AdobeのFigma買収とAdobe XDのこれから

2022年9月15日に、AdobeがUIザインツール「Figma」を買収する意向であることが発表されました。

これに関してWebデザイン勉強中の方などが「これからFigmaとAdobe XDのどちらを勉強するべき?」と困っているツイートを拝見したのでそれに対する私なりの回答と、

  • Webデザイナー・UIデザイナーたちの反応や温度感
  • Web業界の方が意外と見落としている事
  • 脱Adobeしたい方のためのガイド

などについてまとめてお話ししたいと思います。

なおこの記事に関しては事実だけでなく、私の予想や、私の周囲のWeb制作者の方の反応や予想なども含まれることをあらかじめご了承ください。

追記: Adobeの製品一覧からXDが消滅し、Adobe XD公式ページは消滅

Adobe XD公式ページだったURLは「ラーニングとサポート」という簡素なページに変わっています。
2022年12月までは公式ページで、2023年1月にサポートページに変わったようです。

Adobe XD ラーニングとサポート

Webデザイナー・UIデザイナーたちの反応や温度感

私の観測範囲では、8割〜9割のWebデザイナー・UIデザイナーの反応はネガティブ(否定的)なものでした。

デザインと直接関係がないWebマーケティング関係の方などの反応はポジティブ(好意的)でもネガティブでもない反応が多かったように思います。

Yahoo!リアルタイム検索では、76%程度の方がネガティブな反応ということになっています。

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なぜデザイナーがAdobeによるFigma買収にネガティブな反応しているのか

まず、Figmaの特徴をまとめると以下のような感じです。

  • Figmaの開発スピードはとても速い(Adobe XDや、その他のAdobe製品よりも圧倒的に速い)
  • Figmaの動作はかなりサクサク
  • Figmaのネイティブファイルはオープン(JSONと呼ばれる型式)

続いて、一般的なAdobe製品の特徴をまとめると以下のような感じです。

  • 開発スピードはとても遅い
  • 動作はもっさり
  • ネイティブファイルの形式はクローズド(Illustrator(.ai)形式は非公開、Photoshop(.psd)形式はおおむね公開されているものの、テキストレイヤーなど一部の仕様は非公開)

「Adobe XDの開発スピードは速いし、動作も速いじゃないか」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、Figmaはそれよりも圧倒的に開発スピードが速いです。
そして世界中にユーザーが多いので、プラグインの開発も活発です。

また、速さに関しては、日本でAdobe XDを普及するために尽力していたAdobe Japanの轟さんは「Adobe XDは、Adobe製なのに動作が速い」とおっしゃっていました。
つまり、それ以外のアプリは速くはないということです。

まとめると、FigmaがAdobeに買収されると、他のAdobeアプリのようになってしまうのでは?と懸念しているデザイナーが多いということです。
また、Adobeは 過去に色々あった ため、「約束を守らない企業」と認識しているデザイナーの方もいらっしゃるようです。

AdobeやFigmaのプレスリリースには「これまで通り独立を保ちます」といったことが書かれていますが、デザイナーはほとんど誰もそれを信じていないというのが現状です。

Figma側のプレスリリース: A new collaboration with Adobe(アドビとの新たなコラボレーション)
Google翻訳すると、「これまでと同じように Figma を運営し続けることを計画しています」と書かれています。

海外のデザイナーの反応は?

海外のデザイナーの反応はもっと直接的で、たとえば以下のFigmaファイルでは共同でFigmaがAdobeに買収されたことを悲しんでおり、ファイル名は “♥R.I.P Figma♥”(Figmaのご冥福をお祈りいたします)となっています。

※私はFigmaがAdobeに買収されたからといって、即座にFigmaがサービス終了するとは思っていません。ただ、アップデート速度が遅くなるなどゆっくりと時間をかけて衰退していったり、次第にユーザーが離れてしまうことはあり得ると思っています。

Adobe XDはどうなる?

Web制作者の方のツイートを見ていると「Adobe XDがFigmaのようにWebブラウザーで動くようになるのでは」とか「Adobe XDがFigmaのように開発が活発になるのでは」と期待している方もいらっしゃるようですが、私はそうは思っていません。

私の予想としては「今後の大きなアップデート(新機能の追加)はほとんどないだろう」と予想しています。

Adobe XDは「毎月アップデートする」と発表されていましたが、2021年後半からアップデート頻度が落ち始め(新機能なし、バグ修正のみの月があるなど)、2022年4月以降はアップデートが1度もありません。
つまり、事実上開発がストップしています。

参考: UXデザインツール、Adobe XD (Preview) は毎月アップデート ー 気になる今後の追加機能は?
「今後毎月、Adobe XDのアップデートを提供する予定です」と書かれた記事

参考: 最新の製品アップデートおよび最新バージョンの機能 | Adobe XD
記事執筆時点で、最後のアップデートは「XD50 2022年4月11日」となっている

Figma関係者の方たちの発言を見ていると、「Adobeが接触してきたのが数ヶ月前」だそうなので、「Figmaを買収できる可能性があると分かった時点でAdobe XDの開発を一旦ストップした」と考えるのが自然ではないでしょうか。

