11月6日、The Decoderが「METR finds Anthropic may have crossed its own AI acceleration warning threshold back in July」と題した記事を公開した。独立機関METRによる監査の結果、AnthropicのAI研究加速度が同社自身の定めた警戒閾値を2026年7月の時点で既に超えていた可能性があることが明らかになった。外部監査の招致を公約していたCEO Dario Amodeiのコミットメントが、今まさに問われている。
「1年で2年分」の進歩
METR(Model Evaluation & Threat Research)は、AI開発者が自社システムの制御を失うリスクを研究する非営利組織だ。2026年8月12日から10月29日にかけて、METRのチームがAnthropicに対し前例のないアクセス権を得た。チーム規模は「2.5人分のフルタイム相当」と報告されており、これは複数メンバーが異なる稼働率で参加していたためだ(全員がフルタイム従事していたわけではない)。対象となったのは未公開モデルのベンチマーク結果、学習メトリクス、従業員アンケート、社内分析資料、そしてAnthropicの研究者との約15回のインタビューである。METRはAnthropicから資金提供を受けていないが、セキュリティ上の理由からAnthropicのデバイス上で作業を行った。
監査の中核的な発見は、Anthropicのモデル性能スコアの伸び率だ。METRはこの評価に「AECI(AI Engineer Contribution Index)」という独自指標を用いている。AECIはソフトウェアエンジニアリングタスクの自律完遂率を測るSWE-benchをはじめ、長期的な研究・計画タスクを評価するHCASTなど複数のベンチマークを統合したものだ。単一ベンチマークではなく複合指標を用いるのは、特定タスクへの過適合を避け、汎用的な能力向上を捉えるためとMETRは説明している。
このAECIによると、2025年10月以降、Anthropicのモデル性能は2024年3月〜2025年10月の期間と比べて約1.9倍速く向上している。以前は年間約15 AECIポイントの伸びだったものが、現在は29ポイントに達している。これはClaude 2.1からClaude Sonnet 4.5への飛躍——つまり約1〜2世代分の能力差——に匹敵する進歩を、わずか1年で達成したことを意味する(※編集部の考察:公開済みモデルのベンチマーク推移から見ると、この2モデル間の差は業界的に「大きな世代ジャンプ」に相当する)。分析にはトレーニングが2026年7月〜10月の間に完了した未公開モデル3本も含まれている。
METRはこの加速の要因として、約80%がAnthropicの研究活動へのAI活用によるものと推定している。トレーニング計算量の増加ではないという点が重要だ。インタビューで、あるAnthropicの従業員はこう述べている。
「今やボトルネックはアイデアと計算資源だけ。コードはもうボトルネックじゃない」
別の従業員は、以前は1〜2日かかっていた実験のセットアップが「ほぼゼロコスト」になったと報告した。2026年10月の社内Slackの非公式アンケートでは、従業員が最新の社内モデルによって平均で約12倍の生産性向上を実感していると回答している。METRはこれらの自己申告を「非常に緩やかな証拠」と位置付け、過大評価の可能性を認めつつも無視はしていない。
現時点でAIは完全に自律した研究は行っていない。加速の主因はあくまでAIがアシスタントとして機能していることだが、METRは独立した貢献が近く拡大する「兆候」があるとしており、今後12ヶ月でこの加速がさらに拡大するリスクが高いと結論付けている。
警戒閾値を7月に超えていた可能性
Anthropicは2026年8月のリスクレポートで、加速度は「2倍未満」と公表していた。しかし内部の非編集版データは1.97という値を示唆しており、Anthropic自身もこの閾値を超えた可能性を「あり得る」と認めている。METRは2026年7月15日の時点で既に警戒レベルに達していた可能性があるとし、公表レポートが加速度と不確実性の両方を過小評価していると指摘した。
なお、METRは現在のところ「急性の壊滅的リスクは低い」というAnthropicの評価と見解を共有している。ただし今後6ヶ月以内に再度の急加速が起きた場合、リスク評価が急速に上がり得るとも述べている。
大きな不確実性と社内の異論
数字そのものの不確実性も大きい。METRが認めるように、真の加速係数は1.3〜3の範囲に収まる可能性がある。またOpenAI・Google・xAIのモデルを加えた業界全体の数値は1.4にとどまる。これはAnthropicが2025年に競合に遅れをとっていたことによるキャッチアップ効果が数値を押し上げている可能性があり、同社固有の「純粋な加速」とは切り離して考える必要がある。
Anthropic社内でも見方は一致していない。あるリサーチャーはAIの生産性貢献を15〜20%と見積もり、同僚の自己申告を信頼していない。別のリサーチャーは最近の進歩において新規採用が最も重要な要素だと考えているという。これらの異論はMETRの報告書にも明示されており、単純に「加速が起きている」と断言できない複雑さを示している。加速の主因がAI活用なのか、優秀な人材の獲得なのか、あるいはその組み合わせなのかは、今後の監査でも引き続き問われる論点だ。
編集権と中断されたコンピュート監査
今回の監査には重大な制約があった。Anthropicは非公開情報に対して一方的な編集権を持ち、それを広範に行使した。METRが最も有益と評価した証拠の大半——将来モデルの予測・学習ステップ別の分析・ボトルネック分析など——が削除された。Anthropicはこれを「他のAI開発者の加速につながる可能性のある機密情報の除去を目的としたもの」と説明している。
その結果、METRのレポートには「FAKE DATA」と大文字で書かれたグラフが含まれる事態となった。METRは「証拠に関する透明性は望めず、読者はMETRの判断を通常より大幅に信頼する必要がある」と明記している。
さらに、METRはAnthropicが能力研究と安全研究の間でコンピュートをどう配分しているかの検証も当初予定していたが、Anthropicはこの部分を途中でキャンセルした。「まずリスク評価に集中し、コンピュート監査は後回しにしたい」というのが理由だ。
この点を強く批判したのが、Daniel Kokotajloだ。彼はAIの開発軌跡を詳細にシミュレートしたシナリオ集「AI 2027」の共同執筆者として知られるリサーチャーであり、AIリスク分野での発言力と専門的信頼性から、その批判は業界内で特に注目を集めた。KokotajloはX上でこう述べている。
「コンピュート配分の監査こそが、減速へのコミットメントを検証可能にする基盤だ」
AnthropicのCEO Dario Amodeiは以前、外部監査機関の招致とAI速度制限の導入を公約していた。今回の監査はその流れの一環だが、コンピュート監査の中断は約束の実行可能性に疑問を投げかけている。
詳細はMETR finds Anthropic may have crossed its own AI acceleration warning threshold back in Julyを参照していただきたい。

