デザインリサーチ 開発プロセス

『プロダクトリサーチ・ルールズ』をデザイナーが読んで刺さった3つのポイント

デザインリサーチ 開発プロセス

こんにちは!ホスティング事業部 デザイナーの @uepon です。初めてのテックブログです!

先日、@kdmsnrさん の企画にて『プロダクトリサーチ・ルールズ 製品開発を成功させるリサーチと9つのルール』 をご恵贈いただきました。ありがとうございます!

導入から訳者あとがきまでとても興味深く読み進めたのですが、ここ数年のうちに国内で出版されているUXリサーチ関連書籍とは異なり、やや批判的な視点から切り込んでいた点が新鮮に感じました。

私自身もちょうどリサーチの設計中に読んだということもあり、リアルタイムで悩んでいたことに打ち返してくれ、これから常に横に置いておきたいパートナーのような大切な本になりそうです。

『プロダクトリサーチ・ルールズ』は誰の役に立ちそう?

現在リサーチに取り組みつつも、現場で葛藤したり苦悩したり、現状のリサーチ・プロダクト開発の進め方に「これでいいんだっけ?」と疑問を抱いてる人には特に大きな学びがあるのではと感じました。

リサーチャーはもちろん、プロダクトマネージャー、デザイナー、エンジニア、データアナリストなど、プロダクト開発に関わるすべての人におすすめです。

「リサーチをこれから始めるぞ!」な方も、リサーチに必要なマインドセット・ルールを先におさえておくだけで、リサーチによって得られる価値の大きさが変わると思うのでこれは必読本だと感じました。

デザイナーである私が特に刺さったポイント3点

前提:私の状況について

GMOペパボのデザイナーには「エキスパートスキルエリア」というものがあり、その中で私は「デザインリサーチ」を専攻しています(「エキスパートスキルエリア」について、詳しくはこちらの資料で紹介しています)。

普段は「ロリポップ!レンタルサーバー」や「ヘテムル」などホスティングサービスのプロダクト開発・改善を主に担当しているのですが、配属後初めて担当した施策でユーザビリティテストを実施したり、新機能開発にアサインされた際はユーザーインタビューを実施したりしました。

現在は新卒2年目ですが、学生の頃に質的・量的調査をしていた経験から、アカデミックリサーチに関する知識がほんの少しあります。一方で、ビジネスにおけるリサーチは初心者で素人であるため、アカデミックリサーチと業務でのリサーチとの違いに戸惑うことが多々ありました。

そんな私が今回『プロダクトリサーチ・ルールズ』を読んで刺さった3つのポイントについて紹介します。

1. バイアスを問いに変えてみると、物事はぐっと前に進むことがある

私は学生の頃、調査で必要な姿勢や調査の倫理について学んできたこともあり「人よりバイアスが少ない方だ」と自覚していました。

しかし、それこそがバイアスだったのです…!

書籍の中でも「私は思い込みをしません!」という思い込みは「専門家の傲慢」として紹介されており、バイアスのパートは読んでて非常に胸が痛くなりました…。経験を積めばバイアスが減っていくのではなく、むしろ経験するほど強化されるバイアスもあるのだなと気づかされました。

また、そのパートを読みながら「思い込み(バイアス)を自覚し、それを『問い』として持つことで、物事がぐっと前に進むことがあるのでは?」と感じました。

例えば「この機能のターゲットはセグメントA」という共通認識があるとします。しかし、アナリティクスや数値データを眺めていると、ターゲットは誤りかもしれない、という仮説が浮かび上がってきました。

その気づきを「なぜ、ターゲットは セグメントA だと思い込んでいたのか?」「ターゲットは本当にセグメントAなのか? セグメントBかも?市場Cかも?」といった問いに変えるだけで、ひとつのリサーチテーマが出来上がります。さらにリサーチを進めると、また異なる視点の発見が得られるかもしれませんね。

まず大事なのは、自分の思い込みはどんなところに潜んでおり、どこからその思い込みが生じたのか、徹底的に自覚すること。そして思い込みの自覚から「問い」が生まれ、それが新たなリサーチクエスチョンにつながり、物事がぐっと前に進むことがあるのではないか、という気づきを得られました。

2. すべてのリサーチは「問い」から始まる

こんなことが頭に浮かんだ経験、ありませんか?

