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「組織を芯からアジャイルにする」の熱量

市谷さんの新著を一足先に読ませていただいた。前作の「デジタルトランスフォーメーション・ジャーニー」から一歩進めて、より組織の変革という点にフォーカスした内容になっている。

本書に書かれている内容は自分が経済産業省やデジタル庁の中で経験したこととも重なる部分があり、自分の取組みの振り返りにもなった。

市谷さんはアジャイル開発というソフトウェア開発の文脈から山を登り始めたのに対して、自分はどちらかといえば行政のデジタル化における組織課題の解決という観点から山を登り始めた。しかし目指す山の頂は同じだった。

特に自分が好きなのはアジャイルは自分から始めることができるという点だ。まさに自分で手を動かし、何か動いてみたところから組織の変革は始まる。文句を言っていても自分の環境は変わらないのだ。周りに現状の課題を問いかけ、自分でその解決法を紙に落としてみる、エンジニアなら形になるものを作って人に見せてみる、そういったところから変革はスタートするのだ。特に最後の節はそうした市谷さんの熱意が強く伝わってくるものだった。

市谷さんが言うようにアジャイルという言葉はソフトウェア開発の手法から使われ始めた言葉だが、それは一般的なプロジェクトの進め方や、組織経営のあり方にまで概念の適用が拡大してきている。

本書では組織の変革に向けたステップについて順序立てて説明されているが、それぞれの場面で共通するのは、自分の現状を知り、対策を立てて、短いスパンで実行し、それを振り返り、改善することを繰り返すことで、より実態にあった解決法を生み出し、確実に成果を上げていこうという姿勢だ。アジャイルとは、物事に向かうスタンスである。

環境が刻々と変化する中で4半期に1度、年に1度という頻度での見直しで時代にフィットした事業ができるのか。末端のビジネスの現場から、経営トップの意思決定まで、同じ絵を見ながら短いスパンで改善や新しい事業を生み出すためにはこのアジャイルなスタンスを全ての階層で共有する必要がある。

組織全体をアジャイルにする上で、個人的には特にミドル層の意識変革がポイントであると改めて思った。
現場での変化をいかに言語化してトップマネジメントの意思決定に繋げるのか、トップマネジメントの決めた方向性をどう現場のスプリントに落とし込んでいくのか。いわばミドル層は組織内でのスクラムマスターのような役割を果たさなければならない。一方で日本の大規模な組織を見てみると、ここが機能していないケースが多いのではないか。

もう一つ、組織をアジャイルにする上では補助線としてのミッション、ビジョン、バリューの存在が欠かせないと考える。皆が同じ絵を見るためにはその土台が共有されていなければならない。

本書ではトップマネジメントの「意図」を、ミドルが「方針」に落とし込み、現場がこれを「実行」するという上から下の流れと、現場の「実行」から得られたフィードバックをミドルが「方針」に落とし込み、これをトップマネジメントの「意図」に反映させるという下から上の流れについて説明する。

「意図」と呼ばれるものは事業における「ミッション」の上に成り立つものであり、「方針」は「ビジョン」の上に成り立つ。また「実行」は「バリュー」という行動規範がその実施の手段に影響を与える。
ミッション、ビジョン、バリューの階層間での共有はアジャイルな組織運営の前提とも言えるのではないか。

「技術負債」ならぬ、「組織負債」を解消する上でアジャイルな経営がインストールされることが必要になっている。もっと前に見直しが必要だったのにそれがずっと見過ごされてきたのだ。

もし組織のビジネスを我が事として大事に思い、今の現状に不満を持っているなら一歩踏み出せばいい。その方法論の提示と後押しをしてくれるのが本書であると思う。本書は実践する上でつまづいた時に見返す本としても優れている。最後の付録は本書を読み終わった後のチェックリストとして活用できるだろう。関心のある方はぜひ手に取ってみてほしい。

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