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「正直バブリー」 地方の中小企業がAWS導入でビジネスチャンスを逃さなかった話

» 2022年11月22日 08時00分 公開
[吉川大貴ITmedia]

 大企業では一般的になりつつあるクラウドインフラの活用。今や基幹システムの基盤やサービスの提供基盤として「Amazon Web Services」(AWS)や「Microsoft Azure」といったクラウドサービスを使うのは当たり前になりつつある。一方、中小での利用はまだ多くない。地方の企業となるとなおさらだろう。

 しかし、中にはIT専任者すらいない地方中小にもかかわらず、AWSを活用してビジネスチャンスをものにした企業もある。イベント写真のWeb販売を手掛けるエデュクリエーション(青森県八戸市)もその1社だ。同社はサービスの提供基盤をクラウド移行していたことで、突発的なビジネスチャンスを逃さずに済んだという。

photo エデュクリエーションの中嶋直昭代表

 現状について「正直バブリー」と話すのは同社の中嶋直昭代表。エデュクリエーションはいかにしてAWSでビジネスチャンスをつかんだか。中嶋代表と、AWS活用を支援するSIer・ヘプタゴン(青森県三沢市)の立花拓也代表取締役社長に聞いた。

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社員は2人 青森の地方中小がAWS移行した背景

 エデュクリエーションは2010年創業。八戸市を拠点に、塾の運営やオンライン写真販売サービス「思い出フォト」を手掛けている。社員は中嶋代表を含め2人。カメラマン・講師は業務委託などで、IT専任者はいない。

photo 思い出フォトの公式サイト

 もともとは塾のみを手掛けていたが「塾は夜の仕事で、昼が空いていた」(中嶋代表)ことから思い出フォトを立ち上げたという。思い出フォトはスポーツイベントや運動会などの写真を撮影し、参加者向けにWebサイト上で販売するサービスだ。ユーザーはWebサイト上のサンプルを閲覧し、欲しい写真を選んで購入できる。写真は1週間以内に郵送する。

 「スポーツが好きで、何かできないかなと考えていた。開業当時はファクシミリでの注文販売が主流だったが、ネット販売ならコストもミニマムで済むと考えた」(中嶋代表)という。当初、提供基盤はオンプレミスだったが、2013年ごろにAWSに切り替えた。

 移行のきっかけは当時参加した異業種交流会で、自社と同じく青森県が拠点のヘプタゴンを知ったことだった。当時、オンプレサーバの運用に使っていたサービスはサポートが親切でなく、問い合わせへの対応が十分でなかったと中嶋代表。

 「私自身もネットワークやサーバに詳しいわけではない。近くにいて、顔を合わせて話しやすいと思ってヘプタゴンさんにお願いすることにした」(中嶋代表)。ただ、AWS移行自体は中嶋代表が決めたことではなく、ヘプタゴンの判断という。

「正直バブリー」 クラウドの利点でチャンスをものに

 ヘプタゴンが思い出フォトの提供基盤をAWS化しようと考えたのは、同サービスでは突発的なアクセスが発生しやすかったからだ。思い出フォトはスポーツイベントや運動会の写真を販売するサービスなので、大規模なイベントがあった後は大量のアクセスが発生しやすいという。イベントが集中している時期だとなおさらだ。

 思い出フォトでは土日開催のイベントで撮った写真を、次の金曜日にサイトに掲載することも多い。そうすると特定の時期にアクセスが集中しやすいので、サーバの規模などを柔軟に変更しやすいクラウドが適していると考えたという。

 クラウド化の効果について「アクセスが集中してもサーバが落ちるようなことがなくなって助かっている」(中嶋代表)。一方で、中嶋代表は最近になってその恩恵をさらに感じるようになったという。原因はコロナ禍だ。

 「コロナ禍で全く大会が開催されず、最近やっと再開されるようになった。再開後は参加者が『今買っておかないと』と思うようになったのか、写真が売れるようになった。注文数も客単価も増え、正直バブリー。若いお母さんが買ってくれている」(中嶋代表)。突然のチャンスだったが、機会損失をせずに済んだという。

大手のような機能も実装 AI活用の検索も可能に

 AWS導入の利点は他にもあった。大手の競合が提供しているような機能を自社でも用意できたことだ。思い出フォトでは2020年ごろ、写真に写っているゼッケンの番号から画像を検索できる機能を追加した。ユーザーからの問い合わせも多く、実装したかった機能という。

 こちらも開発はヘプタゴンが担当。AWSが提供する画像・動画分析AIサービス「Amazon Rekognition」を使って開発した。Amazon Rekognitionはあらかじめ訓練されたAIを使えるサービスだ。写真や動画から顔を検出する、テキストを検出するといった用途で使える。

photo ヘプタゴンの立花拓也代表

 独自にAIを開発する選択肢もあったが、予算が数十万円程度だったことから、Amazon Rekognitionを使うことにしたと立花代表。「Amazon Rekognitionはまだ日本語の認識に弱いが、ゼッケンは英数字が多いので、相性が良いとも考えた」(立花社長)という。

 クラウドを使い、フットワーク軽くビジネスチャンスに対応している思い出フォト。中嶋代表は今後、顔識別を活用した画像の検索機能も搭載したいという。こちらも大手が提供している機能だ。「スポーツによってはゼッケンでの識別がしにくいイベントもある。予算次第だが、やれるなら次は顔識別かなと考えている」(中嶋代表)

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