「とりあえずペルソナが必要だ!ペルソナを作るためにどうしよう?」

・・・このまま進むと、リサーチすべきことよりもリサーチしたいことが優先され、きれいなペルソナができて終わり、になってしまう可能性があります。(私は一度考えたことがあるため、胸が痛いです…)

また私自身、学生時代に経験してきたリサーチの面白さから「リサーチしたい!ユーザーの声を聞きたい!」という気持ちが先行していた時がありました。そしてその時は必ず「いま最も解くべき問いは何か?」という視点が置き去りになってしまっていました・・・。きれいなペルソナシートのアウトプットや手法が先ではなく、「問い」から始めよう、という視点は常に頭に置いておきたいですね。

3. チームで分析することの重要性

書籍では、プロダクトリサーチにおいてはチームでの分析が推奨されています。

まさに私はリサーチ計画の段階で「チームメンバーは開発に集中してもらって、私が分析してから情報提供しよう」と考えていたため、内省させられた視点でした。書籍では一人で分析を行なうことが問題なのではなく、独立した専門家が陥りがちな「高いところからコンテクストを無視したことを言ってくる」ような、チームや現状と断絶した分析の問題点について指摘されています。

むしろチームメンバーで分析を行うことが、スピード感ある意思決定や素早くアクションに移すための有効な手段になり得ると知りました。また、その手法として「ラダリング」や「リフレーミングマトリクス」など、これまで知らなかった質的分析の手法を把握することができました。私自身チームで分析会を実施したことはまだなく、これから試みたいと考えているところですが、書籍で紹介されていた手法や視点をもとにトライしてみるのがとても楽しみです!

ペパボとの重なり

ここまでは書籍の内容がメインでしたが、ペパボにおけるプロダクトリサーチはどのように実施されているのでしょうか。

ペパボにおいては、事業部やサービス、状況によって異なりますが、デザイナーまたはディレクターが実施する事例が多く見られます。

具体的には、新サービス・機能開発のキックオフ後に探索のためのインタビュー調査が行われたり、リリース後はアンケート調査・アナリティクス解析が活用されたりしています。また、リリース前の機能やサービスのプロトタイプを用いたユーザビリティ調査が実施されることもあり、社内Slackでも「リリース前 簡易ユーザビリティテストの協力者募集」呼びかけの投稿を見かけることが多々あります。

これから取り組んでいきたいこと

上記に挙げたように、ユーザーリサーチや定量データ取得・分析は、すでに社内の各所で行われています。

一方で、事業部・プロジェクトを横断した知見の共有や、質的データも含めた結果データの蓄積・資産化に関しては、まだまだこれからやっていける余地があるのではと書籍を読みながら改めて感じました。

また、リサーチを専門スキルとして持つデザイナーだけがリサーチをやっていくのではなく、チームとしてリサーチをやっていくこと、それによってプロダクトも組織も速を出せるようなリサーチ機会を創出していきたい、と改めて思いました(これに関して、ペパボが目指すリサーチの体制としては「デザインリサーチやっていき2020」でも触れているのでぜひご覧ください!)

社内勉強会での影響の広がり

そして先日、4月に行われたペパボデザイナーの社内勉強会「Designer's MTG(通称 デザミ)」にて、この本からの学びを発表する機会がありました!

「デザインリサーチ」をテーマにノウハウ共有や事例紹介が行われた会の中で、私はノウハウ共有パートを担当しました。資料は以下のようにNotionにまとめ、紹介しました。(約6,600字)

発表資料の一部抜粋

(発表資料の一部抜粋)

「はじめてリサーチに取り組む際の考え方やマインドセット」というテーマで発表したのですが、デザイナーだけでなく、デザイナー以外の職種からも反響が大きかったのが印象的でした。(勉強会後に、Slackのいろんなチャンネルで資料が拡散されていました!)プロダクトに貢献できるリサーチの正しい使い方・考え方を広めていくためのステップとしても、この本が大きな力となってくれたと感じています。

社内勉強会 実況Slackスレでのコメント

(社内勉強会 実況Slackスレでのコメント)

まとめ

リサーチを行う私ひとりにとっても、プロダクト・組織にとっても、この本は大きな力と可能性を秘めていると、こうして記事にまとめていて改めて感じました。

個人的には、ユーザーリサーチだけでなくマーケティングリサーチにも強くなりたいと考えています。質的・量的含むあらゆる側面からのリサーチや、それによって得られたデータが重なり合う体制ができた上で、リサーチそのものもさらに効果を上げていけると考えています。

そして「リサーチからプロダクト開発・組織開発に貢献する」という私自身これからやっていきたい取り組みのイメージが、この本を読み終えたことで明確に湧いてきました。

現時点のペパボは、リサーチの専門的スキルだけでなく、事業部を横断する全社規模のリサーチ基盤と体制、カルチャーを醸成していくのに非常にチャレンジングで最適な環境であり、今のフェーズでしかできない経験ができると考えています。

リサーチ基盤・カルチャーから育てていくことにチャレンジしたい方、ぜひ一緒にやっていきましょう!