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「ChatGPTや画像生成AIの台頭がアーティストや知識労働者に何をもたらすのか?」について5人の専門家が回答


OpenAIによる文章生成モデルのChatGPTや画像生成モデルのDALL-Eなどを始めとしたジェネレーティブAIは、全職業の80%に影響を与えるという研究結果が示されており、特にクリエイターや知識労働者(ナレッジワーカー)には顕著な影響が出ると見られています。ジェネレーティブAIや大規模言語モデル(LLM)が今後アーティストや知識労働者にどのような影響を与え、どのような問題が起きると考えられるのか、5人のコンピューターサイエンスや情報科学の専門家が意見を述べています。

AI and the future of work: 5 experts on what ChatGPT, DALL-E and other AI tools mean for artists and knowledge workers
https://theconversation.com/ai-and-the-future-of-work-5-experts-on-what-chatgpt-dall-e-and-other-ai-tools-mean-for-artists-and-knowledge-workers-196783


アメリカのテネシー大学で副学長を務めるリン・パーカー氏は、「大規模な言語モデルにより、創造性と知識を要する仕事に誰もがアクセスできるようになります」と指摘しています。自分自身の考えを適切な文章や画像、イラストにしたり、テキストを的確に要約して分かりやすく言い換えたりといった作業は、特定の技能や知識が必要でした。しかし、ChatGPTやDALL-E 2などのツールを用いると、簡単な命令文(プロンプト)を入力するだけで、自分自身を表現したり膨大な情報を整理したりすることが可能です。

また、パーカー氏によると、ビジネス用のプレゼンテーションに使うイラスト作成や、目的の機能を実行するために新しいプログラムコードを生成するなど、人間の専門家レベルのクオリティを、初心者がジェネレーティブAIを用いてわずか数分で実現できるケースがビジネスの現場でも起きているとのこと。一方で、目的のコンテンツを生成するには的確なプロンプトが必要となるため、「よりシンプルな、全く新しい種類の創造性が必要です」とパーカー氏は述べています。


パーカー氏はジェネレーティブAIが全ての人に開放されることで大きな利点があるとしつつも、AIツールの発達には重要な欠点があるとも指摘しています。パーカー氏はライティングのスキルを「今後数年間最も重要であり続ける人間の重要なスキルの1つ」と語っており、ジェネレーティブAIが浸透していくことによりそれらのスキルの喪失が加速する可能性を懸念しています。また、AIツールが知的財産保護に関する疑問を引き起こすことも認めており、関連する訴訟が今後のLLMの設計と仕様に影響を与える可能性をパーカー氏は考えているとのこと。

コロラド大学ボルダー校でコンピューターサイエンスの准教授を務めるダニエル・アクーニャ氏もパーカー氏と同様に知的財産侵害による盗作の可能性を懸念しているほか、大小さまざまな不正確さが現れる点や、偏見が助長される点をジェネレーティブAIの不安点として挙げています。ジェネレーティブAIで生成したコンテンツは、それまでになかったアイデアや新しいソリューションを作成してくれるため、それを確認して品質を評価することで、クリエイティブな活用が可能です。しかし、生成されたコードの内容やテキストの論理を批判的に精査する目がないと、非効率なコードや明らかに間違った推論など大小さまざまな不正確さを含む結果が出力されるため、「AIツールが生成するものに対して批判的でない人にとって、そのツールは潜在的に有害です」とアクーニャ氏は語っています。

また、言語モデルはデータを偏った観点で読み取り、そこから学習して再現するため、偏見が助長されるケースがあります。ChatGPTなどの対話型AIは、不適切な質問には回答しない仕組みになっていますが、そのようなセーフガードを回避する手法も編み出されています。画像生成モデルではより顕著で、短いプロンプトから画像が生成されるために、人種や性別、職業などに関するステレオタイプな偏見が助長される傾向があるとアクーニャ氏は指摘しています。実際に、2022年11月に公開された機械学習モデルに関する論文では、「テキストから画像への生成により、人口統計上の固定観念が大規模に増幅される」ということが示されています。また、AIで生成されたコンテンツをAIが再学習することで、データを誤解したりマイノリティが排斥されたりしてしまうとの研究結果も報告されています。

