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64歳で起業 Mマート社長に聞く「アジャイル人生」

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日経ビジネス電子版
人生100年時代と言われるが、この言葉を前にして、あまりの時間軸の長さに戸惑いを覚えるビジネスパーソンも多いのではないだろうか。食材や厨房機器、食器などを「B to B(企業向け)」で取引する業務用卸サイトを展開するMマートの村橋孝嶺社長が、起業したのは64歳のころ。81歳で東京証券取引所マザーズ市場(現東証グロース市場)上場を果たし、86歳となった今も出社して、経営の指揮を執る。60歳を過ぎてなお、当時、黎明(れいめい)期だったインターネットに強い関心を抱いて、起業を果たした。人生100年時代をいち早く先取りした村橋社長に話を聞いた。

――起業のきっかけは何でしたか。

「創業したのが1999年末です。私もいろいろな商売をしてきましたけれども、中でも常にやってきたのが飲食店で、私の本業みたいなものなんです。当時は新宿でいくつかの店をやっていましたが、現在のままの流通で果たして続けていけるのかと思ったのが原点ですね」

――仕入れに限界を感じていたと。

「といいますのが、配達に来る男の子しか、売り手との接点がないわけですよ。そうすると持ってきたものについては知っているけれども、ほかにはどんな商品があるのと聞いたって分からないわけですよ。ほかにどんなものがあるか教えてよと言ったら、チラシみたいなものを持ってきたりするんですけれども、まったく要領を得ない」

「物流の上から流れてきたものを使って、飲食店がメニューを作らなければしょうがないというのがそれまでの飲食業界の在り方だったんですね。自ら食材を探し求めて、新しいメニューを考案するなんていうのは、システム的に難しい状況だった。お米にも混ぜ物をされたりといったこともありました。まったく今のこの流通で果たして今後日本の飲食業界、流通業界はやっていけるのかなという疑問がものすごくあった」

――そして、食材や厨房機器、食器などの流通の改善にネットを活用することを思いつくわけですね。

「私は本が好きで、ずっと読んでいるものですから、これからはネットの時代が来ると、すべてがネットに置き換わっていくというのは、知識としては持っていたわけですね。でも、パソコンも見たことはないし、ネットももちろん見たことはない。そこで息子を呼んで、『お前、パソコンを持っているか』と聞いたら、『ノートパソコンがあります』ということで、すぐにネットを見せろと言ったら、つながないと見られませんよと言われた。当時は何も知らないですから(笑)」

「ADSLか何かでつないで、すごく遅いやつでしたが、初めて99年の年末にネットというのを見たんですけど、ちょっと食材の卸のところを見ようと思ったら、金を払わないと中に入れませんというわけです」

――会員制だったということですか。

「ええ。食品スーパーに入るのに入場料を取るような、そんなことが通用するのかみたいな。でも見えないんじゃしょうがないということで、息子に年会費を6万円ほど払いに行かせて」

――年会費が6万円もしたんですか。

「そうなんですよ、払わなきゃ入れないんですよ。それで中に入ってみたら、ネットのことは分からないけれども、中小企業が使えるようなサイトじゃないということはすぐに分かった。これは大企業同士が見積もりを出すなど何回もやりとりをした後に、じゃあ、取引を始めようかというような仕組みのように見えたんです」

「でも日本の場合、99.7%が中小企業ですよね。大多数が使えなければ意味がないということで、俺が作ろうと。そのときにやると決心しましてね。すぐにマンションの1室を借りて、年が明けたら机とパソコンを持ち込んで、電話を1本引いて、2月25日にスタートしたんです」

「うち、倒産しました」

――やると決めてから2カ月余りでスタートした。

「ところが、サイト作成をお願いしていた、渋谷の会社から25日になっても連絡が来ない。電話にも出ない。そうしたら1週間ぐらいして、その会社の専務がやってきて、『すみません。うち、倒産しました』って」

――ちょうど2000年のIT(情報技術)バブル崩壊が重なった。

「そうなんです。ちょうどそれにぶつかったんですね。運悪く。渋谷でばたばた倒産が起きているなんてこと、こっちは知らなかった。IT業界はこういうことがあるんだと。他人様を当てにしていたら、商売は成り立たないなということで、息子にとにかく自分でやってみろと言ったんです。最初は誰だって作ったことはないんだと言ってね(笑)」

――強引ですね(笑)。

「IT技術者はみんな必ずしも学校に行った人ばかりじゃないと。独学でやっている人がたくさんいるんだから、できないことはない。とにかく始めろということで、最初はHTMLで写真や文字だけを入れて。買い物かごなんてとんでもないですから、写真の下に『お入り用な方は電話かファクスをお願いします』って(笑)」

――ハイブリッドですね(笑)。

「そう。そして出店者についても、どんな出店者を集めたらいいのかよく分からない。取りあえず自分の店に出入りしている業者に、出店料は月額2万5000円なんだけど、特別に1万円にするから出店しませんかと声をかけて、13社ぐらいでスタートしたんです」

