11月8日、The Decoderが「The gap between open and closed AI models in cyber capabilities keeps shrinking」と題した記事を公開した。この記事では、オープンウェイトAIモデルがサイバー攻撃能力において商用クローズドモデルとの差を急速に縮めていることが詳しく報告されている。
DeepSeekのスコアはGPT-6の約90%——格差縮小の実態
AIエージェントが単独でリアルな企業ネットワークに侵入できるか。Vals AIが開発したCyberOffenseベンチマークはこれを検証するもので、各エージェントは隔離された攻撃マシンから、公開されたWebアドレスのみを手がかりに、人間のサポートなしでテストを開始する。
具体的には、Kali Linux(セキュリティ専門家が侵入テストに広く用いるLinuxディストリビューション)マシン上でエージェントが独立して動作し、シミュレートされた企業ネットワークにコマンドを送信。WebアプリケーションからWindowsサーバーを経由して管理者権限を奪取するまでの過程を外部ログで自動採点する構成だ。
なお「オープンウェイト」とは、モデルの重み(パラメータ)が一般公開されており、誰でもダウンロード・実行・改変できる形式を指す。GitHubで公開されたソフトウェアと同様に、いったん公開されれば提供元でも配布を止める手段がない点が、商用クローズドモデルとの本質的な違いである。

GPT-6 Sol Daybreakが首位、DeepSeekが肉薄——スコアの読み方
最高スコアを記録したのは、OpenAIの制限付きサイバーセキュリティプログラム「Daybreak」向けに開発されたGPT-6 Solで、目標達成率は**80.8%**。
これに対し、自由に利用できるオープンウェイトモデルの**Deepseek V4.1 Flash 1017は72.8%と僅差で追う。タイトルに記載した「約90%」はこの72.8÷80.8≒90%という比率に基づくものであり、達成率そのものは7割強である点に注意されたい。コストは1回あたり約3ドルで、GPT-6 Solの約22ドルと比べて7分の1以下**だ。
| モデル | Nova(21目標中) | Lighthouse(31目標中) |
|---|---|---|
| GPT-6 Sol Daybreak | 15.7(3回平均、範囲12〜19) | 27 |
| Deepseek V4.1 Flash 1017 | 16.3(3回平均、範囲15〜18) | 21 |
| Kimi K3.1 Pro | 13 | 20 |
| Meta Wonder | 7 | 28 |
| Grok 4.7 | 12 | 16 |
| Kimi K3 | 9 | 10 |
| GLM 5.3 Flash | 5 | 5 |
より難易度の高い「Lighthouseテスト」では、Daybreakが最初の企業の管理者権限を奪取し、盗んだパスワードを使って第2の企業にも侵入。3時間以内に31目標中27を達成した。DeepSeekは10分の1のコストで21目標を達成しており、失敗の主因はセーフティガードレール(モデルが有害な行動を拒否する安全機構)ではなかったという点がVals AIの報告で強調されている。

「短いテストはオープンモデルを過小評価する」
今回の研究で浮かび上がった重要な知見が、トークン消費量とスコアの相関だ。DeepSeekは最初の2500万トークンではスコアがゼロで、1億トークンを超えてからようやく大半の進捗を記録した。短時間・低トークン数のベンチマークでは、オープンモデルの実力を著しく見誤る可能性がある。

英国AISIやAnthropicの研究も同じ方向を示す
この結果は単独の知見ではない。2025年7月に英国のAI安全機関(AISI: AI Safety Institute)が発表した分析でも、オープンモデルとクローズドフロンティアモデルのサイバー能力格差は4〜7ヶ月にまで縮小していることが示されている。2025年前半時点では6〜10ヶ月の差があった。
コスト面でも差は歴然で、AISIによればDeepSeek V4-Proを使ったサイバーレンジ実行は1.19ドル、AnthropicのOpus 4.5は85ドルだ。さらにAnthropicが発表した別の研究では、無償公開モデルのGLM-5-3が、同社の内部トップモデル「Mythos」とほぼ同水準のエクスプロイト(脆弱性を悪用するコードや手法)生成能力を持つことも確認されている。
オープンウェイトモデルの規制論争と防御への応用
オープンウェイトモデルはいったん公開されれば、いかなるプロバイダも使用制限をかけられない——Vals AIの研究者はこの点を問題の核心として指摘している。これはオープンソースAIを巡る規制論争の中心的な論点でもあり、EUのAI Actやアメリカでの行政命令レベルの議論においても、オープンウェイトモデルへの規制の実効性は依然として解決されていない課題である。商用モデルであればAPIアクセスの遮断や利用規約による制限が可能だが、重みが公開されたモデルにはそうした手段が原理的に通用しない。
一方で、Vals AIは同じモデル群が防御側にとっての機会にもなると指摘する。脆弱性を突く能力を持つモデルは、企業が先に問題を発見・修正するためのペネトレーションテスト(侵入テスト)ツールにもなりうる。ただし実際の企業ネットワークへの攻撃は今後数ヶ月で増加するとも予測しており、楽観的な見通しだけで締めているわけではない。
詳細はThe gap between open and closed AI models in cyber capabilities keeps shrinkingを参照していただきたい。