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2021年の予想(AI、スタートアップ、ソフトウェア、エンタープライズ周り)

2020年の年始に予想した「2020年」と実際の「2020年」は別物だったと言える。ぜんぶコロナのせいだ。予測の土台は崩れてしまった。「変わらないだろう」と無意識に思っている仮定が多いということを思い知らされた一年であった。

だからと言って予測に意味がないとは思わない。2021年にどんな変化があるかを予想していきたいと思う。堅い予想からちょっと攻めた予想まで、思いついたものをいろいろ列挙してみた。

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マクロ環境
・コロナ禍はまだまだ続く
・投資環境に破壊的な影響はなく、仕込みには良い時期となる可能性
AIスタートアップ
・AI Solution Companyからのプロダクトスピンアウトが増える
・Software Orientedサービス vs Intelligence Orientedサービスという構図が生まれる
機械学習・ソフトウェア開発
・ドメイン特化の言語モデルが実際のアプリケーションに投入されはじめる
・深層学習ベースのコード補完ツールが市民権を得る
・クラウドベースの統合開発環境が少しずつ広まる
エンタープライズSaaS
・大企業はますますSaaSを使うようになり、Enterprise SaaS領域がホットになる
・2021年は「エンタープライズチャットオペレーション元年」になる
・リモート適応した新しいセールスチャネル、次世代型のセールススキルが生まれていく
その他
・リモート社会における「コミュニケーションのツール」としてのゲームが注目される

マクロ環境

コロナ禍はまだまだ続く

mRNAのワクチンはできたが、接種が日本ではじまるのはまだ先だ。接種開始してから集団免疫獲得まではもっと待たなければいけない。海外ではもっと遅れる国もあるだろうから、世界が元通りになるには相当な時間がかかりそうだ。もっとも、世界規模で流行する感染症は今後も頻発するため、元通りになんてならないという予測もあり、確かにそうなのかもしれないと思う。

投資環境に破壊的な影響はなく、仕込みには良い時期となる可能性

不確実性が高い環境だったとはいえ、スタートアップの投資環境はそこまで悪くなっていないように感じる。もちろんドメインによっては壊滅的になったところもあるが、テックスタートアップとしては逆に追い風となっている側面もある。もっと言えば、リモート x 副業解禁の流れの中で、時間投下しやすくなるため、何かを仕込んではじめるにはちょうど良い時期であるとも言えるのではないだろうか。

AIスタートアップ

(注:普段はAIという単語は敢えて使っていないが、AIスタートアップ、というカテゴリという意味ではわかりやすいので使う)

AI Solution Companyからのプロダクトスピンアウトが増える

AIソリューションをプロジェクトとして提供するスタートアップ企業が成長目覚ましい。これらのスタートアップも、実績が出てくることで「プロダクト化」に舵を切る流れが増えるのではないかと思う。ビジネス観点だけで見れば労働集約的なプロジェクトベースのビジネスよりもソフトウェアが稼ぐモデルの方が良いのは間違いない。うまく成果が出せている企業であればあるほど、プロダクトを志向する動きは生まれるはずだ。一方で、プロダクトを志向する組織や人材と、プロジェクトを志向する組織や人材の性質は結構違っており、ある種の境界線を設けないと回しにくいはずだ。ゆえに、今年くらいからスピンアウトという形で特定領域のサービスを提供するための組織体を作る動きが増えてゆくのではないだろうか。

Software Orientedサービス vs Intelligence Orientedサービスという構図が生まれる

AIプロダクトの会社にとって、今は過渡期と言える。AIプロダクトスタートアップをぶち上げる方法論がまだ確立されていないからだ。AIプロダクトのスタートアップは両手両足に枷をはめられて戦っているようなものだ。「普通のSaaSプロダクト」を作るのに加えて、機械学習を取り扱うための工数がアドオンでかかってくるからだ。a16zが調べたところによれば一般的なSaaSビジネスの粗利益率が60〜80%であるのに対し、AIプロダクトを取り扱う企業の粗利益率は50〜60%しかないという。

機械学習部分の付加価値が少ないプロダクトは必然死滅するしかないし、解こうとする問題が複雑すぎて「ロングテールのエッジケース」を解決するための工数が爆発しても死んでしまう。実は機械学習には「スケールデメリット」があり、同じだけのトレーニングデータを投入した時の嬉しさはどんどん逓減してゆくという厄介な性質もある。AI技術自体が異常なスピードで進化をしているから後発有利な側面がある一方で、技術はかなりオープンになっているから堀を築く難易度は高い。

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「AIプロダクト」を作るビジネスはむずかしい。解くべき問題の見極め、タイミングの見切りが正しくなければぜんぜん勝ち筋が見えないのだ。

