メルカリはなぜグローバル採用で勝てるのか?—— 世界の“GAFA”と肩を並べた争奪戦

フリーマーケット・アプリのメルカリが、グローバル人材採用に猛攻を見せている。

2018年10月1日に入社した新入社員100人のうち、44人のテック人材が9カ国にまたがるグローバル採用。優秀なエンジニアの獲得が世界的な争奪戦となる中、メルカリはGAFA(グーグル、アップル、Facebook、アマゾン)と並んで、サービス未進出のインドでも有名大学の学生の採用に成功している。

サービス開始から5年というメルカリが、世界の“巨人”との人材争奪戦に食い込み、グローバルテックカンパニーへと歩を進めている理由はどこにあるのか。

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10月1日入社のメルカリ新入社員は、史上最多の外国籍だった。

10月1日、東京・六本木ヒルズ森タワーのメルカリ本社のフロアには、大勢の報道陣が詰めかけていた。テレビカメラが回る中、日本語と英語を交えながら和やかなムードで始まったのが、新卒と中途採用と合わせて行う、メルカリの入社説明会だ。

通年採用のメルカリでは、入社説明会は毎月のように開かれる。ただ、この日が特別にメディア向けに公開されたのは、この10月入社の社員が「メルカリ史上最大規模の外国籍新卒社員が入社」するという、グローバル市場攻略を目指すメルカリにとっては、象徴的な日だったためだ。

「すべてはチームのために、一人ではやれない大きなことをやろう。大きなミッションを掲げて進んでいく中でバリューアップし、成長の果実を分け合い、成し遂げたことを楽しんでいきましょう」

黒地に白抜きのメルカリのロゴTシャツを着た山田進太郎会長兼CEOは、リラックスした雰囲気で、約100人の新入社員に語りかけた。同時通訳のヘッドフォンをつけた新入社員の顔ぶれは、国境を越えて多彩だ。

メルカリによると、10月1日入社の新入社員の国籍の内訳は、インド32人、日本6人、台湾(中国)3人、アメリカ2人、中国2人、イギルス・ベルギー・フランス・カナダ・シンガポール各1人。

山田会長

Tシャツ姿で登壇した、メルカリの創業者、山田進太郎会長。

2014年にはアメリカ進出に乗り出し、「グローバルマーケットプレイスでの価値の創出」を掲げるメルカリ。「優秀な人材であれば、国籍を問わずに採用する」(People&Culture部門担当の執行役員、唐澤俊輔氏)というとおり、すでに社内には28カ国にまたがる国籍の社員がいる。

語学サポートや、カルチャーショックを和らげるための社員同士の交流企画、世界の料理が食べられるスポットの紹介など、グローバル人材の受け入れに、社を挙げて取り組んでいるという。

メルカリがグローバル採用に強い3つの理由

メルカリ

1100人超のメルカリ社員の国籍は、28カ国に渡るという。

経済のグローバル化に伴い、世界市場で勝ち残るためには、優秀なグローバル人材の確保は不可欠になっている。中でも、世界の巨人GAFAと競い合うことになる、ハイスキルのエンジニアの採用は、日系企業も苦戦しているのが現状だ。

ではなぜメルカリは、この10月の30人超のインド人をはじめ、多国籍のエンジニアの採用を実現しているのか。メルカリのこれまでを追うと、3つの理由が見えてくる。

1.魅力的なハッカソンの開催

「インドでメルカリのアプリはまだ使えないのですが、インド工科大でメルカリは有名です。その理由は、インドでハッカソン(ソフトウェア開発などのアイデアを競う大会)が開かれたことがあります。私もハッカソンをきっかけにメルカリを知り、グーグルでどんな企業か調べて興味を持ちました

そう話すのは、10月の新入社員の一人で、インド工科大でコンピューターサイエンスとエンジニアリングを専攻したサヒル・リシさん(22)だ。2017年にメルカリがインドで開催したハッカソンの優勝者で、その後、メルカリでインターンを経験し、入社を決めた。

