11月5日、startuphub.aiが「Ramp data shows AI bills crack at the top」と題した記事を公開した。法人決済データが示すAI支出の実態——上位1%の企業が全体の80%を占める一方、トークン単価の下落によってトップ層の支出額が鈍化し始めているという市場動向について詳しく紹介されている。
8万社・年間2750億ドルの決済データが語るAI支出の実態
法人カード・経費管理サービスのRampでリードエコノミストを務めるAra Kurazzian氏が、ARK Invest主催のイベント「Brainstorm 156」で語った内容が注目を集めている。
Rampは8万社以上の企業、年間2750億ドル超の法人支出を追跡しており、AIカテゴリはここ2年間で同社が追跡するあらゆるカテゴリの中で最も速く成長したという。
モデル別の法人支出シェアでは、AnthropicがOpenAIを抜いてトップに立っており、xAI GrokやMetaのモデルも企業利用が拡大傾向にある。Anthropicについては、IPO準備に向けた積極的な価格戦略が指摘されており、AnthropicのフラッグシップモデルがRampデータでシェアを伸ばしていることも確認されている。
「使用量は増加、請求額は減少」という逆転現象
Kurazzian氏が「AIテーゼのひび割れ(cracks in the AI thesis)」と表現した現象は、2つに整理できる。「AIテーゼ」とは「AI投資・利用拡大が収益に直結する」という市場の前提認識を指しており、その前提に綻びが生じているという意味合いだ。
1. 支出の極端な集中
上位1%の企業がAI支出全体の80%を担っている。この上位1%は大半がVCバックのテック企業だ。
2. トップ層の支出鈍化
その上位1%が、9月から10月初頭にかけて支出を抑制し始めた。ただし、トークンの消費量(モデル利用の課金単位)は増加し続けている。つまり「使用量は増えているのに請求額は下がっている」という状態だ。
Kurazzian氏はこの現象を「AIの縮小」ではなく「AIの低コスト化」と説明する。OpenAIとAnthropicの価格競争、大口エンタープライズ契約への割引、軽量モデルの性能向上が重なり、同期間でトークン単価がほぼ半減したというのが要因だ。この構図は、AIインフラコストの低下競争が激化するなかで、ベンダー間の値下げ圧力が実需の拡大ペースを上回り始めていることを示唆している。
上位1%は「最適化フェーズ」に移行
中央値の企業における従業員1人あたりのAI支出は月15ドル(1ヶ月前は12ドル)。上位10%は依然として成長を続けている。
一方、上位1%の企業は従業員1人あたり月7,000〜10,000ドルという桁違いの支出水準にある。この層はいま、コスト最適化に動き始めている。具体的には以下の施策が挙げられた:
- 自動化タスクへのフロンティアモデル(最高性能モデル)利用を制限するコントロールの導入
- デフォルト設定の見直し
- プロンプトをタスクに対して最安のモデルへ自動振り分けするルーターの活用
プロンプトルーターとは、入力内容の複雑さを判定し、GPT-4クラスの重いモデルが不要なタスクには軽量・低コストモデルを自動選択する仕組みを指す。上位1%のような大量利用企業にとって、この最適化の経済的インパクトは大きい。大量のAPIコールを日常的に処理する企業では、モデル選択の自動化だけでコストを数十%単位で削減できるケースもあり、最適化ツールへの需要は今後さらに高まると見られる。
「AIがAIに金を払っている」構造的リスク
Kurazzian氏はもう一つの構造的リスクにも言及した。AIベンダーの収益の70〜80%が、VCから資金調達した他のAI企業から来ているという指摘だ。
これはいわゆる「収益の質」問題だ。VC資金が引き締まってスタートアップへの投資が減少すれば、AI企業のコスト削減が連鎖し、AIベンダーの収益が一気に縮小するリスクを内包している。現状のAI支出は一般企業の実需に支えられているというより、VC資金を原資とした企業間の循環に依存している側面が強い。Rampのデータはその構造を数字で可視化した格好だ。
こうした構造は、2022〜2023年のいわゆる「VCの冬」を彷彿とさせるリスク要因でもある。当時はスタートアップへの資金流入が急減し、SaaSベンダーの解約増・単価下落が連鎖したが、AI支出においても同様のサイクルが起きうるという懸念は、業界内でも意識され始めている。
詳細はRamp data shows AI bills crack at the topを参照していただきたい。