(余談だがリーガルテックは数少ないハマるポイントだと思っている。オープンデータがないためデータモートが築きやすいし、契約書はだいたい同じ書き方をされるからローカルさが少ない=顧客別のモデルトレーニングがいらない領域だし、日本語日本法の壁があるから海外のテックジャイアントが入ってきずらいし、データの分布はロングテールが比較的短いほうではないかと思っている)

ドメインが、機械学習による付加価値で圧勝できる領域(自動運転、翻訳、医療診断、等)でも、付加価値が全然でない領域(このプロダクトは即死してゆく)でもないところは、実はめちゃくちゃ面白い領域なのではないかと思う。この「どちらでもない」領域は、ソフトウェアによる価値にフォーカスしているSoftware Orientedなサービスと、機械学習による価値にフォーカスしているIntelligence Orientedなサービスが競争する領域になる。ここはまだ見たことのないタイプの競争が繰り広げられる可能性がある。

機械学習・ソフトウェア開発

言語モデルが実際のアプリケーションに投入されはじめる

昨年はGPT-3の性能がとても話題になった(誇大広告だと揶揄されることもあったが)。こういった言語モデルの恩恵を受けるアプリケーションが2021年には登場してくるのではないか。「この用途にこう使えばいいじゃん」というのが色々発見されはじめる年になると思う。

深層学習ベースのコード補完ツールが市民権を得る

上に挙げた「言語モデルの応用」の一例として、深層学習ベースのコード補完ツールが今年じょじょに市民権を得てゆくのではないだろうかと思っている。Tabnineやkiteのようなものである。TabnineはGPT-2で作られており、200万のGitHubリポジトリから学習した結果を用いてオートコンプリートをしてくれるソフトウェアである。それなりに良い補完を実用的な速度で出すことができているように見える。下記の動画はtabnine vs kiteの動画である。

さらに、前後の文字のみならず、該当のプロジェクトのローカルな文脈を解析した上でより良い補完をしてくれるようになると嬉しさが増しそうだなと思う。ReactとかRailsとか、フレームワークごとに作り込みをする余地なんかもあるのではないだろうか。コードを書く段階でクオリティがあげられるのであれば、それが究極のShift Leftだと言えるのではないか。

クラウドベースの統合開発環境が少しずつ広まる

2021年にはGitHubのCodespacesが正式版になってゆくのをきっかけに、少しずつクラウドベースの統合開発環境の利用が進んでいくのではないかと考えている。GCPもCloud Shell Editorを出してきているし、AWSもCloud9を出している。端末に依存しないのはリモートワーク下で便利だし、ペアプロやモブプロが可能だったり、各種クラウドとの連携が行われたり、訴求できるメリットはそれなりにありそうだと思う。

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エンタープライズ関連

大企業はますますSaaSを使うようになり、Enterprise SaaS領域がホットになる

既存の大企業もSaaSの製品を使いこなすようにシフトしつつある。この流れはずっとあったものではあるが、リモートワーク化で加速することは間違いない。例えば、リーガル領域では「出社前提で組まれていた法務部のオペレーションが、リモート化で成り立たなくなってしまった」という声を聞く。こういった流れがSaaS活用の機運を後押ししていることは間違いない。

別のバズワードとして、DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉も聞くが、DXのニーズよりもリモート化の方が具体的で緊急の課題だといえる。リモートでも、混乱なくオペレーションを回せるようにすることの方がBurning needsなのではないか。

まだ日本においてEnterprise SaaS領域を攻めるプレイヤーはあまり多くはないが、エンタープライズマーケットの市場は大きい。また、機械学習系のスタートアップとエンタープライズの相性は良い部分がある。大規模なデータがあり、同じ比率で自動化出来た時の嬉しさはエンタープライズの方が大きいからだ。今後はEnterprise特化のスタートアップがいくつも出てくるのではないだろうか。

2021年は「エンタープライズチャットオペレーション元年」になる

昨年はMicrosoft Teamsがすごい勢いで普及していった年だった。Slackの成長速度と比較すると愕然とするほどだ。大企業のチャットリテラシーも急速に向上した。この傾向は2021年にも続いていき、臨界点を超えるのではないだろうか。長年、文字のコミュニケーションは「メール」が正式なチャネルだったが、それが「Teams」に変わるというシフトが起きる可能性がある。

ベンチャー企業ではSlack BotやWorkflowを利用して、チャットツールの上で業務を自動化に取り組んでいるケースがあるが、これが大企業でも広がっていくと思われる。Power AutomateやSharepoint、Teamsと連携できる自動応答の対話エンジンなどを組み合わせ効率よく業務をこなせる仕組みづくりが進んでいくのではないだろうか。大企業では複雑な設計も必要になるので、コンサルティングニーズなども生まれる領域なのではないかと思う。