Adobe XDのシェアについて

日本国内だけを見ていると、Adobe XDはWebデザインやUIザインで大きなシェアを持っているように見えるかもしれません。

しかし、全世界で見ればAdobe XDは完全にFigmaに負けています。
最近UIザインやWebデザインアプリのシェアではFigma一強です。
(2つのツイートが連続しているものは、下のツイートをご覧ください)

デザイナーに人気のアプリ(デザインツール以外を含む)では圧倒的1位です。

そして最近では、Adobeは株価の低迷が続いていました。
Bloombergの記事によると「Adobeは、年初から株価の 3 分の 1 以上を失い、テクノロジーの低迷に打ちのめされています。投資家は Adob​​e のクリエイティブ ソフトウェアの優位性についてますます懐疑的になっており、同社はより消費者に優しい製品への拡大を目指しています」とのことです(英文記事のGoogle翻訳)。

Googleで[Adobe 株価]で検索し、[年初来]を表示したスクリーンショット

英文記事: Adobe (ADBE) Near Deal to Buy Online Design Startup Figma, Sources Say – Bloomberg

このような状況で、Adobeは「Figmaを買ったし、これからAdobe XDの開発をまた活発にするか!」となるでしょうか?
私は、そうはならないだろうと思います。

国内メディアの予想

この件に関する「窓の杜」の記事には、Adobe XDに関して以下のような予想が書かれています。

Adobeは「Adobe XD」という「Figma」の競合アプリを抱えているが、今年の4月の「バージョン 50」以降、大きなアップデートは実施されておらず、今後は「Figma」に統合・吸収されていくものと思われる。

関連: Adobe、Figmaを約200億ドルで買収 ~WebベースのUI共同デザインツール – 窓の杜

つまり、窓の杜の方は「Adobe XDは今後なくなる」と予想されています。

FigmaとAdobe XDのどちらを勉強すべきか?

ここまでお読みいただければわかると思いますが、私はFigmaを勉強する事をおすすめします。

Figmaは現在世界シェア・機能の豊富さのどちらで考えてもNo.1のUIデザインツールです。

これまでFigmaはメニューやボタン等の文字列が英語であったため、日本のデザイン初心者には親しみにくいと感じる方も多かったと思いますが、最近日本語化され、ヘルプドキュメントなども日本語になりました。

Adobe XDの勉強を止めるべきか?

では逆に、「Web制作勉強中の方で現在Adobe XDの勉強をしている方が、今すぐにAdobe XDの勉強を止めるべきか?」と聞かれたら、そこまでではない(Adobe XDの勉強は続けて良い)と思います。

おそらく今後、Adobe XDのアップデート頻度はかなり落ちるでしょう。
しかし、すぐに使えなくなるというわけではなく、日本国内のAdobe XDのシェアが急にゼロになるということもありえないでしょう。

私のWebデザインスクールでは現在Adobe XDも使用していますが、今後デザインスクールの内容をリニューアルするときはFigmaを使用すると思います。

しかしながら、しばらくの間はAdobe XDの需要もあると思うので、需要があればどちらも平行して開催する期間を設けることも検討しています。

Web業界の方が意外と見落としていること

Fireworksの開発終了に関して

Web業界の方のツイートを見ていると、AdobeがMacromediaという企業を買収し、Macromediaの製品だった「Fireworks」というWebデザインツールの開発が終了してしまったことを思い出した方が多いようです。

そして、「Fireworksの開発終了の恨みを忘れない」という流れでAdobeのFigma買収に懸念を示している方が多いように見えます。

ただ個人的にはその文脈でAdobeを叩くのはちょっと違う気がしていて、「Fireworksは明らかに当時のWeb制作に向いておらず、開発終了は必然だった」と考えています。

たとえば、Fireworksは長い間標準のカラーピッカーが「Webセーフカラー」と呼ばれる256色でしたが、Webセーフカラーというのはディスプレイの色が非常に少なかった時代(1990年代頃)の名残であり、それが2010年を過ぎてもまだ標準のカラーピッカーなのは明らかにおかしいと思っていました。

私はFireworks関連で文句を言うのなら開発が終了してからではなく、「10年以上も基本的な機能が改善されないまま販売され続けていること」に対して文句を言うべきだったと思います。

つまり、Adobeだけが問題なのではなく、それ以前のMacromedia時代から開発が事実上止まっていることが問題だったと思っています。

追記: 以下のインタビュー記事には “元Macromediaの人たちの話によれば、Adobeに買収される前から、Fireworksの開発停止はすでに計画されていたそうなのです” と書かれています。

関連: 「FigmaはAdobeに統合される?」 Figma CEOに直撃、2.9兆円の買収提案に乗ったワケ(1/3 ページ) – ITmedia NEWS

脱Adobeしたい方のためのガイド

Figmaをご利用の方、あるいはこれから乗り換えようと思っていた方の中には脱Adobeしたい、つまり「Adobe製品の利用をやめたい」とか「Adobe CCを解約したい」と思っていた方もいらっしゃると思います。

