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 本当に想定外の展開だな。何の話かというと、あまりに突然に人月商売のIT業界の崩壊シナリオが描けるようになったことだ。この「極言暴論」の古くからの読者ならよくご存じの通り、私は「人月商売のIT業界死滅論」を何度も掲げ、そのたびに赤っ恥をかいてきた。極めて精巧なロジックで論を展開したのだが、世の中は理屈通りには動かないということを強く認識させられた。ただ今回は違う。その根拠は言わずと知れたChatGPT、生成AI(人工知能)の登場である。

 改めて言うのも何だが、人月商売のIT業界の親玉であるSIerは、奇妙きてれつなビジネスモデルでお金を稼いでいる。外資系ITベンダーのように独自のプロダクトで勝負するのではなく、客のシステムをつくってあげる商売であるのは、とりあえずよしとしよう。おかしいのは、システム化提案など最も付加価値の高い領域で一切お金を取らず、付加価値のかけらも感じさせない「人月いくら」の工数ベースでお金を稼いでいる点だ。

 開発チームの技術力、プロジェクトマネジメント力などの優劣を考慮せず、プロジェクトに投入する技術者の頭数に工期を掛け合わせて料金を算出するぐらいだから、人月商売で高い料金を設定するのは不可能だ。だからこそ、SIerはIT業界の多重下請け構造を活用してコーディング作業などを担う技術者を低コストで「調達」しようとするわけだ。実際に多くの技術者が末端で70万円台、ひどいケースでは40万円台の単価でかき集められ、コーディング作業など付加価値の低い作業を担ってきた。

 そんな訳なので、いつも極言暴論で指摘している通り、日本の人月商売のIT業界は、クラウドサービスなどの形で最先端技術を競う米国のIT産業とは異質のものだ。いわば、ハイテク産業のふりをした非近代的な労働集約型産業なのである。だからこそ「人月商売のIT業界は死滅すべし」と私は主張し、近々実際に崩壊すると信じて疑わなかった。さらに言えば、業界の懲りない面々ですら「我々は変わらなければならない」と発言したりしてきた。だが、数十年の長きにわたり人月商売は生き永らえてきたのだ。

 そんな状況のなか、ゲームチェンジャーが突如現れた。ChatGPTなど生成AIである。少し前の極言暴論の記事でも指摘した通り、生成AIがそれなりに出来の良いソースコードを書いてみせるようになったことは、プログラマーなどのIT関係者にとって最大の懸念事項になった。これから先、生成AIで高品質のコーディングができるようになれば、特に人月商売のIT業界に与えるインパクトは強烈なものになる。何せコーディング作業に従事する下請け技術者の大半が要らなくなるからね。

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 実は、人月商売のIT業界に与えるインパクトはそれ以上なのかもしれない。先日、アクセンチュアが生成AIの勉強会を開くというので参加してみたら、生成AIができることとして次の6つを挙げていた。1)要求事項から設計文書を生成、2)設計文書からソースコードを生成、3)ソースコードから設計文書をリバースで生成、4)テスト計画を生成、5)ソースコードから脆弱性を検知、6)IT ヘルプデスク――。さて、いかがだろうか。実際に生成AIでどこまで代替できるのかは断言できないが、「人月商売、大ピンチ」であるのは間違いないだろう。