10月29日、CNBCが「Steve Eisman gets more conservative with portfolio as AI trade nears 'tipping point'」と題した記事を公開した。映画『ビッグ・ショート』のモデルとなった投資家スティーブ・アイズマンがAIトレードの「ティッピングポイント」接近を警告し、自身のポートフォリオを保守化していることについて詳しく伝えている。
「ネットショートはしていないが、リスクは大幅に削減」
アイズマンはCNBCの「Squawk Box」に出演し、現在の立場をこう説明した。
「自分のポートフォリオはかなり保守的にシフトした。多くのポジションに対して『ショート・アゲインスト・ザ・ボックス』を設定し、リスクを大幅に低下させている。ただし、ネットショートにはなっていない」
「ショート・アゲインスト・ザ・ボックス(Short Against the Box)」とは、すでに保有しているロングポジションに対して同じ銘柄をショートすることで、実質的な値動きリスクをヘッジする手法だ。ロングポジションを売却せずにリスクを相殺できるため、税務上の理由(含み益の課税繰り延べなど)や柔軟なポジション管理を目的として使われることも多い。「AIバブル崩壊に賭けるほどの確信はないが、下落リスクへの備えは十分に講じた」という、慎重な中間的ポジションを示している。
明確なベットを避ける理由についてアイズマンは、「AIトレードが市場全体と深く絡み合っており、テクノロジーセクターを経済全体から切り離して考えることは不可能」だと述べた。市場の大部分が反対側(強気)にいる以上、ショートに踏み切るリスクは高い、という判断だ。
Anthropicの収益指標に「極めてネガティブ」なシグナル
アイズマンが最も懸念しているのは、フロンティアモデル企業の経済合理性だ。
Anthropicが最近公開したS-1(IPO申請書類)では、直近四半期の収益数字が空欄のまま記載されていた。アイズマンはこれを「極めてネガティブ」と評価し、「もし数字が良ければ、開示しないはずがない」と指摘した。
さらに、入手した分析をもとに示した具体的な数字が示唆的だ。以下の表は元記事に掲載された指標で、収益とインフラ設備コストの関係を四半期ごとに比較したものだ(原語表現の詳細は元記事を参照)。
| 指標 | 2Q | 3Q |
|---|---|---|
| 収益対設備コスト比率 | 2.08 | 1.70 |
この比率の低下は、売上1ドルを生み出すのに必要なインフラコストが増加していることを意味する。収益成長が頭打ちになる一方でコスト効率が悪化しているとすれば、スケールメリットが機能していないことを示唆する。
さらにアイズマンは、Anthropicが「AIへの恐怖感を利用して、競合他社への規制上の参入障壁を作り出そうとしている」とも述べており、フロンティアモデル企業全体の事業戦略に対する不信感を示している。AI規制を巡るロビー活動がビジネス的な防衛戦略として機能しているという見方で、これは単なる収益指標への懸念を超えた、構造的な批判だ。
Googleの決算がトリガーに
アイズマンが「人々を怯えさせた」と評したのが、Alphabetの直近決算だ。AIによる検索クエリの増加がコア広告事業を侵食し、株価は決算後に急落した。
Googleの最高ビジネス責任者(Chief Business Officer)フィリップ・シンドラーは決算説明会でこう述べた。
「AIモードでのクエリ増加が影響している。AIモードでの収益化が低水準にとどまっているためだ。広告実験では有望な結果が出ている」
要するに、ユーザーがAI検索に移行するほど広告収益が下がるという構造的な問題が表面化しつつある。これはGoogleに限らず、検索連動型広告に依存するビジネスモデル全体に関わる問題だ。
アイズマンは「ティッピングポイントに近づいていると思う。Googleの数字がそれを示唆している」と述べており、AIトレードの潮目が変わりつつあるという見立てを持っている。
背景:「ビッグ・ショート」の投資家が語る重み
スティーブ・アイズマンは、2008年の住宅ローン市場崩壊を事前に見抜いてショートで大きな利益を上げた投資家として知られ、マイケル・ルイスの著書『ビッグ・ショート』および同名映画(スティーブ・カレル演じるマーク・バウムのモデル)として広く知られる人物だ。元Neubergerのシニアポートフォリオマネジャーでもある。
バブルの見極めを専門とする人物が「まだ明確に賭けるほどではないが、リスクを大幅に削った」と公言している点は、現在のAI投資環境を考えるうえで一つの参照点になる。2008年当時も、アイズマンが動いた時点では市場の大多数がまだ強気だった。今回は「ネットショートにはなっていない」と明言している点が異なるが、そのアイズマンがここまで慎重姿勢を鮮明にしたことの意味は小さくない。
詳細はSteve Eisman gets more conservative with portfolio as AI trade nears 'tipping point'を参照していただきたい。