石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』

ゲーミングPCでの暗号通貨マイニングが終焉し、中古ビデオカードが激安に?

簡単マイニングソフト「NiceHash QuickMiner」を、あえて今動かしてみる

 PCゲームに関する話題を、窓の杜らしくソフトウェアと絡め、コラム形式でお届けする連載「石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』」。PCゲームファンはもちろん、普段ゲームを遊ばない方も歓迎の気楽な読み物です。

PCゲーマーとGPUマイニングは無関係ではいられない

「NiceHash QuickMiner」のWebインターフェイス

 ゲーミングPCは高性能なパーツに加え、3D処理のためのビデオカードが必要となるため、一般的に高価だ。特にここ2年ほどは世界情勢や半導体不足に加え、GPUを使った暗号通貨のマイニングが流行したことで、ゲーミングPCに欠かせないビデオカードが品薄になり、異常な高値になっていた。

 最近は、ビデオカードの価格はかなり下がっており、特に中古製品は逆に異様なほど安価なものも見受けられる。その理由はGPUマイニングの状況の変化にある。

 「マイニングや暗号通貨に興味はないよ」という方も多いと思うが、3DゲームとGPUマイニングが同じGPUを使用する以上、関係性は切っても切れない状態にある。GPUマイニング界隈で何が起き、なぜビデオカードの価格が急落しているのか知っておかないと、痛い目を見るPCゲーマーも出てくる可能性がある。

 今回はその辺りの事情の解説と、ゲーミングPCで簡単にGPUマイニングできるソフト「NiceHash QuickMiner」についてお話ししていきたい。

暗号通貨のGPUマイニングとビデオカードの高騰

 GPUマイニングが流行したのは、ひとえに「簡単に儲かるから」だ。GPUでマイニングできる暗号通貨は無数にあるが、その中でもGPUマイニングが最も活況だった暗号通貨が「Ethereum(イーサリアム)」、略称「ETH」である。

 暗号通貨といえば「Bitcoin(ビットコイン)」、略称「BTC」が有名だが、「ETH」は暗号通貨の時価総額において「BTC」に次ぐ第2位と人気だ。これをゲーミングPCに搭載されているGPUでマイニングすると、時価ではあるが電気代くらいは簡単に元が取れた。ごく普通のゲーミングPCをつけっぱなしにしてマイニングしておくだけで、お金が稼げる状況だったのである。

 そのため、市場からはビデオカードが買い漁られ、個人でも複数のビデオカードを1台のPCに搭載してマイニングするのが流行した。製品にもよるが、計算上は電気代を差し引いても数カ月でビデオカード代を回収できた。

 普通のゲーミングPCでも、ゲームを遊ぶ時には普通に使い、それ以外の時にはマイニングをさせるという方法が取れた。ゲーミングPCを当たり前に持っているPCゲーマーからすれば、追加投資なくお金が稼げる状態だったので、よりお得感がある。

 その結果、ビデオカードは品薄になり、市場価格は急上昇。NVIDIAはゲーミングとマイニングの需要を分けるため、ゲーミング向けのビデオカードに「ETH」のマイニングで使われるアルゴリズムを検知すると、性能を低下させる機能「Lite Hash Rate(LHR)」を追加した。ゲームで使う分には通常どおりの性能が出せるが、マイニングには不向きにしたのである。

 「LHR」はただ機能を制限するだけのもので、機能的にはユーザーに何のメリットもない。また「LHR」搭載製品の登場により、ビデオカードの市場在庫は若干改善したものの、「LHR」を解除したり、制限を緩和したりする方法が次々と編み出され、状況はいたちごっこの様相を呈した。

 その結果、ビデオカードの価格は他の要因もあってそれほど下がらなかった。GPUマイニングをする人にとっては、ビデオカードが高くともマイニングで元が取れればいいわけで、損益分岐点と思われるところまでしか価格は下がらない。

 かくしてビデオカード、およびゲーミングPCは、ここ2年ほどは非常に高価な状態が続くことになった。

「ETH」の仕様変更で、市場に溢れる質の悪い中古ビデオカード

 そんな状況が一変したのが、今年の9月15日。「ETH」で「The Merge」と呼ばれるアップデートが実施され、コンセンサスアルゴリズムが「Proof of Work(PoW)」から「Proof of Stake(PoS)」に移行した。

 詳しい説明はここでは控えるが、マイニングで報酬を得られる「PoW」と違い、「PoS」ではマイニング報酬が得られない。マイニングには膨大な計算力が求められ、世界中で大量の電力が必要になるため、エコではないという批判がある。「ETH」は「PoS」に移行することで、「PoW」の頃に比べて消費電力を劇的に下げることに成功した。

 これを個人の目線に言い換えると、これまでGPUマイニングで最も稼ぎがよかった「ETH」でマイニングができなくなった、ということになる。他にもGPUマイニングが可能な暗号通貨はあるが、「ETH」より価値が低いか、マイニング難易度が高い(なかなか報酬が得られない)ため、収益性が悪くなる。

