ゲーム体験の大切さが理解できた
セリア・ホデント氏(以下、セリア):というわけで、プレゼンテーションのほうは以上となります。このあとはQ&Aですか。
小野憲史氏(以下、小野):そうですね。セリアさん、おもしろかったです。ありがとうございました。
セリア:イエーイ!
小野:いや、よかったですね(笑)。Q&Aなんですが、Twitterや「igda.jp」のホームページで告知しているとおり、Sli.doのほうで受け付けております。なんでも気になった点やコメントなどがありましたらSli.doで書き込んでいただけるとありがたいのですが。
とりあえず矢澤さんは、今回の通訳、お疲れ様でした。
矢澤竜太氏(以下、矢澤):ありがとうございます。
小野:聞いててどうでしたか?
矢澤:やっぱりおもしろいですよね。ゲーム体験というものが何度も出てきたと思うんですけれども、もうこの本読んだほうがいいです。この本すごくおもしろいので。
セリア:Thank you(笑)。
矢澤:本当にいい本でした。
小野:本の内容もさることながら、巻末に大量の参考文献、Referenceがすごく充実しているので、この分野で研究をされていらっしゃる方はとくに英語の論文のサーベイをするのにすごくいいと思いますね。
矢澤:芋づる式にいろいろ出てきますからね。
小野:そうですね。じゃあまだ質問がないようなので、僕のほうからいくつかご質問していいですかね。じゃあ、セリアさん、May I have some questions please ?
セリア:OK。
UXは科学とゲームの交差点
小野:UXデザインってすごく重要で、本来であれば開発チーム全員がUXデザインについて理解していることが必要だと思うのですが、なかなか難しいと思うんですよね。UXデザイナーという役職がないときは、誰が一番UXデザインについて責任を負うべきなんでしょうか?
セリア:日本ではどうなっているかわからないんですけれども、基本的にそれを担当するべき人は、ゲームにおける情報をユーザーに提示するインタラクションな存在です。相互作用とよく言われますけど、そこの部分を管理している人がユーザーエクスペリエンスの責任者であるべきだと言っていました。
小野:それがすべてですね。難しいですよね。日本ではUXデザイナーというのは、UI/UXデザイナーという言われ方をしますが、UI/UXデザイナーというのはオプション画面をデザインする人、下手するとアイコンをデザインする人という誤解があるんですけれども、そうではないということですね。
セリア:それは日本だけではありません。これはユーザーとのやりとりをすべてユーザーエクスペリエンスと考えるべきで、例えばクラフト要素があれば「どういうふうに作るのか?」「どういうふうに組み立てさせるのか?」というところですね。
小野:なるほど。それからセリアさんの個人的な話もちょっとうかがってみたいんですけれども、セリア自身がUXデザインに興味を持つようになったきっかけはなにかありましたか。
セリア:さっきの質問の解答に補足で、最後にどうしても言いたかったのは、ユーザーエクスペリエンスというのは、基本的にゲームの全部なんだから、みんなで責任を負うべきものですよね。アートもゲームデザインもUIも、全部ユーザーエクスペリエンスなので。
なぜ興味を持ったのかは、科学とゲームが好きで、そこが交差するのがユーザーエクスペリエンスだったからでした。それから開発者のみなさんが目標を達成するのを支援するのがすごく好きだったこともあります。
UXデザイナーという役職のキャリアパス
小野:もう1つだけお願いします。UXデザイナーという役職のキャリアパスについて教えてください。どのようにしたらUXデザイナーになれるのでしょうか? また、セリアさんのように博士号を持っていらっしゃる方はUXデザイナーには多いのでしょうか?