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不正確さや偏見、モデルの学習が盗作にあたるという点を含め、「これらのツールは、その可能性を考えるとまだ初期段階にあります」とアクーニャ氏は述べています。一方でアクーニャ氏は、これらはすべて技術的に解決可能な問題であり、ファクトチェックやバイアスの除去、盗作検出などのツールの発達によって、より優れたクリエイティブツールとして用いることができると前向きな展望を述べています。

ミシガン大学情報学部で准教授を務める外山健太郎氏は、「テクノロジーが人間の能力を一般化して、誰でも同じような結果を生み出す助けをする」ということを認めつつ、「認知的タスクには人間の脳が必要である」という主張もテクノロジーの発展により打ち消されていると主張しています。外山氏は「コンピューターが人間の知性と出会い、それを超える瞬間であるシンギュラリティが近づいていると信じています」と語っており、人間の知性と創造性が評価される部分はごく一部だと予想しています。

例えば、1997年にはIBMが開発したチェス専用のスーパーコンピューターのディープ・ブルーがチェス世界チャンピオンを打ち負かしていますが、それによりチェスの人気が衰えているわけではありません。人間のプレイヤーには人格とドラマが伴うため、コンピューターの方が完全にうまくできるとしても、人間が行うことが重要視されるケースはあると外山氏は示唆しています。

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一方で、例えばイラストや挿絵などについては、人間によって描かれたのかコンピューターによって生成されたのかを気にする読者は多くない可能性があります。外山氏は「多くの分野は人間の能力とAIの活用とのハイブリッドになり、ニッチな分野だけが人間のみの力で作業する分野として残り、作業のほとんどはコンピューターによって行われます。AIの進歩によりさらに多くの仕事が失われ、人間特有のスキルを持つ一握りのクリエイティブ職が豊かになり、クリエイティブなテクノロジーを所有する人々が新たな大金持ちになるのはほぼ確実です」とAIの未来について語っています。


フロリダ国際大学のコンピューターサイエンス准教授であるマーク・フィンレイソン氏は、ワープロが普及してタイプライターを入力する人の仕事が消滅したように、LLMによって古い仕事が亡くなり、新しい仕事やスキルが生まれてくると予想しています。LLMがどれだけ発達しても、目的のコンテンツを出力するためのプロンプトを作成するためには、それなりの賢さが必要になっていく可能性があります。また、LLMには正誤や常識に関する抽象的で一般的な理解が含まれていないため、無警告で不適切または無意味な出力をすることがあり、結果を精査する能力が必要です。

「LLMが失敗する可能性というのは、AIに仕事を奪われると思いがちなクリエイターや知識労働者にとってチャンスとなります」とフィンレイソン氏は述べています。また、LLMおよびジェネレーティブAIは一般的な用途で作られているため、特定の市場に提供する特殊なタイプのコンテンツを生成するビジネスのためには、そのためのより深い専門知識が求められることになります。総合して、LLMはクリエイターや知識労働者に混乱をもたらす前兆であることは間違いないものの、適応していこうと努力することができれば、貴重な機会があふれているとフィンレイソン氏は示唆しています。

コロラド大学アンシュッツメディカルキャンパスの生物医療情報学教授であるケイシー・グリーン氏もフィンレイソン氏と同様に、新しいテクノロジーの飛躍が新たなスキルにつながる可能性を指摘しています。グリーン氏は「Googleの出現によってインターネット上で情報を検索するスキルが変化したのと同じように、言語モデルから最適な出力を引き出すために必要なスキルは、プロンプトとそのテンプレート作成に重点が置かれるようになります」と必要なスキルの変化について述べた上で、「AIモデルに広くアクセスできる時代には、人々が世界とどのように関わるかが変化します。問題は、社会がこの瞬間を公平性の向上に利用するのか、それとも格差を悪化させることに利用するのかということです」とAIが普及する社会の変化について語っています。

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in ソフトウェア,   ネットサービス,   ウェブアプリ, Posted by log1e_dh

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