人工知能を欺くマスクや衣服…顔認識技術から自分を守るアイテム

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HKU Design/Jip van Leeuwenstein

  • 顔認識技術は、今やあらゆるところで用いられている。アメリカでは、成人の半数以上の顔写真が警察のデータベースに登録されているとの調査結果もある。
  • こうした監視社会への流れを押しとどめようと、顔が認識されるのを防ぐ衣服や小物が開発されている。
  • ファッションと技術を融合させたこうしたアイテムは、人の顔を検知して身元を特定するアルゴリズムを欺くことができると言われている。

「はいチーズ!」と今、あるいは、過去数年以内にカメラを向けられた経験があるなら、あなたの顔画像のデータはすでに共有されているだろう。

顔認識技術は今や広く普及し、日常生活へも浸透してきている。アップルやグーグルといった大手テクノロジー企業は、セキュリティ強化の手段として顔認証技術を盛んに宣伝している。この技術があれば、見知らぬ誰かにiPhoneをアンロックされたり、家の鍵を開けられたりするのを防げるというのだ。

顔認識技術は警察などの政府機関でも利用されている。ジョージタウン大学の研究者が行った調査によると、アメリカでは成人のうち半数以上の顔写真が警察のデータベースに登録されているという。アメリカだけでなく、顔認識技術は世界中の政府機関で反体制派の人々を特定し、その行動を追跡するためにも用いられており、最近では香港の警察が反政府デモ対策に採用したとも伝えられている。

こうした監視強化の流れを押しとどめようと、プライバシーを重視するデザイナーや研究者、活動家が、顔認識技術を欺くことを目的としたウェアラブルなアイテムや衣服を開発している。

顔認識ソフトウェアは人工知能(AI)を使って、人の顔や姿形をリアルタイムで検知している。しかし、こうしたソフトの認識機能は100%正確ではない。服に誤認識されやすい模様をプリントすることでソフトを「かく乱」し、カメラが捉えたものの正体をAIに悟られないようにすることは可能だ。ほかには、偽の顔画像によってAIを混乱させ、正しい認識をさせないようにするデザインもある。

こうしたデザインは、インスタレーションなどのアート作品や、学術的プロジェクトの枠内に収まっているものがほとんどだ。だが、顔認識技術の普及が進む中で、有効な防御機能を持つファッションアイテムとして、次のトレンドになる可能性をはらんでいる。

以下では、顔認証技術を出し抜くことを目的に考案された、独創的で奇妙なデザインの数々を紹介しよう。

レンズのような凹凸を持つ透明なマスクは、顔認証アルゴリズムによる人物の特定を防ぐものだ。顔が透けて見えるため、対面している人には身元や表情がわかる。

レンズのような凹凸を持つ透明なマスクは、顔認証アルゴリズムによる人物の特定を防ぐものだ。顔が透けて見えるため、対面している人には身元や表情がわかる。

HKU Design/Jip van Leeuwenstein

この「監視回避」のためのマスクは、イップ・ヴァン・リーウェンステイン(Jip van Leeuwenstein)氏が、オランダのユトレヒト芸術学校在学中に考案したものだ。


マスクの表面には凹凸が設けられており、これにより、あらゆる角度からの顔認識がブロックされる。

マスクの表面には凹凸が設けられており、これにより、あらゆる角度からの顔認識がブロックされる。

HKU Design/Jip van Leeuwenstein

「このマスクは透明なので、自分の身元や表情が隠されることはない。だから、周囲にいる人たちとは意思疎通が可能だ」と、作者のヴァン・リーウェンステインは解説している

同じくオランダでデザインを学ぶ学生が考案したこちらのプロジェクターは、装着した人とは別の顔の映像を、顔の上に投影するものだ。

同じくオランダでデザインを学ぶ学生が考案したこちらのプロジェクターは、装着した人とは別の顔の映像を、顔の上に投影するものだ。

HKU Design/Jin-cai Liu

このウェアラブルなフェイス・プロジェクターを考案したジンツァイ・リュー(Jing-cai Liu)氏は、その仕組みについて「小型プロジェクターが、装着した人の顔に別人の顔の画像を投影し、外見を完全に変える」と解説する。


このデバイスでは、投影する顔画像を頻繁に差し替えるため、ソフトウェアによる顔認識はいっそう難しくなる。

このデバイスでは、投影する顔画像を頻繁に差し替えるため、ソフトウェアによる顔認識はいっそう難しくなる。

HKU Design/Jin-cai Liu

リュー氏が考案したこのフェイス・プロジェクターは、9月に入って、香港で起きている反政府デモの参加者が使用しているとのツイートが拡散し、ネット上で大いに話題を呼んだ。だがこれは事実と異なり、その後ツイートの内容が誤りであることが明らかになった


LEDを装着したこちらのゴーグルは、顔認識技術を回避する目的で、日本の研究者が考案したものだ。

LEDを装着したこちらのゴーグルは、顔認識技術を回避する目的で、日本の研究者が考案したものだ。

National Institute of Informatics/Isao Echizen

この「プライバシーバイザー」は、国立情報学研究所の教授で、副所長を務める越前功氏が開発したものだ。その目的は、本人の許可なく人の顔を記録する監視カメラから、プライバシーを守ることにある。