他社のアプリでFigmaと完全に同等の機能を有するものは残念ながら現状存在しません。

しかし、Twitterなどでいくつか替わりになりそうなアプリの候補を教えていただきました。

Penpot – Design Freedom for Teams

PenPotは、一言で言うと「無料でオープンソースのFigmaクローンアプリ」です。
共同編集にも対応しています。

公式サイトの動画

私はFigma代替としては今のところこのアプリにもっとも注目していて、その理由はオープンソースだからです。

3DCG業界でもAdobeによる独占と同じような状態が続いており、普及した3DCGアプリは次々にAutodeskという会社に買収されています。
しかし、Blenderという統合3DCGアプリは多機能で広く普及しているにも関わらずAutodeskに買収されていません。

企業ではなくオープンソースコミュニティによって開発されているアプリは、買収しづらいのではないかと私は思っています。

とりあえずPenPotのページの一番下にあるニュースレターに登録しておきました。
今後使用してみて、Figmaと比べてどのようなメリットやデメリットがあるのか調査したいと思っています。

追記: 以下のツイートのある通り、Penpotが月次で5600%成長しているそうです。海外でFigma代替として期待されているのかもしれません。

Lunacy – Free Design Software for Win, Mac, Linux

私はLunacyを2017年頃から知っていて、その当時は「SketchのファイルをWindowsで見るためのビューワ」だと思っていました。
しかし、いつのまにかFigmaと似たアプリになっていました。

海外では、Lunacyを使い続けるという方やLunacyへの乗り換えを検討している方もいらっしゃるようです。

以下のツイートの画像では、FigmaやSketch、Adobe XDとの比較が載っています。

次世代のデザインコラボレーションツール – Pixso

このツールに関しては、以下のQiitaの記事で知りました。
Auto LayoutやComponent、Design Tokenの管理、リアルタイムの共同編集、バージョン管理、プロトタイプ機能、そして日本語対応って凄いですね。

関連: 【UI/UX】Figmaの代替アプリの筆頭!「Pixso」を使ってみた!!! – Qiita

一瞬「もうこれでいいのでは?」と思ったのですが、この記事からPixso公式サイトへのリンクのURLをよく見ると、いろいろなパラメーターが付いていることに気づきました。

https://pixso.net/jp/?utm_source=Qiita&utm_medium=influencer&utm_term=DEGU&utm_campaign=japan-blog-promotion&_channel_track_key=lwhxZEiS

パラメーターの influencer, japan-blog-promotion などの文字列が何を意味するのか私には分かりませんが、あまりお近づきになりたくはないかな、と思いました。

その後、ちょっと気になってPixsoを紹介している日本語記事を検索したところ、以下のnoteの記事も見つけました。

関連: 新進気鋭のUIデザインツール「Pixso」の特徴と機能を紹介!|こにゃ|note

この記事はQiitaとは別の方が書かれたもののようですが、この記事からPixso公式サイトへのリンクのURLをよく見ると、似たようなパラメーターが付いていることに気づきました。

https://pixso.net/jp/?utm_source=note&utm_medium=influencer&utm_term=Konya&utm_campaign=japan-blog-promotion&_channel_track_key=yJ5HdH7X

ただ、こちらの記事では記事の末尾に「*本記事は株式会社ピクソー様からのご依頼により執筆しています。」とPR記事であることがきちんと明記されており、Pixsoの運営企業がいわゆるステマを推奨しているわけではなく、Qiitaの記事がたまたまPR表記が漏れていただけかもしれません。

Affinity Designer / Affinity Publisher

先に申し上げておくとAffinity DesignerやAffinity PublisherはFigmaのように共同編集するためのアプリではありません。

しかし、個人事業主や企業のWeb担当者など、一人ですべての作業をおこなっているデザイナーにとっては乗り換え候補になるかもしれません。

このブログではAffinity PublisherをPhotoshop・Illustrator・Adobe XDの3つのアプリのように使用してWebデザインをおこなう方法について以前に記事を書いています。

なお、現在Affinity Designer / Affinity Photo / Affinity Publisherの3つのアプリは以下のサイトで29%オフのセール中です。

Affinity – Download GoGo!

終わりに: 新しいツールを試すことを諦めないでほしい

今回の買収で少なからずショックを受けている方も多いようで、「もう脱Adobeしても無駄」「Affinity Designer使おうと思っていたけど、これも買収されるかも?と思うと使えない」といったツイートも拝見しました。

しかし、Web制作者やUIデザイナーが新しいツールを使うのをやめたり購入しなくなってしまうと、新しいツールが育たなくなってしまい、ますますAdobe 一強の時代に突入してしまいます。

今回の買収でショックを受けた方ほど、新しいツールを試したり、購入したり、他の方に薦めるのをためらわないで欲しいと切に願います。

なお、余談ですがAffinity Designerの公式アカウントはFigma買収の翌日に「誰にもうちを買収させはしないぜ😎」というツイートをしています。

https://twitter.com/affinitybyserif/status/1570728566350020608

Sketchの公式WebサイトでFigmaとSketchの比較ページには、「独立」を意味する Independent という項目が追加されました。

Sketch vs. Figma ページより

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