Zoffとテックベンチャーが挑む「網膜投影カメラ」がすごい……視覚障害者にも写真表現の楽しさを

With My Eyes 写真展

Zoff 原宿店に設置されたWith My Eyesの写真展。

撮影:小林優多郎

半導体レーザー技術を持つQDレーザ社は、2020年12月21日から2021年1月上旬まで視覚障害を持つロービジョン者が撮影者になった写真展を東京・Zoff原宿店で開催する。

写真展の名称にもなっている「With My Eyes」は、QDレーザーやZoffブランドを展開するインターメスティック、JALグループのジェイエアなど全6社が参画するロービジョン者向けのプロジェクト名。

今回はWith My Eyesの第1弾の取り組みとして、カメラ型デバイス「RETISSA SUPER CAPTURE」のお披露目と、同機で撮影した写真展を開催。QDレーザ社長の菅原充氏は「2022年にRETISSA SUPER CAPTUREの商用化を予定」と語っており、展示会の実施でプロジェクトの認知度向上やパートナー企業を集める狙いがある。

視力が弱くても写真が撮れるアタッチメント

写真

作品の数々。

撮影:小林優多郎

RETISSA SUPER CAPTUREについて、QDレーザは“カメラ型デバイス”とうたっているが、実際にはカメラに装着するアタッチメントだ。

写真展で展示されるデモ機には、ソニーの1インチセンサー搭載の高級コンパクトデジカメ「RX100シリーズ」が用いられていた。

RETISSA SUPER CAPTURE

RETISSA SUPER CAPTUREのデモ機。

撮影:小林優多郎

菅原氏によると今回の展示会の写真は、カメラ側の30倍ズームとレーザーで網膜に直接投影するQDレーザの「ビジリウムテクノロジー」の組み合わせで実現した。スペック的にはカメラ側に光学10倍以上、HDMI出力可能な端末であれば利用できるという。

網膜に直接レーザーを照射するため、網膜と視神経が健常であればクッキリと見られることになる。

視覚障害の種類によって得られる効果には違いがあるが、例えば、視力が弱い(ピントが合わない)、水晶体に障害がある、というケースであれば、RETISSA SUPER CAPTUREを装着することで撮影できる。

筆者は左目の視力が矯正前で0.2程度、右目の視力が0.8程度。実際にRETISSA SUPER CAPTUREを装着したカメラのファインダーを裸眼で覗いてみると(実際にはファインダーを見ているのではなく、レーザー光が網膜に直接当たっている)、左右どちらの目でも同じようにハッキリと撮影中の画面を捉えることができた。

RETISSA SUPER CAPTUREを構えた社長

RETISSA SUPER CAPTUREのデモ機はカメラをやや大きくする。

撮影:小林優多郎

RX100シリーズはそのコンパクトさが売りの1つだが、RETISSA SUPER CAPTUREを装着することで、大きく、そして持てないほどではないがやや重くなってしまう。

これはレーザプロジェクタや投影部の部品だけではなく、カメラとは別のバッテリーも搭載しているためだが、商用化に向けて「今後、小型化していく」(菅原氏)の方針だ。

商用化のカギは小型化とカメラメーカーとの協業

ビジリウムテクノロジー

RETISSA SUPER CAPTUREと同じ技術で作られたアイウェアのデモ機。レーザー光の点が見える。

撮影:小林優多郎

カメラのアタッチメントとして「小型化」という課題はあるものの、ビジリウムテクノロジーは技術として既にほぼ完成されたものであり、同社のアイウェア「RETISSA」シリーズとして展開されている。予想価格も「1000~1万台ほど製造できれば、1万円と少しで販売できる」と現実的なラインまで開発が進んでいると菅原氏も語る。

カメラ本体は製造していないQDレーザとしては、いかにカメラメーカーを巻き込んでいくかがRETISSA SUPER CAPTUREを商用化するカギとなる。菅原氏は「すでに(複数の)カメラメーカーと話はしている」としているが、ロービジョン向けカメラ製品という未開拓な市場なだけに、現時点で決まった相手はいない。

菅原充氏

QDレーザ社長の菅原充氏。

撮影:小林優多郎

ただ、スマートフォンの台頭だけではなく、コロナ禍で外出自粛が続いたことで(Vlogなどで一部盛り返してはいるが)、カメラ市場は縮小傾向にある。今までターゲットにできなかったユーザーを新たに取り込むきっかけになる。

菅原氏はRETISSA SUPER CAPTUREの強みを「12件以上の特許を取得した、0.5~0.6mmのレーザーを的確に照射する自社技術」と語る。今後カメラのアタッチメント以外にも、ATMなど情報の秘匿性の高いディスプレイへの応用や、アイウェア製品の拡大など半導体レーザーの技術とWith My Eyesに参画する企業のノウハウを組み合わせてビジネスを拡大していく方針だ。

(文、撮影・小林優多郎

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