 この結果、世界中のGPUマイニングの大半が停止。GPUマイニングに使われていたビデオカードは、GPUマイニングのために所持していた人にとって無用の長物となった。彼らは少しでも元手を取り戻すべく、ビデオカードを手放した。

 ビデオカードは中古市場に大量に供給され、価格が下落。また、NVIDIAやAMDからGPUの新製品が発表・発売される時期にも重なり、相対的に価値が下がる古いビデオカードは、さらに叩き売られることになった。ハイエンドのビデオカードを必要としないPCゲーマーにとっては、これまで高値で推移していたビデオカードが、中古とはいえ急に激安になったのは、とても魅力的に感じるだろう。

 ただし、ここに大きな落とし穴がある。GPUマイニングでは、ビデオカードを長期間無休でフルパワー稼働し続けることになるが、これは本来想定されていない劣悪な使用環境だ。一見普通に動くように見えても、製品の各所にダメージを抱えていてもおかしくはない。

 また、マイニング需要が世界的に高かったことから、元から粗悪な製品が混じっている可能性は大いにある。一定の検品を行う中古パーツショップで買うならまだしも、オークションやフリマなど個人間取引で妙に安いものは注意した方がいいだろう。

お手軽マイニングソフト「NiceHash QuickMiner」を動かしてみる

NiceHashのホームページ

 では、現在のGPUマイニングはどんな状況なのかを知るべく、マイニングソフト「NiceHash QuickMiner」を試してみたい。

 本ソフトを提供するNiceHashは、マイニングパワーを購入したい人と、マイニングパワーを売りたい人を仲介するサービスを提供している。マイニングをする側である個人から見ると、マイニングに必要な計算力を提供し、その対価として「BTC」を受け取れる。

 「NiceHash QuickMiner」は、インストールして実行するだけで暗号通貨のマイニングができる(実際にはマイニングパワーを売れる)というもの。暗号通貨に関する知識は必要なく、マイニングに適したGPUのチューニングも半自動で行える。マイニングパワーの提供先はNiceHash側が自動で選ぶため、高い買い手を探す手間もない。計算力に応じて「BTC」を受け取れるため、マイニング報酬の当たり外れのようなリスクもない。

 「ETH」の「PoS」移行前は、本ソフトは「Dagger Hashimoto」というアルゴリズムで「ETH」をマイニングするだけだった(報酬は「BTC」で受け取る)。現在は、ほかに3つのアルゴリズムが追加され、計4つのアルゴリズムのうちで最も収益性の高いものを自動で選んでマイニングできる。

「NiceHash QuickMiner」のウインドウ。設定はここにはなく、Webインターフェイスを使うのが基本
「NiceHash QuickMiner」のテキストウインドウ。実行内容のログが表示される

 さて、肝心のマイニングの収益。筆者所有の「GeForce GTX 1080」で1時間ほど動かしてみたところ、1日の予想収益が“0.00000288BTC”となった。収益にはばらつきがあるため、瞬間的にはこの数倍になることもあるが、平均して数倍ということはなさそうだ。

 “0.00000288BTC”を現在のレートで日本円に換算すると、6.68円。1日かけて10円にもならない可能性がある。消費電力はビデオカードだけで100W前後あり、PC全体だともう少し増えることを考慮すると、電気代はおそらく100円くらいはかかる。これでは電気代すら捻出できず、完全に赤字である。

マイニング収益の推移もWebから確認できる。筆者の環境だと電気代もペイできない

 「ETH」がまだマイニングができた頃には、「PoS」移行直前の頃でも1日100円程度は収益が出ていたので、やはり「PoS」移行のタイミングで劇的に収益性が悪くなったようだ。暗号通貨は将来的にとんでもなく値上がりする可能性もあり、その時を期待してマイニングするという手はある。ただ現時点では、以前ほどお手軽にマイニングで収益を上げられなくなったのは確かだ。

 ビデオカード高騰の最大の要因であったGPUマイニングがほぼ終焉を迎えた様相なのは、PCゲーマーには歓迎されるだろう。ただ昨今の歴史的な円安や半導体の需要供給の推移、ロシアのウクライナ侵攻や新型コロナウイルスに絡む世界的インフレと、先行き不透明な要因は複数ある。PCゲーマーがビデオカードやゲーミングPCを買う最適なタイミングは、残念ながらまだしばらくは読めない状況が続きそうだ。

著者プロフィール:石田賀津男(いしだ かつお)

1977年生まれ、滋賀県出身
ゲーム専門誌『GAME Watch』(インプレス)の記者を経てフリージャーナリスト。ゲーム等のエンターテイメントと、PC・スマホ・ネットワーク等のIT系にまたがる分野を中心に幅広く執筆中。1990年代からのオンラインゲーマー。窓の杜では連載『初月100円! オススメGame Pass作品』、『週末ゲーム』などを執筆。

・著者Webサイト:https://ougi.net/

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