イーサリアム2.0の足音 あなたが知らないブロックチェーン最前線星暁雄「21世紀のイノベーションのジレンマ」(1/4 ページ)

» 2020年08月19日 07時10分 公開
[星暁雄ITmedia]

 2020年8月4日、イーサリアム(Ethereum)の次世代版であるイーサリアム2.0の公開テストが始まった。イーサリアムはビットコインに次ぐ有力な暗号通貨であり、同時に有力なブロックチェーン技術のひとつだ。その技術の世代交代が始まろうとしている。

 数年後、計画がすべて実現すればイーサリアム2.0は事実上、無制限に近い処理能力を獲得し、デジタル時代の社会インフラとなれる能力を備える。計画がすべて実現しない場合でも、現状の混雑を解決できる高速化は達成する方向で開発が進んでいる。

 とはいえ難易度は高い。公開テスト開始後10日で深刻なトラブルが発生し、ブロックチェーンが機能を止めた。いわばロケットエンジンの地上テスト中に爆発したようなものだ。公開テストの目的は、こうしたトラブルを乗り越えて技術の完成度を高めていくことだ。

 イーサリアムの技術開発の進め方は独特だ。技術開発を一種の公共投資として捉え、多様性がある生態系(エコシステム)を育てる考え方を導入している。ひょっとすると、このような「イーサリアム流のやり方」も私たちの社会に影響を及ぼすかもしれない。

注:今回の記事は、イーサリアムやその上の各種トークンの売買を推奨するものではない。企業の研究開発内容と株価が必ずしも連動しないように、イーサリアムの技術開発の進展と、イーサリアムやその上の各種トークンの相場が連動するとは限らない。

構想は19歳の若者の頭脳から生まれた

 イーサリアムは15年に立ち上がった。情報サイトCoinMarketCapによれば、無数にある暗号通貨(仮想通貨、暗号資産ともいう)の中で、イーサリアムは時価総額でビットコインに次ぐ第2位の地位にある。

 ビットコインとイーサリアムはそれぞれのコミュニティーが持つ価値観が大きく違う。ビットコインの開発者コミュニティーは安全性、堅牢(けんろう)性を重視し、仕様変更に慎重な態度を取っている。それに対してイーサリアムの開発者コミュニティーは新技術に積極的でノリが軽い。未来志向なところがイーサリアムの特色といえる。

 最近、日本の金融庁の働きかけにより「BGIN(Blockchain Governance Initiative Network)」と呼ぶ団体が立ち上がった。ブロックチェーン分野の「ガバナンス」(具体的には規制の方向性など)を議論する集まりで、大学、金融規制機関など複数の立場の人々が参加する。このBGINにはビットコインとイーサリアムのコミュニティーから開発者が1人ずつ参加する。日本の金融庁はビットコインとイーサリアムは「外せないブロックチェーンだ」と見ているとも受け取れる。

 イーサリアムのコンセプトを考案した人物の名は、ヴィタリック・ブテリン(Vitalik Buterin)。1994年にロシアで生まれ、カナダで教育を受けた。10代でビットコインに興味を持ち、オンラインメディアBitcoin Magazineを創設、編集や執筆で活躍する。2013年、19歳のときにイーサリアムの基本的なアイデアを考案する。現在は26歳。イーサリアムのコミュニティーで思想的リーダーの役割を果たしている。

ヴィタリック・ブテリン。イーサリアムのコミュニティーの思想的リーダー(筆者撮影)

 ひとりの若者の頭の中にあったアイデアを大勢の協力者が膨らませる形で、イーサリアムのコミュニティーでは大勢の人々が新技術の開発に取り組んでいる。その開発の進め方は、ビジネスとしてのソフトウェア開発に親しんだ人から見れば奇妙に見える。独特の流儀に従っているからだ。

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