「ハッカソンは機械学習のようなホットトピックを扱う内容で、自分の好きな仕事ができると思いました。大学で他に人気のグローバル企業はグーグルやアマゾン、ウーバー、ネットフリックスなどですね」(リシさん)。

2017年10月、ムンバイで開催したハッカソンでは、賞金を1位2500米ドル、2位1500ドル、3位1000ドルに設定。上位10位入賞者は日本に招待した。

優秀層の学生は、各国のエンジニア間ではもはやインフルエンサーという。ハッカソンの様子はSNSでシェアされ、結果的に、学生にもトップ大学にもメルカリの知名度は上がったようだ。

「インドの採用の仕組みは独特で、一度、オファーを受けると他の企業は受けられない。なので大学で行われる採用面接は、早いほど有利です。我々はGAFAと並んでトップグループに入れました」(執行役員の唐澤氏)。

2.知名度以上のやりがい

新入社員

記者団の囲み取材に応じた、サヒル・リシさん(左)と、アディラ・ロウさん。

では、GAFAと並んだ後の「決め手」はどこにあるのか。

アメリカのカリフォルニア州出身で、カーネギーメロン大学で統計学と機械学習を専攻したという、やはり新入社員のアディラ・ロウさん(22)は、「あえてメルカリ」の理由をこう説明した。

「日本のファッションが大好きで、一番安く買えるのがメルカリアプリでした。入社を決めたのは、すでに成功しているFacebookやグーグルのような企業よりも、まだ先のある会社でのチャレンジが楽しいと思ったからです

GAFAで働くことを望む学生でも、採用後はアメリカ本社ではなく「現地採用」になる場合が多い。それで迷う学生にとってメルカリは魅力だ。

9月末にメルカリ本社で開かれた、コンピューターサイエンスを専攻する中国人学生向けのハッカソンに参加した浙江大学修士2年諸凱麗さん(24)。メルカリのほか、中国国内のマイクロソフトやグーグルなどを就職先に検討中だ。

メルカリ

メルカリが主催したハッカソンで、学生たちは自身が開発したアプリを紹介し、アイデアが技術を競った。

撮影:木許はるみ

ただ「中国国内の(マイクロソフトやグーグルの)オフィスは支社。コアテクノロジーは本国で開発している」と、仕事のやりがいの面で不安がある。その点「メルカリは本国の日本で、技術開発に携われる点が魅力」だという。

3.柔軟な評価制度

メリハリある評価制度も当然、優秀な学生には魅力だ。「高額報酬を売りにはしていませんが、適正な能力評価はあります。新入社員でも、能力に応じて数百万円程度の年収の差はある」と、前出の唐澤氏は明かす。その報酬も、定期的な成果に応じて、柔軟に変わる。

日本企業のグローバル採用のネックになりがちな、「一括採用、年功序列」とは無縁なことも、大きな要素だ。

人材という最大の投資に強気

新卒、中途とも毎月数十人単位の採用を進め、グローバルテックカンパニーへの道を邁進するかのようなメルカリだが、不安材料がないわけではない。

メルカリ株価は、6月の東証マザーズ上場初日に最高値の6000円をつけてからは振るわず、3000円代に落ち込むなど低迷を続けている。というのも、2018年6月期決算は、アメリカ事業への投資負担で最終損益が70億円の赤字。その一方で、アメリカでの事業成長スピードが、日本市場に比べて遅いことなどが指摘されてきた。

確かに現時点でアメリカ事業、その先の世界進出の先行きは、未知数だ。ただ、これに対するメルカリの姿勢は揺るぎないと言えそうだ。

冒頭の、「メルカリ史上最大規模」の外国籍新卒社員となった入社式のウエルカムスピーチで、山田会長はこう強調した。

グローバルテックカンパニーとなるには、人材こそがもっとも重要です

目下の赤字も先行投資と割り切り、「人材」という未来への最大投資を加速させている。

(文・写真、滝川麻衣子、木許はるみ)

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