11月9日、Zach Stein-Perlmanが「Ajeya: AI is dramatically accelerating AI research right now」と題した記事をLessWrongに公開した。AIによるAI研究の「劇的加速」という閾値がすでに突破されている可能性がある——Anthropicが上場申請書類の中でその現実味を認め、さらにAI評価機関METRの内部報告書がその可能性を裏付けているという、AGIタイムライン議論を大きく揺るがす内容だ。
AnthropicがS1で「劇的加速」の閾値に言及
Anthropicは今週、S1(米国証券取引委員会=SECへの新規株式公開に際して提出が義務付けられる上場申請書類)の中で、自社のResponsible Scaling Policy(RSP)において定義した「AIによる劇的加速(dramatically accelerated progress due to AI)」の閾値に「間もなく達する可能性がある(may imminently meet)」と記述した。
RSPは、AIの能力向上に応じて安全対策を段階的に強化することを定めた方針文書であり、2026年7月に改訂された最新版では、この閾値を以下の2条件で定義している:
- AIがAI研究開発にほとんど貢献していなかった時期の、最も速い持続的な進捗速度と比較して、全体の能力進捗が2倍になっていること
- その加速が、計算資源の増加などではなく、AIがAI研究開発を自動化していることに起因すると合理的に考えられること
なお、この言及はAnthropicが公式ブログや研究発表として能動的に開示したものではなく、SECへの法定提出書類に含まれていた記述である点に留意が必要だ。
METRの調査が示す「閾値突破」の実態
記事の著者であるZach Stein-Perlmanは、AI評価機関METR(Model Evaluation & Threat Research)の複数の同僚が、AnthropicのAIシステムが自社の研究開発をどの程度加速しているかを調査した報告書を参照している。その結論は明確だ:「劇的加速」の閾値はすでに超えられている可能性が高い。
報告書が示した主な知見は以下の2点だ。
1. 2025年10月〜2026年10月の1年間で、能力進捗速度が前年比約2倍になった。
計測指標には、Anthropic内部版のEpoch Capabilities Indexである「AECI」が使われた。さらに広範な支持証拠が存在するが、その大部分は報告書中で黒塗り(redact)されており、著者らはその部分が「最も有益と判断した証拠の大半」と述べている。
2. 加速の「大部分の原因」がAIによる自動化にある。
当初は複数の要因が重なって速度が上がった可能性があるが、現在もこのペースが続いている主因はAI自動化であるとされる。この判断の根拠も黒塗りになっている。
なぜこれが重要なのか
Stein-Perlmanは、この報告書を「過去数年間のAIリスクに関する最も重要なアップデート」と位置づけており、AIセキュリティ分野でこれまで大きく報じられてきた複数の重大事案と比較しても、より根本的な意味を持つ出来事だと評価している。
注目すべき論点がある。AIが全体の能力進捗をおよそ2倍にしているとすれば、個々の人間研究者の生産性はそれをはるかに上回る倍率で向上しているはずだという指摘だ。AIが一部の作業を自動化することで、人間が担う部分の密度と速度が変化するためである。
Stein-Perlmanは、この結果が、**AI 2027チームを含む多くの外部研究者が従来予測してきたタイムラインよりも、AGI到達が大幅に早まることを示唆している**と述べている。
黒塗りの多さが示すもの
報告書の「証拠の大半が黒塗り」という事実は、それ自体が一つのシグナルである。公開情報だけでは全体像を評価できない状況であり、METRとAnthropicの間でどのような情報共有がなされているかも不透明だ。再帰的な自己改善(AIがAI研究を加速し、それがさらに強いAIを生む)の現実味が増す中で、透明性の欠如は安全性の議論においても重要な論点になる。
AjeyaことAjeya Cotra(Anthropic所属の研究者)は、自身のXスレッドで本件についての見解を公開している。
詳細はAjeya: AI is dramatically accelerating AI research right nowを参照していただきたい。