10月30日、Ashley BelangerがArs Technicaに「Thousands of "ghost students" use AI to steal millions in student loans, DOJ says」と題した記事を公開した。AIを使って架空の学生生活を演出し、米国の連邦学生支援金を不正取得する「ゴースト学生」詐欺の実態と、米司法省による初の大規模摘発について詳しく報じている。
AIが課題をこなし、オンライン授業への「出席」を偽装し、学期をまたいで支援金を受け取り続ける——この手口が少なくとも2021年から続いており、AIの普及とともに高度化してきたと司法省はみている。被害者である本人は、数年後に政府から学生ローンの返済を求められるまで詐欺に気づけないケースも多く、信用情報が傷つくという深刻な二次被害も発生している。
AIが「幽霊の学生生活」を演じる
詐欺の基本的な流れはこうだ。悪意ある行為者が、大学に進学せず就職した高校卒業生を中心に米国市民の個人識別情報(PII)を購入し、連邦学生支援申請(FAFSA)を提出して大学や短期大学に入学申請を行う。学生支援金は一部が授業料として学校に充当されるが、残額は詐欺師が管理する銀行口座に振り込まれる。
問題はその先だ。支援金を長期間受け取り続けるため、AIが課題をこなし、バーチャル授業への「出席」を演出する。
「ゴースト学生が実際に授業を受けているように見える。オンライン教室に偽の学生が存在するかのように見せかけ、学校側をだます手口もある。目的は、ゴースト学生をできる限り長く、学期をまたいで在籍させ続けることだ」と、司法省国家詐欺取締部門のコリン・M・マクドナルド次長官補は記者会見で語った。
被害規模:特定された不正アカウントは83万件超、総損失は約1.3億ドル
米教育省(DOE)はこれまでに、「米国市民のPIIを使って作成された潜在的に不正な連邦学生支援アカウントを83万件以上特定した」と会見で明らかにした。これらすべてがゴースト学生であれば、総損失額は約1億3,000万ドルに達する見込みだ。
今回の摘発では、ケニア国籍者と関連するネットワークから暗号資産75万ドル超を押収し、5人を起訴した。個別の事案では、ある被告が「複数の金融機関の口座を使い、約143万9,548ドル相当の不正な学生支援払い戻しを700件以上受け取っていた」とされる。別の事案では「1人が300件以上の不正学生アカウントに紐づく100万ドル超の入金を受け取った」とInside Higher Edが報じている。
なお今回の摘発は、2025年に設立された司法省の国家詐欺取締部門(National Fraud Section)が主導した初の大規模案件でもある。DOJは「摘発強化は始まったばかり」と強調しており、全米26のFBI地方事務所に約50件の捜査依頼を送付済みだという。
知らぬ間に「在学中」にされた被害者
本人が知らないうちに「在学中」とされた被害者は、数年後に政府から学生ローンの返済を求められるまで詐欺に気づけない。その間に信用情報が傷つき、身に覚えのない学費ローンの返済を迫られる事態になる。
「教育省が混乱を解きほぐす支援をしているが、誰もそんな目に遭うべきではない」とマクドナルド氏は述べた。自分の情報が不正利用された疑いがある場合は、連邦学生支援(Federal Student Aid)の公式サイトから本人確認と申告が可能だ。
自動検出システムの精度問題
トランプ政権下のDOEはオンライン本人確認要件を導入し、不正なFAFSA申請を自動排除する方針を打ち出している。申請者はカメラの前で政府発行IDをリアルタイムで提示し、自動システムがリスク評価を行う。「高リスク」と判定された申請者は支援を拒否される仕組みだ。
しかし誤検出の問題が既に表面化している。
- 2025年6月29日〜7月6日にかけてシステム障害が発生し、一部のFAFSA申請に詐欺評価結果が共有されなかった
- 低所得家庭の学生は運転免許証などの身分証明書を持っていない場合があり、代替ID取得の手続きで申請が遅延するリスクがある
- FAFSAの修正申請時にも自動検出が働くため、正当な修正が「不正」と誤判定されて支援金の支払いが遅れる恐れがある
全米大学金融支援管理者協会(NASFAA)のメラニー・ストーリー会長は「誤検出件数を定量的に示してほしい」と教育省に求めたが、FAFSAプログラム担当のアーロン・レモン-ストラウス局長は「まだ数字を出せない」と回答している。詐欺対策の強化と、正当な学生へのアクセス障壁抑制という二つの要請をどう両立するかが、今後の課題となりそうだ。
詳細はThousands of "ghost students" use AI to steal millions in student loans, DOJ saysを参照していただきたい。