――創業に至るまでのスピード感がすごいですね。

「うちが一番大事にしているのはアジャイル(機敏)なんですよ。それはもう末端まで徹底しています。やってみなければ分からないのに、やる前に何を考えているんだと。まずはやってみて結果が出てから考える。悪い結果が出たら修正すればいいし、良い結果が出たら伸ばせばいい」

――アジャイル主義になられたきっかけはあるんですか。

「日本の大企業というのは昔から非常に意思決定が遅いですよね。だから外国企業は敬遠する。昭和の時代から言われていたことなんですね。それを克服しないとだめだということは昔から考えていました」

「いろいろな本を読んでみますと、やっぱり高速成長しているところはみんなアジャイルだと。アジャイルじゃないと高速成長はできないというようなことが書いてあるものですから、高速成長はできないにしてもアジャイルだけはまねしようと(笑)」

――起業される当時は、自身の年齢は意識されなかったんですか。

「私が商売を始めたのは20歳の時で、東京・中野でカウンターだけの居酒屋みたいな店から始めたんです。付き合う人の多くは30代や40代と歳上でした。若い時も自分が若いということはあんまり意識していませんでしたし、今になると年寄りなんだけれども、自分が年寄りだという意識はないですね」

今も毎日出社

――現在はどういったペースで働かれていますか。

「最近は少し出社が遅くなりましたけど、午前11時前後に出社しています。帰るのがだいたい午後6時40分ぐらいですね」

「出社は毎日で、土曜日も午後は会社に来ています。土曜日の午後は役員も出てきて打ち合わせをしたり、役員のストレスを吸収してあげたりしています。平日はそれぞれが忙しくて話し合う暇なんてあまりないですからね」

――体力面でこれを続けているとか、健康でこれに気を付けているといったことはありますか?

「20年ぐらい前からラジオ体操は毎朝必ず欠かさずにやっていますね」

――午前6時半の放送に合わせてですか。

「いやいや、我流です。我流で約20分間、ラジオ体操をやって。それから踏み台昇降をやって、斜めになって腕立て伏せをやって、最近ではふくらはぎが一番大事だろうと思って、ふくらはぎの血管を伸ばすようなストレッチ運動もしています」

「自分なりに健康維持のためにずっと毎日欠かさずにやっています。年を取ってから何かをやろうと思う人は、まず自分の健康からつくっていかなければダメですね」

――やっぱり健康ですか。

「健康です。どんな気力のある人でも体調を崩したら気力もだめになってしまいます」

――実際に体調を崩されたこともあるんですか。

「何回もあります。手術したこともありますし」

――ご自身の経験も踏まえて、やっぱり健康が大切だと。

「そうですね。今は75歳ぐらいまではそんなに考えなくてもいけると思うんです。みんな健康に気を付けていますからね。でも、75歳からは後期高齢者というのはよく決めたものだなと思うんですけれども、75歳を境にしてぱたっと体力が落ちるんですよ。そこからが勝負です」

「私自身の場合には、体操とかストレッチとか、ますます運動を強化して、歩く歩数も増やしました」

――お話をうかがっていると、かなり熱心に本を読まれているようですね。

「そうですね。私の読書の仕方は最初から最後まで読むんじゃなくて、雑誌の広告で見て、あ、読みたいなと思ったらばんばん買って、もう自宅に何千冊あるか分かりません。1行も読んでない本もたくさんあると思います」

「とにかく今、自分に必要なものを読むということですね。昔はいろいろな哲学書を読んでみたり、洋書を読んでみたりもしましたけれども、今はもう自分に必要なビジネスの本しかほとんど読まないです」

――最近読まれた本は何なんですか。

「最近読んで参考になったのは、『アリババ 世界最強のスマートビジネス』ですね。(アリババ創業者の)ジャック・マー(馬雲)の右腕だった人物が書いたものです。著者が実務家なので、一般論や理論にとどまらずに内情を暴露したというぐらいに書いている。参考になりました」

――若い頃から本には親しまれてきたんですか。

「そうですね。若い頃というか、実は小学校に上がる前から読んでいます。生まれは東京でしたが、島根の田舎育ちで、当時は戦時中というのもあって、お寺ぐらいにしか十分に本はありませんでした。お寺に通って、講談本の類いを一生懸命読んでいました。根っからの本好きですね」

「社会の役に立ちたい」は危ない

――そこまで本が好きなのに、頭で考えるよりもまずは体を動かそうという発想をなさる。そのバランスが面白いですね。

「頭で考えるというのは妄想しているだけなんですよ。頭で考えても新しいものは出てきません。結局、過去の知識や経験しかないわけでしょう。そんなことで新しいものは出てこない」

「うちの若い連中によく言うんですよ。頭を空っぽにして、考えようと思う対象物をとことん洞察しろと。とことんその事実を見抜けと。事実を見ることが考えることなんだと」

――パソコンが使えないだとか、ITバブルの崩壊でパートナー企業が倒産しただとかといったことをいちいち思い悩んでいたら、創業には至らなかったということですね。

「そうですね。これをしなければいけないということしかないわけです。とにかくネットで卸をやって、全国の皆さんが売ったり買ったり自由にできて、いいものが安く手に入る。そういうことをやりたいなというだけであって、それ以外のことはささいなことだったんです」