セリア:私自身はUXデザイナーではなくて、なにかを描いたり作ったり設計したりしている人と共に働くというやり方をしているので、私自身はデザイナーではないんですよ。もちろんUXデザイナーになるのに博士号は不要です。どちらかというと、人間とコンピュータのインタラクションに関する知見・知識を修めておいたほうがよいと思います。
小野:あと、いくつかSli.doのほうに質問が来ているので、こちらのほうも拾っていきたいと思います。まず「UXデザインはまだ新しい分野だと思うのですが、UXデザインの理解を社内で広げていくにはどうすればいいと思いますか?」。
セリア:まずコミュニティみたいなものを作って、例えばWebデザインや工業デザイン、インダストリアルデザインみたいな領域では比較的より親しまれているものなので、そちらの人とかを連れてきてもらうこともありますね。
小野:なるほど。そうやって仲間を徐々に広げていくってことですね。
セリア:そうです。コミュニティを作ってというお話をまずされてましたね。西洋では、私のWebサイト上でもコミュニティみたいなものがあります。ただ、みんな英語でしゃべってるところが障壁になっちゃうかもしれませんが。日本でもコミュニティを作られるのが一番早いんじゃないかなと思います。
現実社会のUXデザインで意識すべきこと
小野:そうですね。あと、これはなかなか難問ですよ。「現実世界はゲームの世界よりもすごく複雑なので、現実世界におけるUXはゲームよりも非常にノイズが多いですよね。一方でFortniteではよく代替現実ゲーム、ARGのような現実社会でのイベントやプロモーションも行なわれていますが、そのような場合に現実社会のUXデザインでなにか意識すべきことはありますか?」と。これなかなか難しいですね。
セリア:そうですね。大変難しいかなとは思いますけれども、やはり基本はテストになるかなと思います。例えば脱出ゲーム。こちらでも人気があるんですけれども、そういったものでは、テストを通じて参加者のみなさんがどういったことをしているのかから仮説を立ててまた改善していくようにしていくので、根本的には取れる手段は違うけれどもアプローチとしては同じになるのではないかと思います。
ただ、Fortniteの場合のARGはもうそもそも大人気になってからのプロモーションだったということで、ほかのARGと比較することはちょっと難しいかなとは思います。
また、拡張現実のほうのARのほうも同じく難しいだろうと。やはり現実世界のノイズをクリアするのはそもそも無理ですし、我々がゲームとして提供している画面のほかに、現実世界での注意力を削がれたり、ノイズが入ったりすることはあるので、それはやはりこれからの課題じゃないかと思います。
小野:そうですね。確かに確かに。ほかにいくつかコメントが来ているのでご紹介すると、「日本でも今ではインターフェースデザインをUIデザイナーに丸投げするゲーム会社はそれほど多くはないと思うが、UI/UXの専門家ではないゲームデザイナーがたたき台を作って、それをUIデザイナーがプロフェッショナルな知識で整えるかたちが増えているのではないかな」というのが1つありましたね。
セリア:そうですね。こちらでもやはり小さい会社とかだとそういうかたちをとっているところも多いですね。だからこそ私はあの本を書いたというのがあって、みなさんが共通認識を得る上で1つの情報源になることもあって勧めています。
いいUXは「見えない」こと
小野:最後に、「明示的なHUDではなくて、最近はとくにAAAゲームでは、ゲームの世界の中にUIが溶け込んでいるような、例えばキャラクターの背骨がヒットポイントのゲージになってるとか、そういったものが増えているので、どうやって適切に情報をプレイヤーに見せるかが難しくなってきていますよね」というコメントもありましたよね。うん、なんかジレンマが大変ですよね。
セリア:これはもう本当にゲームによりますよね。というのも、ゲーム内からHUDの要素を削除すればするほど、それはイコール、プレイヤーの記憶に頼ることになってしまう。
小野:確かに。でも、例えばVRゲームなんかはね、まさにそういう傾向にありますよね。
セリア:そうですね。みんな酔っちゃいますからね。
小野:そうですね。というわけで、ほかに……これで一応全部拾ったかな。あともう1つだけ。最後の質問ということで、「Fortniteを除いて、優れたUXデザインがされていると感じるゲーム、なにかあれば教えてください」。
セリア:難しい質問ですね。任天堂の先ほどの例なんかは、デザインという意味ではないですけれども、UXのアプローチとしてすばらしいものがあるんじゃないかと思います。それから先ほどちょっとお話にあがっていた背骨に出てくるといった『Dead Space』みたいなのもいいんじゃないかなと思います。うーん……いいUXは見えないんですよね。
なんか遊んでるうちになんとなくできるようになったとか、なんか苦労しない間にうまくになってたとか、そういうかたちになっているゲームは、すべて優れたUXを持っていると考えていいんじゃないかと思います。
小野:なるほど。ありがとうございました。ちなみにdiegetic interfaceという話もありましたけれども、僕は別にボーンデジタルの回し者ではありませんが、ボーンデジタルからは『ゲームインターフェイスデザイン』という本も出ておりますので。こちらですね。これなかなかいい本ですね。僕も読みました。
来年の「UX Summit」で会いましょう
小野:残念ながら今年は延期になってしまいましたけれども、毎年GDCでは「UX Summit」というスペシャルレクチャーをやっています。UXに関して講義がある日もあって、セリアさんもそこのアドバイザリーボードとして毎年参加されていらっしゃいます。ぜひ来年GDCに行く機会がある人がいれば、たぶん僕もいると思いますが、そちらでお会いできればと思います。
矢澤:今年はサミットないんですか?
小野:今年の夏はたぶんないと思う。
矢澤:ああ、3日間だから。
小野:うん、そうそう。そうですね。
じゃあ、このへんでセミナーを終わりたいと思います。こちらの動画はIGDAのYouTubeチャンネルでずっと録画版を公開しておりますので、見逃した方もぜひ見ていただければと思いますし、また、残念ながらリアルタイムで見れなかったという人も教えてあげていただければと思います。
じゃあ、セリアさん、Thank you so much for long time. 今、midnightですからね。
セリア:とても楽しかったです。今度は直接お会いできるのを楽しみにしています。
小野:Yeah. ぜひ。
矢澤:イエーイ! Sushi, Tenpura。
小野:そうですね(笑)。Japanese Izakayaでね。
セリア:Yeah!
小野:じゃあ、どうもありがとうございました。
矢澤:Thank you!
セリア:Thank you. Bye bye.