11月4日、The Decoderが「AI agents take over at SETI's Allen Telescope Array, scanning for extraterrestrial intelligence」と題した記事を公開した。SETIのアレン望遠鏡アレイにAIエージェントが本格導入され、従来は数週間かかっていた電波信号の解析が数時間で完了するようになった。早期の成果として、かに星雲のパルサーをAIによってリアルタイム検出することにも成功しており、AIエージェントが実際の科学インフラを自律制御する段階に入りつつあることを示す事例として注目される。
アレン望遠鏡アレイとは
アレン望遠鏡アレイ(Allen Telescope Array、ATA)は、カリフォルニア州北部に設置された電波望遠鏡群で、地球外知的生命体の探索(SETI)を主目的として運用されている施設だ。Microsoftの共同創業者ポール・アレンの資金提供を受けて建設され、SETIインスティテュートとUCバークレーが共同運営している。
SETIの探索活動は1960年の最初の実験(Project Ozma)から続いており、これまで60年以上にわたって確認された信号は検出されていない。広大な宇宙を対象とした探索は、従来の手動・半自動の解析体制では処理能力に根本的な限界があった。今回のAI導入は、その限界を突破するための取り組みとして位置づけられる。
基盤はNvidiaのHoloscanプラットフォーム
システムの中核を担うのは、NvidiaのHoloscanプラットフォームだ。HoloscanはNvidiaが提供するエッジAI・ストリーミングデータ処理向けのSDKで、医療画像処理や産業用センサー分析など、低遅延かつ高スループットが求められるリアルタイム処理用途に設計されている。今回はその特性を活かし、電波望遠鏡が受信する大容量データの即時解析に応用された。
このシステムを共同採用したのは、SETIインスティテュートとBreakthrough Listenだ。Breakthrough ListenはロシアのIT実業家ユーリ・ミルナーが1億ドル規模の資金を拠出し、UCバークレーが主導する地球外知的生命体探索プロジェクトで、現存するSETI関連プロジェクトのなかでも最大規模の予算と観測時間を誇る。
Nvidiaによると、このハードウェアは最大2.4テラビット/秒のデータ処理能力を持つ。これにより、従来は数週間かかっていた解析作業が数時間で完了するようになったという。
AIは望遠鏡の向きを制御し、受信した電波信号をリアルタイムで解析する。現時点では研究者がコマンドをテキストで入力する形だが、その実行と解析をAIが自律的に処理する構成だ。
最初の成果:かに星雲のパルサーをリアルタイム検出
早期の成果として、チームはかに星雲(Crab Nebula)のパルサーをAIによってリアルタイム検出することに成功した。元記事によれば、これはATAにおける初の試みだ。
パルサーとは、高速回転する中性子星(恒星の残骸)で、規則的なパルス状の電波を放出する天体だ。信号の周期性が明確なため、信号検出システムのベンチマークとして適しており、今回はAIエージェントが実際の科学観測に使えるレベルに達していることを示す実証として機能した。かに星雲のパルサーは地球から約6,500光年の距離にあり、1秒間に約30回転という高速回転で知られる。この既知の信号をAIが正確にリアルタイム検出できたことは、未知信号の探索精度を評価するうえでも重要なマイルストーンとなる。
次のターゲットは月の裏側
チームは今後、オープンソースのモデルをエッジ環境でローカル動作させるテストを進める方針だ。将来的には月の裏側に設置するセンサーへの展開を視野に入れている。月の裏側は地球からの電波ノイズが届かない環境であり、SETI観測の理想的なロケーションとして長年注目されてきた場所だ。地上の望遠鏡では避けがたい人工電波干渉(RFI)を根本的に排除できる点で、観測精度の大幅な向上が期待される。エッジ環境でのローカル推論を実現できれば、地球との通信遅延が大きい月面でも自律的な観測・解析サイクルを回せるようになる。
科学インフラへのAI適用という文脈
今回の事例が示すのは、AIエージェントが「チャットbotへの組み込み」にとどまらず、実際の物理インフラの制御と科学的解析を担う段階に入りつつあるという現実だ。テラビット級のデータストリームをリアルタイムで処理し、天文学的なシグナル検出を自律的に行うというユースケースは、エンジニアリング的にも相応の複雑さを持つ。望遠鏡制御・信号処理・異常検知を単一のAIエージェントパイプラインに統合するアーキテクチャは、ほかの大規模科学観測施設への応用可能性という観点でも注目に値する。
ただし、AIが地球外知的生命体の信号を実際に発見できるかどうかは、依然として未知数だ。60年間、誰も見つけていない。
詳細はAI agents take over at SETI's Allen Telescope Array, scanning for extraterrestrial intelligenceを参照していただきたい。