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人工知能やロボティクスといったテクノロジーの発展により、働き方が大きく変わる可能性が指摘されている。その議論の中でよく言及されるのは、トラック運送業だろう。自動運転技術の実装が現実化するにつれ、300万人にもの運転手の雇用が奪われるという見方がある。だが、米国労働統計局に勤務する筆者らは、そうした予測は誇張されていると指摘する。


 人工知能(AI)や機械学習、ロボティクスなどのテクノロジーは、21世紀の労働市場を一変させるだろう――こうした言葉を見聞きしない日は、ほとんどない。

 よく言及される例は、トラック運送である。複数の業界にまたがり、全米の貨物重量の7割超を動かすこの職は、自動運転技術の発展により大々的に失われるだろうと考えている人は少なくない。自律走行車は、今後数年でトラック運送に従事する200万人~300万人分の仕事を奪うと予測する向きもある。

 だが筆者らがデータを見る限り、自動化による雇用喪失のリスクは非常に現実的ではあるものの、しばしば言及されるこの種の予測は誇張されている。その論拠として、筆者らは『インダストリアル・アンド・レイバー・リレーションズ・レビュー』誌に掲載された研究論文で、以下の3点を主張している。

理由1:トラック運転手の仕事は、トラックの運転にとどまらない

 自動化技術は運転という作業を完全に遂行できる、と仮定してみよう(この点は再度後述する)。トラック運転手の仕事は運転だけだろうか。もちろん、否である。車両の点検、積み荷の保護、運送記録の記入・管理、顧客サービスの提供などを含め、実にさまざまな作業がトラック運転手には求められる。

 こうした作業の多くは、自動化の実現からは、ほど遠い。たとえば、トラックへの積み込みや荷下ろしを自動化する技術は、現時点では実用化されていない(あるいは広範な実験が行われていない)。積み下ろしの作業によく使われる器具(パレットジャッキなど)は、身体への負担を減らすものでしかない。この重要な仕事をこなすには、依然としてトラック運転手の存在が必要だ。

 次に、顧客サービスを考えてみよう。トラック運転手は貨物の積み下ろしをする際に、その現場で顧客への対応も行うのが一般的である。正規の顧客サービス担当者の仕事を補完しているわけだ。

 他の業界のように、こうした顧客サービス業務は正規の担当者に引き継がれるか、テクノロジーに代替されるかもしれない。だがそれが実現する日までは、企業はサービス業務の遂行をトラック運転手に頼り続けることだろう。

 たしかに、一部の作業は自動化に近づいている。たとえば、積み荷の不均衡やタイヤの空気圧低下といった安全上の問題を点検する作業は、センサーによって実行できる。しかし、それらの問題に対処する際には、やはり人間が介在しなければならない。センサーがタイヤのパンクを検知しても、それを修理するのは運転手なのだ。

 ほかにも、多くの運送会社で自動化されている作業として、運送記録の更新、送り状の作成、その他もろもろのペーパーワークがある。これらはトラック運転手にとって多くの時間を要するものではない。したがって、この種の作業が完全に自動化されても、運転手の需要に大きな影響は及ばないと思われる。