Unreal Engine 5の新機能で1000万ポリゴンの犬を1000匹描写。300万匹のカニなど大胆な実験が続く

 
Image Credit: Taylor Loper on Twitter

Epic Gamesは5月26日、新機能をひっさげたUnreal Engine 5(以下、UE5)の早期アクセスビルドを配信した。描画を劇的に助ける新機能を手に入れたクリエイターたちは、さっそく実験に夢中になっているようだ。「1000万ポリゴンの犬を1000匹描写」「300万匹のカニを描写」といった実験例が報告されている。

UE5には多数の機能の追加や強化が含まれている。そのなかでも、大きな注目を集めているのが仮想化マイクロポリゴン・ジオメトリシステム「Nanite」だ。この機能は、噛み砕いて言えば3Dモデル描画にまつわる最適化などの工程を、自動的におこなってくれるというもの。つまり、手持ちの3Dアセットを、品質やポリゴン数を気にせず、今までよりはるかに手軽かつ、負荷を軽減してエンジン内で描画できるということだ。

UE5早期アクセスビルドに盛り込まれているこの機能は、新ライティングシステム「Lumen」と共に注目の的だ。早速SNS上では機能の実力を試すユーザーが現れており、予想以上の性能に驚きの声があがっている。なかには、Naniteの実力を「大量の3Dモデルの描画」という端的な方法で示すユーザーも。まずその標的になったのは、「カニ」だ。


画面を埋め尽くすカニ、カニ、カニ。モーションこそついていないものの、狭くはない島を真っ赤に埋め尽くすカニの姿は壮観だ。しかし、なぜカニなのか?という疑問が湧く。実をいえば、この動画の投稿者は、Steamで配信予定のカニアクションゲーム『Crab Champions』の公式Twitterアカウントだ。同作においてカニは、華麗な動きで攻撃を避ける、銃を撃つ、高速で疾走する、といった多彩な表情を見せている。カニの素材には事欠かないということだろう。

Twitterに投稿された上記の動画では、およそ300万匹のカニが描画されているとのこと。しかし、それが限度というわけではなく「(カニをもっと増やしても)描画のパフォーマンスに影響が見られなかったので追加をやめたんだ、Unreal Engineのテクノロジーはすごい」とのこと。突拍子もないようで、Naniteの実力をしっかりと示した例だろう。ほかにも同様に「大量に描画してみる」という手法を試すユーザーも存在する。今度は「犬」だ。


ベッドですやすや眠る大量の犬を並べたのは、インディースタジオIonized Gamesのリードデベロッパーである、Taylor Loper氏。こちらの犬は同氏の愛犬、Ziggy(ジギー)で、寝ている様子を写真から3Dモデル化したものだ。上記動画では、眠るZiggyが画面を埋め尽くす様子が映されている。なにか映画のワンシーンのような印象も受ける光景だ。

同氏のツイートによれば、Ziggyの3Dモデル作成は、Epic Games傘下のフォトグラメトリー(写真からの3DCG作成)システムであるCapturing Realityでおこなわれたそうだ。3Dモデル単体としては、犬素材撮影に約10分、Capturing Realityでの処理に21分、4Kテクスチャーの出力に1.68ドル(約184円)という短時間・低コストで制作されたとのこと。しかしながら、3DモデルはZiggyの毛並みまで感じる高精細なものに見える。これを短時間で制作し、大量に並べられるというのは、Capturing Realityをふくめて驚きに値する技術だ。

Image Credit: Ionized Games on Sketchfab


この3DモデルはSketchfabで公開されている。使用されているポリゴン数は約1000万。動画上ではこれが1000個並べられており、概算で100億ポリゴンの描画となる。この気の遠くなるような数字を、Naniteが仲介、適宜最適化して描画することで、リアルタイムで60FPS(秒間描画数)を保ちながら描画されていたとのことだ。Loper氏はツイートのなかで「Tim Sweeney(Epic GamesのCEO)は、私達をグラフィックスの新時代に引き込んでくれる」と、感動を綴っている。

また、Naniteは旧世代のグラフィックボードなどにも大きな恩恵をもたらすようだ。同氏はグラフィックボードをGeforce GTX 750 Tiに差し替えて、犬ベッド単体でのテストをおこなっている。GTX 750 Tiは約7年前にリリースされた製品で、現在のグラフィック水準からすると、かなり限られた性能だ。前述の動画はGeforce RTX 3070環境で制作されており、ベンチマークでは10倍以上のスコア差がある。


Loper氏による検証の結果は、Naniteが低性能のハードウェアに、大きな影響を及ぼす可能性を示唆するものだ。描画の負荷を軽減するNaniteの機能を考えれば当然の帰結ではある。しかしながら、従来の環境下で4FPSだった描画が、Nanite環境下では10から12FPSという大幅な改善が見られたとのこと。約2倍以上のパフォーマンスになったと考えると衝撃的だ。

検証内容が限定的ではあるものの、最新ハードウェアを持っていなくてもNaniteの恩恵を受けられる、という嬉しい結果ではないだろうか。Twitter上ではほかにも、UE5のライティングシステムLumenがもたらす、ライティングの自由度や精細さを示す動画などが投稿されている。


早期アクセスビルドの配信開始から間もなく、さまざまなクリエイターの手によってその実力が示されているUE5。ゲーム制作側のみならず、プレイする側も大いに恩恵を授かれそうだ。この先進的技術を利用して、今後どういった作品が作られていくのか、楽しみにしたい。