11月4日、ワシントン大学が「Leading AI models are biased against certain accents when scoring interviews, presentations and tests」と題した記事を公開した。主要なマルチモーダルAIモデルが英語話者のアクセントによって評価スコアに差をつけるバイアスをワシントン大学の研究チームが実証したもので、採用スクリーニングや口頭試験への実害が懸念されている。
採用・試験スコアリングAIがアクセントで差をつける
AIが採用スクリーニングや口頭試験の採点に使われるケースが増えている。ワシントン大学(UW)の研究チームはその公平性に疑問を持ち、Google Gemini 2.5 Pro・Gemini 2.5 Flash、OpenAI GPT-4o Audio、オープンソースのQwen 3 Omniという4つの最先端マルチモーダルモデルを対象に検証を行った。
テスト内容は、就職面接・クラス発表・学会発表・英語能力試験の各シナリオにおいて、同一テキストを5つのアクセント(アメリカ、イギリス、中国、インド、ナイジェリア)で読み上げたものをAIに評価させるというものだ。音声はElevenLabsのAI音声を使って統一し、スケールの大きい比較を可能にした。さらに52人の実際の人間話者でも結果を検証している。
評価軸は「発声・話し方(delivery)」と「内容(content)」の2項目で、各1〜7点のスコアリングだ。
結果:アクセントの「ヒエラルキー」が浮かび上がる
AIモデルの評価結果は一貫したパターンを示した。
- 高評価:アメリカ英語 ≒ イギリス英語
- 中間:インド英語
- 低評価:中国英語、ナイジェリア英語
問題の核心は、話の内容(スクリプト)が完全に同一であるにもかかわらず、content(内容)スコアまで差がついた点だ。AIはいずれのアクセントの音声も正確に文字起こしできていた。つまり「聞き取れていない」のではなく、「聞き取った上でアクセントに基づく暗黙的な序列を適用していた」ことになる。
共同筆頭著者でUWのアレン情報科学工学部の博士課程学生であるOrevaoghene Ahia氏はこう述べている。
「モデルは繰り返し、中国語やナイジェリア訛りの話者が『もごもごしている』『聞き取りにくい』と説明していましたが、実際にはそれらの音声を正確に文字起こしできていました。話者を理解していながら、アクセントに基づく暗黙的なヒエラルキーを持っていたわけです。」
なお、ナイジェリアでは英語が公用語、インドでは英語が学校での教授言語であるにもかかわらず、両者のスコアはアメリカ・イギリスを下回った。
バイアスはどこから来るのか
研究チームはバイアスの流入経路として以下の可能性を挙げている。
- アクセントのある話者を「聞き取りにくい」と記述するトレーニングデータ
- 特定の人口・アクセントが過少代表されているデータセット
- 「プロフェッショナルな話し方」の標準像を強化する学習手法
上級著者でUWのYulia Tsvetkov准教授は今後の方向性についてこう語っている。
「明確な次の一手は、より代表性の高いトレーニング・評価データセットを作ることです。また開発者には、平均性能だけでなく、サブ集団・方言ごとに分解した評価を公開してほしい。全体で97%の精度でも、特定のグループでは20%しか機能しないということがあり得るからです。」
採用・移民審査AIへの波及
研究チームが問題視しているのは、このバイアスが実害をもたらす文脈だ。就職面接のスクリーニング、教育機関での口頭試験、移民審査のための英語能力テストなど、評価の公平性が直接個人の人生に影響するシーンでこうしたモデルが使われつつある。
今後は、各国内の地域方言を含むより多くのアクセントへの拡張と、医療分野(救急対応の音声分析など)での検証も予定されているという。
研究論文は2025年10月25日、ハンガリー・ブダペストで開催された自然言語処理の国際会議EMNLP(Conference on Empirical Methods in Natural Language Processing)で発表された。論文PDFはこちらから参照できる。なお、本研究はGoogleとOpenAIからの資金援助を一部受けている。これら企業は本研究で評価対象となったモデルの開発元でもあり、利益相反の可能性については読者自身が留意した上で結果を解釈する必要がある。
詳細はLeading AI models are biased against certain accents when scoring interviews, presentations and testsを参照していただきたい。