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なぜHTTP/3は急速に普及していったのか、その利点とは?


2022年にインターネット技術の標準を策定する団体のIETFがHTTPの新しいバージョンとして「HTTP/3」を標準化して以降、HTTP/3の利用はウェブの世界で急速に普及していきました。HTTP/3にどのような利点があり、なぜ急速に普及したのかについてウェブに関するエキスパートエンジニアのロビン・マークスさんがAPNICのブログに投稿しています。

Why HTTP/3 is eating the world | APNIC Blog
https://blog.apnic.net/2023/09/25/why-http-3-is-eating-the-world/


GoogleやMetaなどの大企業がHTTP/3を採用しているため、GIGAZINEやAPNICのブログ記事の読み込みも含めて多くの通信でHTTP/3が利用されています。通信に利用されているHTTPのバージョンごとの推移を調査した結果は下図の通り。赤色の線で示された「v3.0」の利用率が2021年から2022年の間に伸びている事が確認できます。


HTTP/3をはじめネットワークのプロトコルでは、スマートフォンとウェブサーバーのようなネットワーク上の2つのエンティティの間でどのようにデータを通信するのかが決められています。多くの異なる企業がウェブ用のソフトウェアを構築しているため、すべてのソフトウェアが相互に通信できるよう、プロトコルを標準化する必要があります。

このとき、単一のプロトコルを使用するのではなく、ルールの異なるさまざまなプロトコルを組み合わせて使用することで柔軟性・再利用性を高めています。こうすることでWi-Fi・ケーブル・携帯回線などベースとなる経路が異なっても全く同じHTTPのルールを使用できるようになるわけです。


インターネットを支えるプロトコルの多くは1980年代から1990年代にかけて標準化されているため、現代では大きく周辺環境が変わってしまっているプロトコルが存在しています。その一つが「TCP(トランスミッション・コントロール・プロトコル)」です。

HTTP/1.1やHTTP/2では、TCPを利用して通信を行います。つまり、HTTPリクエスト・レスポンスをやりとりする前に、クライアント・サーバー間でTCP接続を確立しなくてはいけません。ところが、TCPは単一のファイルの交換を念頭に設計されたプロトコルであり、現代の数百個にも及ぶ個別ファイルの集合体からできているウェブサイトを表示するには非効率的などの問題がありました。


スマートフォンやノートPC、デスクトップPC、サーバーのほか、ルーターやファイアウォール、ロードバランサーなど多数のミドルウェアを含め、インターネット上の多数のデバイスが独自にTCPを実装しているため、TCPのルールをアップデートしても実際のデバイスに反映されるまでに何年もかかってしまいます。そこで、TCPをアップデートするのではなく、新たなプロトコルを策定することになりました。

こうして新たに登場したのが「QUIC」です。QUICはウェブ上の暗号化を担当するTLSと高度に統合されており、従来のTCP+TLSを使用する構成ではHTTPデータの中身だけが暗号化の対象でしたが、QUICではパケット番号や接続終了シグナルなどのメタデータなどを始め、通信内容のQUICプロトコル自体の部分についても大部分が暗号化されることになります。


暗号化の範囲が広がると、一般的なセキュリティやプライバシー保護の面でメリットがあるだけでなく、クライアントとサーバーの間に存在するミドルウェアが暗号化の対象となるメタデータにアクセスできないことで、将来的にQUICプロトコルのバージョンアップが必要になった場合でもクライアントとサーバー部分だけを更新すれば良いというメリットも存在しています。

さらに、QUICには増幅防止やRETRYパケットなどの機能があり、DDoS攻撃に対する防御性能も向上しているほか、TCPよりも効率やパフォーマンスが大幅に向上しているとのこと。QUICではハンドシェイクに必要な通信の回数が2回に減少したほか、「Head-of-Line Blocking」問題を解決したり、パケット損失の検出や回復の性能が向上したり、ユーザーがネットワークを切り替える場合への対処が行われたりしています。


当初はTCPをQUICに置き換え、その上のプロトコルとしてHTTP/2を利用することも考案されていましたが、TCPとQUICの違いがあまりにも大きすぎたためQUIC専用の新たなHTTPのバージョンとして「HTTP/3」が作成されました。

そのためHTTP/3とHTTP/2の違いはほぼ「QUICかTCPか」という点のみとなっています。しかし、QUICはTCPに比べてウェブページの読み込み速度やムービーをストリーミングしている際のパフォーマンスが向上しており、パフォーマンスの違いに敏感なIT大手の企業が次々と利用し始めたためHTTP/3が急速に普及していったというわけです。

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in ソフトウェア,   ネットサービス, Posted by log1d_ts

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