――人生100年時代ということで、高齢になって、例えば定年退職後に起業するというケースも増えています。何かアドバイスはありますか。

「そうですね。まずは先ほどもお話ししたように健康が第一ですよね。70歳まで働こうと思ったらやっぱり健康じゃないといけませんから、健康に気を付けることが第一」

「それから、起業する人から話を聞いていて、これは危ないなとか、これはうまくいかないなと思うのは、何か社会の役に立ちたいという気持ちがものすごく強いタイプですね。それは間違っているんですよね」

――間違っているんですか。

「ええ。社会のためになりたいという気持ちが強すぎると、どこでお金をもうけるのというのが、おろそかになっているんですよ。だから起業は難しいし、起業できたとしても続かない」

「やっぱり企業というのは、継続するためには利益を出さなければいけません。利益構造をどうするのかということがまず基本なんですね。社会の役に立つことを基本にしてはいけないわけです。そして利益構造をつくって、5年、10年と継続すること自体が社会の役に立っているんですよ」

――会社が続くことがすなわち社会貢献だと。

「それだけ税金を払っているし、それから社員の給料も払って、その家族を養ってと、立派に社会の役に立っている。それなのに社会の役に立ちたいみたいな気持ちが先走ってしまうと、利益構造がおろそかになって、それで失敗してしまう」

「年を取ったのだから好きなことをやりたいというのも同様に危ないですね。確かに好きなことをやれたら一番幸せですけれども、好きなことにばかりこだわってしまっていては、やっぱり利益構造がはっきりしない。何かしたいという人は、利益構造の仕組みを第一番に構築しないと危ないということですね」

過当競争の飲食店、新陳代謝を

――Mマートの創業に当てはめて考えると、利益構造はどんなものでしたか。

「利益構造を考える上で一番大事なことは、投資額がいくらかということなんです。そうしたら、ネットビジネスというのは投資額がいらないわけですよ」

「製造業であれば、工場を立てて設備を入れてうんぬんということになりますが、ネットビジネスの場合にはマンションの一室を借りて、机とパソコンと電話を用意すればできるわけです。そういう意味では投下資本がほとんどいらない。全部含めて100万円もあればスタートできる。全部損したって100万円で済むわけでリスクは非常に小さい」

――なるほど。

「あとはうまくいけば100万円ぐらいはすぐもうかるわけだから、軌道に乗りさえすれば十分償却できる。自分の給料ぐらいは稼げるんです」

「私は長く飲食業に関わっていますが、30歳のころに一等地に出店して、1軒の店を出すのに1億円ぐらいかかったことがあります。1億円の初期投資をして、従業員も40人は雇わなければならなかった。こうなると非常にリスクが大きいわけですよ」

「改めて見ると、ネットビジネスなんていうのはただみたいなものなんですよ。投下資本は少なくていいし、人もほとんど雇う必要がない。非常にリスクが小さいのに、見返りは結構ある。ローリスク、ハイリターンですよね。社会の役に立ちたいなんて考えるより、まずこうしたことを考えないといけません」

――非常に明快ですね。

「社会の役に立ったら生き残れるとみんな考えてしまっているんですね。反対なんです。生き残ったら社会のためになっているんです」

――飲食業には新型コロナウイルス禍が直撃しています。60年以上、業界に関わっているわけですが、振り返ってどんなことを感じていますか。

「昔はよかったですよね。私なんか34~35歳ぐらいまでは、もう繁盛をしたら売り上げの5割が利益ですよ。ところが、どんどんどんどん居酒屋や飲食店が増えてきて、過当競争になった。値下げ合戦になって結局はもうからない業界になってしまったんですね」

「今はコロナで相当淘汰されていますけれども、日本というのはもう昭和の後半からオーバーストアなんですね。あらゆる業界がオーバーストアだから、3割ぐらいは退場した方がいい。じゃなかったらみんながもうからないですよ。ところが、モラトリアム法(09年に制度化された中小企業金融円滑化法の通称、13年に失効)みたいなばかなものをつくってしまったので、結局退場するところが現れない」

――新陳代謝が起きていないと。

「もっと思い切って新陳代謝を進めるべきですよ。数が少なければみんな利益が出るんです。利益が出れば給料も上げられます。そうしたら十分また日本経済は盛り返せる。なのに、日本では悪平等がまん延してしまって。結局は上ではなくて、下に合わせている。世界に後れをとって当たり前ですよ」

「暴論に聞こえるかもしれませんが、このコロナでいろいろな業種で倒産や廃業が出てきているのを奇貨とすべきです。これをきっかけに新陳代謝を進めて日本経済を再構築すれば、まだまだ伸びると思いますよ。オーバーストアがいまだに続いているということが、みんながもうからない、給料が上がらない最大の原因だと思っています」

(日経ビジネス 奥平力)

[日経ビジネス電子版 2022年8月31日の記事を再構成]

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