変化が激しく先行き不透明の時代には、私たち一人ひとりの働き方にもバージョンアップが求められる。必要なのは、答えのない時代に素早く成果を出す仕事のやり方。それがアジャイル仕事術である。『超速で成果を出す アジャイル仕事術』(ダイヤモンド社、6月29日発売)は、経営共創基盤グループ会長 冨山和彦氏、『地頭力を鍛える』著者 細谷 功氏の2人がW推薦する注目の書。著者は、経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)で、IGPIシンガポール取締役CEOを務める坂田幸樹氏だ。業界という壁がこわれ、ルーチン業務が減り、プロジェクト単位の仕事が圧倒的に増えていく時代。これからは、組織に依存するのではなく、一人ひとりが自立(自律)した真のプロフェッショナルにならざるを得ない。本連載では、そのために必要なマインド・スキル・働き方について、同書の中から抜粋してお届けする。

「老害にならない人」の特徴とは?PDCAよりも今の時代に合った思考法Photo: Adobe Stock

人は、なかなか習慣を変えられない

 人は、一度習慣化したことをなかなか変えられません。皆さんも、以下のような声を聞いたことがあるのではないでしょうか。

 ●俺の若いころはお客様と毎晩飲みに行って信頼を得たものだ。今の若手は昔ながらの営業手法も身につけるべきだ

 ●我が社は、世の中にまだないイノベーションを生むことでお客様に感動を与えてきた。もう一度創業時の精神を思い出そう

 ●石の上にも三年と言うように、どんな仕事も身につけるには自ら年月を費やして習熟度を高めるしかない

 これらの声が一概に間違っているという訳ではありませんが、社内外の環境の変化は突然起き、これまでの常識が突如として通用しなくなることがあります。

 例えば、ここ数年では新型コロナウィルスによって環境が大きく変わりました。その変化によって、都心の外食店は淘汰されたかもしれませんが、オンラインで地方の珍しい食材を売っている企業への特需が発生したりしました。

 地方の不動産価格が上がり、過疎化していた田舎がスマートシティへと変貌を遂げることがあったりもします。

 また、自社が中国企業によって買収されて、突然明日から上司が中国人になるかも知れません。そうすると、これまでに培ってきた報告の方法や意思決定の方針も大きく変わるでしょう。

 ただ、これらはあくまでも短期的に起きている変化で、10年単位の長いスパンで考えると、より大きな構造変化が起きることが予想されます。

PDCAから新しいものは、生まれない

 では、大きく変化する環境で生き残るには何をすべきなのでしょうか。そのためのポイントは、現状を改善するのではなく、未来を創造することです。

 多くの企業が過去の分析をもとに3年間の中期経営計画をつくります。

 それ自体は悪いことではないのですが、3年という短いスパンで考えると、既存の延長で計画を作成することになります。実際、多くの企業で昨年対比数%成長という目標を作成しているのではないでしょうか。

 また、日本企業の特技の一つにPDCAというものがあります。PDCAによって改善を繰り返していくと、品質の高いものを、安く、早く提供することはできるようになりますが、前述の突然の環境の変化に対しては、最も脆弱になってしまいます。

 例えば、日本で全面的に配車アプリのウーバーが解禁されたらどのような変化が起きるでしょうか。ウーバーの初乗り価格が300円に設定されていたら、タクシー業界は大打撃を受けるでしょう。バスや電車などの公共交通機関からウーバーに乗り替える人たちも出てくるでしょう。さらに、自動運転が当たり前の時代が訪れたら、今度は、ウーバーで生計を立てていた人たちが職を失うことになります。

 既存の業界、既存の組織、既存の制度に対して最適化していくことはゴールが決まっているときや平時には有効ですが、VUCAの時代にはデメリットしかありません

 過去をもとに改善していくと、いくら頑張っても2~3年後の改善計画しか作成できません。思い切って10年後を構想してみましょう。

足し算思考ではなく、引き算思考をする

 私たちは、既に保有しているものをもとに思考しがちです。そのほうが簡単ですし、メリットが見えやすいという特徴があります。

 例えば、皆さんが過去に保有していたガラケー(ガラパゴス携帯)を思い出してください。おそらく、たくさんの機能がプレインストールされていたと思いますが、すべてを使いこなしていた人は多くなかったでしょう。

 家にあるテレビのリモコンには、ボタンがいくつあるでしょうか。コンビニの店頭に表示されている決済手段は、いくつあるでしょうか。

 PDCAによる改善を繰り返していくと、いまあるものをより良くするための思考になりがちです。これらはすべて足し算思考です。

 それに対して、10年後を構想するために必要となるのは、引き算思考です。「老害」にならずに、過去の経験にとらわれず常に新しいものを取り入れている人は、変化に敏感なのではなく、引き算思考が得意な人だといえます。

 足し算思考と引き算思考の特徴を、下図にまとめたので参照してください。

アジャイル仕事術』では、引き算思考を身につける方法以外にも、働き方のバージョンアップをするための技術をたくさん紹介しています。ぜひご一読ください。

坂田幸樹(さかた・こうき)
株式会社経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)、IGPIシンガポール取締役CEO
早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト&ヤングに入社。日本コカ・コーラを経て、創業期のリヴァンプ入社。アパレル企業、ファストフードチェーン、システム会社などへのハンズオン支援(事業計画立案・実行、M&A、資金調達など)に従事。その後、支援先のシステム会社にリヴァンプから転籍して代表取締役に就任。退任後、経営共創基盤(IGPI)に入社。
2013年にIGPIシンガポールを立ち上げるためシンガポールに拠点を移す。
現在は3拠点、8国籍のチームで日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。
IGPIグループを日本発のグローバルファームにすることが人生の目標。
細谷功氏との共著書に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(ダイヤモンド社)がある。
超速で成果を出す アジャイル仕事術』(ダイヤモンド社、2022年6月29日発売)が初の単著。