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 今回の「IFA 2022」(2022年9月2~6日、ドイツ・ベルリン)で大きな注目を集めたトレンドの1つがスマートホームである。もちろん、スマートホームに関する展示はかなり以前からあった。しかし、業界関係者の期待とは裏腹に、普及とはほど遠い状況にあるのが実態だ。

 その大きな要因の1つに相互接続性がある。スマートホームの規格が乱立して相互接続性がないために、ユーザーにコストアップに見合うだけの利便性を提供できていなかった。しかし、この状況が大きく変わる可能性が出てきた。スマートホームの統一接続規格「Matter(マター)」が、2022年11月ごろにも公開される見通しだ(図1)。IFAでスマートホームが注目を集めた理由はそこにある。

図1 Matterのロゴ
図1 Matterのロゴ
今回のIFAではスマートホーム関連製品を展示するホールのあちらこちらでこのロゴが見られた(写真:日経クロステック)
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 Matterは、無線通信規格標準化団体のCSA(Connectivity Standards Alliance、旧ZigBee Alliance)が2021年5月に発表したオープンな通信規格である。IP(Internet Protocol)ベースのプロトコルで、安全かつ堅牢(けんろう)にさまざまなノードを接続できる。これまで異なるプロトコルで動作していた機器同士の通信を可能にするとともに、機器を一元的に管理する。

 つまり、これまで異なるプラットフォーム上の機器は異なる言語で話していたが、Matterでは共通言語で話す(通信する)ようになるのだ。

 Matterの最大のポイントは、米Apple(アップル)、米Google(グーグル)、米Amazon.com(アマゾン・ドット・コム)、韓国Samsung Electronics(サムスン電子)など世界のIT(情報技術)大手企業など250社以上が対応を表明していることだ。

 例えばMatterに対応したスマートホーム製品を購入したユーザーは、アマゾンの「Alexa」やグーグルの「Googleアシスタント」などさまざまな音声入力機能を使って操作できるようになる。これまでは、自分がAlexaを使うのか、Googleアシスタントを使うのかによって、対応製品を選ぶ必要があった。

 「パソコンの周辺機器のように消費者が何を買ってもつながるようになるだろう」と、Matterに対応する予定の電気機器・産業機器大手のフランスSchneider Electric(シュナイダーエレクトリック)の説明員は話す。

 一方、スマートホームのデバイスメーカーにとっては、自社の製品をMatterに対応させれば、これまでのように各社のプラットフォームに個別に対応させる必要がなくなる。

 Matterが対象とするデバイスは、コンセントや電球、サーモスタット、ドアロック、セキュリティーシステムなどである。デバイスメーカーはMatterのソフトウエア開発キット(SDK)が2022年11月に公開されたら、使用料なしに自社デバイスをMatterのエコシステムに組み込めるという。

 最初にリリースされるMatterプロトコルはWi-Fi、もしくはThreadのネットワークレイヤーで動作し、通信にBluetooth Low Energyを使うという。Threadは、グーグル(厳密にはNest Labs(ネスト・ラボ))が主導するスマートホームなどに向けた無線通信規格である。