越前氏の研究室提供の画像を見ると、このバイザーがAIの顔認識機能をブロックしていることがわかる。

越前氏の研究室提供の画像を見ると、このバイザーがAIの顔認識機能をブロックしていることがわかる。

National Institute of Informatics/Isao Echizen

このバイザーには近赤外線のLEDが装着され、これが人の視覚に影響を与えることなく、撮影画像にノイズを付加するという。LEDを点灯すると、装着者の顔は、AIからは人間の顔として認識されなくなる。上の画像における緑の線は、AIによって顔として認識されたことを示すものだ。LEDをつけた時のみ、装着者の頭部が緑の線で囲まれていないことがわかる。

こちらの布製の覆面は、ドイツのデザイナーが考案したものだ。解像度の低い顔画像を模している。

こちらの布製の覆面は、ドイツのデザイナーが考案したものだ。解像度の低い顔画像を模している。

Martin Backes

覆面マスクの生みの親であるマルティン・バックス(Martin Backes)氏は、「この『ピクセルヘッド』(Pixelhead)は、メディア向けのカモフラージュとして機能する。頭部を完全に覆うので、公の場で許可なく撮影された写真でも、装着者の顔は人の顔として認識されない」と解説している。


AIによる顔認識をブロックする手段として、奇抜なメイクやヘアスタイルを提案しているアーティストもいる。

AIによる顔認識をブロックする手段として、奇抜なメイクやヘアスタイルを提案しているアーティストもいる。

Coreana Museum of Art/Cha Hyun Seok

ファッションで顔認識技術に対抗するこのメイクは、「CVダズル」(CV Dazzle)と呼ばれ、アーティストのアダム・ハーヴェイ(Adam Harvey)氏が最初に提唱したものだ。上の写真は、韓国のソウルにあるコリアナ化粧博物館で実施されたワークショップの様子だ。このテクニックを用いたメイクが参加者に施されている。

CVダズルは、メイクと髪に装着するエクステンション、アクセサリー、ジュエリーなどを組み合わせて、人の顔を変貌させる試みだ。

CVダズルは、メイクと髪に装着するエクステンション、アクセサリー、ジュエリーなどを組み合わせて、人の顔を変貌させる試みだ。

Cha Hyun Seok/Coreana Museum of Art

CVダズルという名称は、第一次世界大戦で用いられた戦術に由来する。海軍の船舶を白と黒の縞模様に塗装し、遠隔地から船の大きさや向きを検知しようとする敵軍をかく乱するという作戦だった。

多数の顔が描かれたこちらのスカーフは、オランダでデザインを学ぶザンネ・ヴェーケルス(Sanne Weekers)氏が考案したもので、顔認識アルゴリズムを混乱させる効果を狙っている。

多数の顔が描かれたこちらのスカーフは、オランダでデザインを学ぶザンネ・ヴェーケルス(Sanne Weekers)氏が考案したもので、顔認識アルゴリズムを混乱させる効果を狙っている。

HKU Design/Sanne Weekers

ヴェーケルス氏はこのスカーフの狙いについて、「過剰な情報を与えられてソフトウェアは混乱し、装着した人は『透明人間』と化す」と説明している。


こちらは、ベルギーの研究チームが開発したプリント柄の試作品だ。衣服にこの柄を付加することで、監視技術を「攻撃」し、混乱させることを目指している。

こちらは、ベルギーの研究チームが開発したプリント柄の試作品だ。衣服にこの柄を付加することで、監視技術を「攻撃」し、混乱させることを目指している。

KU Leuven/Toon Goedemé

「敵対するパッチ」と呼ばれるこの柄は、コンピューターサイエンスを専攻するベルギー人研究者のシモン・ティス(Simen Thys)、ヴィーベ・ヴァン・ランスト(Wiebe Van Ranst)、トゥーン・ゲードメ(Toon Goedeme)の3氏によって開発された。この研究は、ルーヴァン・カトリック大学の資金援助を得て行われた。

「この技術を、高度な衣装シミュレーションと組み合わせれば、人々を自動監視するカメラから、人を実質的に『見えなく』させるTシャツの柄を開発できると我々は考えている」と、研究チームは述べている。



あるアーティストが作成したこのマスクは、顔認識を回避し、プライバシーの侵害に関するメッセージを送る。

あるアーティストが作成したこのマスクは、顔認識を回避し、プライバシーの侵害に関するメッセージを送る。

Christine Butler/Courtesy of Zach Blas

マスクを作成したザック・ブラス(Zach Blas)氏は、以下のように記している

「この『顔武器化セット』(Facial Weaponization Suite)は、生体認証による顔認識技術や、こうした技術により拡大される格差に対して抗議の意を示すものだ。ワークショップで参加者の顔から集約したデータをもとにモデリングした『集合体マスク』を作成した。その結果、生体認証技術では人間の顔として認識できない、匿名性を有するマスクができた」


ブラス氏のマスクは、アルゴリズムを用いた顔認識技術が、新たな偏見を生み出し、誤判定を引き起こす可能性について、問題を提起するものでもある。

ブラス氏のマスクは、アルゴリズムを用いた顔認識技術が、新たな偏見を生み出し、誤判定を引き起こす可能性について、問題を提起するものでもある。

Zach Blas

ブラス氏は、自らが発案した覆面マスク(上の写真)の制作意図について、「『黒』という概念を構成する3つの要素」を描写する点にあると述べている。その3つとは「肌の色で人種差別主義者を検知できない生体認証技術」「兵器などの軍の装備において黒が多用される傾向」「情報の読み取りを困難にするために使われる黒」だという。

[原文:These clothes use outlandish designs to trick facial recognition software into thinking you're not a human

(翻訳:長谷 睦/ガリレオ、編集:Toshihiko Inoue)

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