リモート環境に適応した新しい「セールス」の出現

数千万円以上のシステムやサービスを導入する時には、今までであればどこかのタイミングで対面のコミュニケーションをしていたはずだ。しかし今後は「フルリモートで」商談が完結することが発生するようになるかもしれない。もっと言えば、数千万円の製品もテックタッチで売れるようになる世界が来る可能性があるのではないだろうか。

ファネルの作り方も変わってくるはずだ。例えば、リード獲得して、初回商談をする前に、YouTubeのような一方通行の動画形式で情報を伝える、といったようなことも行われるようになるだろう。マーケ文脈でのWebinarはすでにたくさん活用されているが、セールス的な文脈でも動画メディアが使われることが起きるかもしれない。

「喋り」の部分でも重視される要素が変わってくるだろう。ただ決まったトークスクリプトをプレゼンテーションするだけのセールスは動画で代替できてしまうからだ。過酷なリモート下では、相手が全員ビデオ共有OFF、ずっとミュート設定にされている中、虚無に向かって話し続けなくてはならないケースがままある。こういう状況の中では「相手から情報や反応を引き出す」ためのアクティブな働きかけに価値が生まれるはずで、トークスクリプトやトークスタイルもリアル対面とまた違う形になりそうだ。

プロフェッショナルの「リモート身だしなみ」の技術が先鋭化してゆく

セールスの話とも関係するが、現代のリモートビジネス環境において、イカしたZoomの仮想背景を設定し、女優ライトを当てることは、ある層においては当たり前の「身だしなみ」になりつつあると思う。テクノロジーで身だしなみを強化する傾向は今年、どんどん先鋭化していくのではないだろうか。

仮想Webcamデバイスを経由させた上で、顔に各種フィルタを当てる。オーディオインターフェースを経由してコンプレッサーで音圧をあげる。ミラーレス一眼をWebCamとしてマウントして、ボケ味のある高品質な映像を作る、などなど、絵づくり音作りの身だしなみしぐさは進化していくのではないだろうか。

年末年始にTikTokを使いこなすべく色々いじっていた(妻とTikTokで1月3日までにどちらがいいねを稼げるかというバトルをしていた。妻は「不適切な動画」として垢BANされたので不戦勝となった)のだが、動画フィルタの出来の良さに今更ながらびっくりした。歯をホワイトニングして、美肌にして、輪郭をシャープにするとここまで人間の印象は変わるのかという驚きがあった。

PCベースのWebCamの顔フィルタは「Snap Camera」があるが、正直なところTikTokで提供されている細やかなフィルタ表現には遠く及ばないように感じた。日本人向け&ビジネスパーソン向けのフィルタの決定版みたいなソフトウェアが登場してくるのではないだろうか。(もうあるのであれば教えて欲しい)

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その他

リモート社会における「コミュニケーションのツール」としてのゲームが注目される

昨年(2020年)には個人的には交友関係が閉じてゆき、セレンディピティーを確保するのがどんどん難しくなっていった一年だった。技術系勉強会では、懇親会がなくなってしまった。社内でも「意識的に雑談をしよう」という掛け声がかかるほど、偶発的なコミュニケーションがなくなっていった。雑談責任、なんて言葉も生まれていた。

2020年に流行ったゲームで「Among Us」というものがある。人狼ライクなスマホアプリの多人数ゲームで、宇宙船の乗組員の中に数人裏切り者がいて、プレイヤーは話し合いながら裏切り者が誰か推理してゆく。1ゲーム10〜20分くらいで終わるので、とてもカジュアルだ。「目的のために会話をしなくてはいけない」「同じ目標の中で感情のアップダウンを経験する」「ゲームを通じて、人となりに関する情報も自然と共有される」という意味で、コミュニケーションが不足しがちだった2020年にAmong Usが流行ったのは偶然ではないように思える。

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今年はこのような「カジュアル」かつ「コミュニケーションヘビー」なゲームがよりビデオチャットと統合してゆく可能性があるんじゃないかと考えている。Webinarのあとの懇親会で使えるゲームとか。Twitterで人と話してえなと思った時にすっと入っていけるゲームだとか。Zoomでちょっとだけ早く先に入ってしまった時に、偶然同じく早くきた人とコミュニケーションを促進するだとか。まだこの辺は進化をしていける可能性がある気がする。

あと、このようなゲームにおいては、ボードゲームのパーティーゲーム界隈で培われているいろんなテクニックが活用できる可能性を感じている。この前「ito」というゲームをやったのだが、プレイ時間は15分くらいで誰とでもできて、相手の価値観を推測させるというゲーム構造になっていてすごいなと思った。

2021年は「ロックダウン的な環境下で、いかにセレンディピティを確保する方法論を確立できるか」ということが課題になるのは間違いないと思う。それは個人の努力というか社会的な所作としてラーニングされる必要があるものであり、2020年という時間軸の中では難しかったことだと思う。今年は社会的な豊かさのためにも、それを確立しなければいけないのではないだろうか。Among Usをやっていかなければいけない。

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