことでした。しかし幸いなことに、すべてが効を奏して、より迅速に効率的な方法で、もっと多くのことができるようになりました」と述べています。

できるようになった「多くのこと」に含まれるのが、K-9 Mail Clientの統合です。サイプス氏はK-9 Mail Clientに取り組んでいるCketti氏と話をする機会があり、「もしThunderbirdにAndroid版アプリがあるとすれば、K-9 Mail Clientのようなものだろう」と思っていたそうです。話をする中で、K-9 Mail Clientも持続可能性についての課題に直面していることが分かり、サイプス氏はThunderbird評議会で議論を重ね、K-9 Mail ClientをThunderbirdのAndroid版として取り込むことを決めました。

しかし、Thunderbirdの中にはバグ修正や機能追加を困難にする、20年前の「古代」のコードの部分が残っていました。このため、2023年7月にリリースされた「Thunderbird 115」で大幅な刷新を行いました。「爆発して再構築」する必要があったため「Supernova」プロジェクトと名付けられたこの更新では、フロントエンドやメッセージリスト、メッセージ表示領域といった目立つ部分もすべて改められています。

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今後は予定通りAndroid版アプリのリリースが控えているほか、2024年までにはiOS版Thunderbirdの開発にも着手する予定だそうです。

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in ソフトウェア, Posted by logc_nt

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