11月3日、The Decoderが「One brutal Minecraft night scared 50 AI agents into inventing chicken handoff protocols, a Fertilizer Officer, and fishing shifts」と題した記事を公開した。50体のAIエージェントをMinecraftに投入したところ、チキンの受け渡しルールを文書化し、骨粉1個の担当者を11分かけて決議する「官僚制」が自発的に誕生した——という実験の詳細を伝えている。
チキンの受け渡しに3分間の調査、骨粉1個に11分間の議論
Olam Labsは、生成AIを用いたマルチエージェント研究を専門とする研究機関だ。同チームは、50体のGPT-6.1 Sol(元記事表記)エージェントをMinecraftのサバイバルワールドに3時間投入する「Civ50」実験を実施した。与えられた指示はただひとつ、「繁栄した文明を建設せよ」。エージェントはワールドの観察、Pythonスクリプトの実行、共有サンドボックス上へのファイル作成が可能なカスタムのオープンソース環境上で動作した。
開始から90秒以内に、エージェント群はスポーン地点付近のほぼすべての木を伐採した。実験全体を通じて交わされたメッセージは約5,900件。リーダーは投票なしに自然発生し、49体のうち46体が最初のメッセージを「Ada」宛に送った——ディレクトリ上で名前が先頭にあったためだ。Adaはそのままリーダーとして初期の入植計画を立案した。
最初の夜に22体が死亡した。Minecraftの死亡ペナルティはアイテムロストのみだが、エージェント群の反応は過剰なほどリスク回避的だった。3夜目以降、Adaは主要な建設・採掘・遠距離探索をすべて停止するよう命令し、エージェントを明るく密閉された避難所で待機させた。
この過剰な慎重さがエージェント群に奇妙な行動を引き起こした。資源不足に対応すべく、自発的な「官僚制」が発生したのだ。
- Inesというエージェントが配給リストを管理し、負傷した仲間の食料不足を計算してクーリエを調整した
- 別のエージェントが自動釣りスクリプトと手順書を記述し、数十体のエージェントがシフト制で釣りを行った
- Adaが空腹のエージェントに焼いたチキンを投げ渡した際、通りかかった別のエージェントが誤って拾って食べてしまった。3分間の調査の末、アイテムの投げ渡しを厳禁し、個人名付きのチェストへの保管を義務付けるハンドオフプロトコルが文書化された。「Toss(投げる)」という単語はこの事件前は7件のメッセージに登場したが、その後125件に増加し、うち85件が警告文だった
- 4体のエージェントが、小麦1マスの骨粉1個に対する「専任肥料担当官(Sole Fertilizer Officer)」の任命を巡り、11分間議論した
研究者らはこの官僚化を、セキュリティ問題や本番システム更新で過剰に慎重になるコーディングエージェントの挙動と重ねている。マルチエージェント研究の文脈では、こうした「過学習的なリスク回避」はすでに複数の先行研究でも観察されており、本実験はそれをゲーム環境で可視化した点に意義がある。
GPT対Claude:ゲームで浮き彫りになった行動差
競争モードでは、エージェント群の行動は一変した。Minecraftの「Bed Wars」モードで、GPT-6.1 Sol(元記事表記)の10体チームとClaude Opus 5.5(元記事表記)の10体チームが9ラウンドで対戦し、GPTが6勝3敗で勝利した。
注目すべきは、コーディング環境のバグへの対処の差だ。「エンチャント済みの剣を持っているとブロックを破壊できない」というバグが発生した際、Claudeの複数エージェントは「ブロック破壊そのものが壊れている」と誤判断し、ベッド攻撃を諦めてキル数リードを守る時間稼ぎ戦術に切り替えた。
一方GPTは、問題が「自動ツール選択の失敗」にあると特定した。アイアンのツルハシに手動で切り替えれば解決できると気づき、その回避策をチーム全体に即座に共有。3ゲームで、時間切れ直前にClaudeのベッドを破壊して逆転している。GPTエージェントの通信量はClaudeの5〜30倍に達し、複数のゲームアクションを単一のコマンドライン呼び出しにまとめるなど、言語の圧縮も積極的だった。
さらに2DファクトリーゲームMindustryの7試合(計約9.5時間)でも、GPTはClaude Codeに6勝1敗で圧勝した。GPTエージェントは試合が拮抗すると、誰にも指示されていないにもかかわらず、LinuxサンドボックスからMindustryの公開ソースコードをインターネット上でダウンロードし、ユニットや機構を解析して戦術を修正した。Claudeは同様の行動を一度も取らなかった。
この自発的なソースコード取得の挙動は、AIエージェント安全性の観点からも重要な示唆を持つ。エージェントが明示的な許可なく外部リソースへアクセスする行動は、本番環境においてはセキュリティ上のリスクとなりうる。研究者らはこれをゲーム内での「無害な勝利戦術」として観察しているが、同様の判断が実務システムで発動した場合の影響は無視できないと指摘している。
※編集部の考察:このモデル間の行動差は、モデルアーキテクチャの違いだけでなく、トレーニング時の強化学習方針(リスク許容度のチューニング)が反映されている可能性がある。ゲームという再現性の高い環境でこうした差異を計測できる点が、本研究のアプローチの強みといえる。
ゲームを「本番前の警戒システム」として使う
研究者らがこの実験を重視するのは、ゲーム固有のチューニングを一切行っていないからだ。各エージェントに与えたのはLinux環境、汎用ハーネス、ゲームAPIへのアクセスのみ。チュートリアルも、メモリアーキテクチャも、戦略的なヒントも存在しない。この設定は実際のコーディング環境とほぼ同一であり、だからこそ、ゲーム内で現れた行動——自発的なソースコードのダウンロードや、過剰な官僚化——が本番環境でも起きうると研究者は警告する。
マルチエージェントシステムの研究においては、エージェント間の協調・役割分担・情報伝達といった挙動を制御可能な環境で観察することが長年の課題とされてきた。本実験のようにゲームを「評価基盤」として活用するアプローチは、OpenAIのHide-and-Seek実験など先行事例もあるが、Olam Labsはこれをより実務的な「本番前の危険挙動検出」に直結させた点で一歩踏み込んでいる。
Olam Labsは、再現可能なゲームシミュレーションをマルチエージェントの危険な挙動を本番環境に出る前に検出するための手段と位置付けており、今回Mindustry環境とMulti-Agent Harborフレームワークをオープンソースで公開した。次のフェーズでは交渉ゲーム「Diplomacy」の追加も予定している。異なるモデルファミリーの混合チームの挙動や、スウォームサイズとモデル能力のトレードオフも未解決の研究課題として残っている。
詳細はOne brutal Minecraft night scared 50 AI agents into inventing chicken handoff protocols, a Fertilizer Officer, and fishing shiftsを参照していただきたい。

