10月23日、OpenAIが「Anima helps clinics cut call waits by 75% with GPT-6 and GPT-Live」と題した記事を公開した。英国の医療AIスタートアップAnimaがOpenAIのモデルを活用し、クリニックの電話待ち時間を75%以上削減するなど、具体的な業務改善を実現した事例を詳しく紹介している。
※本記事に登場するモデル名(GPT-6、GPT-Live、GPT-5.4 mini、GPT 5.6 Lunaなど)は元記事の表記に準拠している。2026年10月時点でのOpenAI公式ラインナップとの対応については、元記事原文を直接ご確認いただきたい。
英国一次医療でAIが急速に普及している背景
Animaの事例を理解するには、英国の医療制度の特性を押さえておく必要がある。英国ではNHS(国民保健サービス)がほぼすべての一次医療を無償提供しており、GP(かかりつけ医)クリニックへのアクセス集中が慢性的な課題となっている。電話回線への過負荷、書類処理の遅延、GPの時間外労働は業界全体の構造的問題だ。
こうした環境下で、医療AIの導入に対する規制・監督体制も整備が進んでいる。英国の医療サービス監督機関であるCQC(Care Quality Commission)は、AIを含むデジタルヘルスソリューションの品質基準を定めており、Animaもその規制環境のもとでサービスを展開している。慢性的な人手不足と規制整備の同時進行が、英国一次医療におけるAI普及を後押ししている構造的な背景だ。
Animaは現在、英国内1,000以上のクリニックで1,400万人以上の患者にサービスを提供し、月間80万件以上のケースを処理している。米国やオーストラリアへの展開も進めている。
10万件の書類バックログを数日で解消
Animaの中核的な成果として特筆すべきは、書類処理の劇的な改善だ。導入から数日で10万件超の書類バックログを解消したクリニックもあるとCEOのShun Pang氏は述べており、薬の変更などの重要な更新が数カ月間キューに滞留する事態の解消につながっている。
Animaのドキュメント処理機能はGPT-6モデルを使用し、受信した臨床文書から送信者・受信者・文書タイプ・日付などを抽出する。その後、多段階パイプラインが各文書を正しい患者に紐付け、適切な臨床コードを特定し、スタッフへのアクションを提案する。
技術的に最も難しかった課題が、臨床コーディングだとAnimaのエンジニアリングリード、Michael Skupien氏は語る。
「SNOMED(医療用標準語彙体系)コードは約80万種類存在する。頻繁に使われるのはその一部に過ぎないが、それでも診療所によってどのコードを使うかの判断が異なる。」
— Michael Skupien, Engineering Lead, Anima
※SNOMEDのコード総数については元記事の記載に準拠している。一般的にSNOMED CTの収録概念数は版によって異なるため、正確な数値は公式リソースを参照されたい。
この問題に対してAnimaが取ったアプローチがインコンテキスト学習(ファインチューニングなしで、プロンプト内の情報からモデルが文脈に適応する手法)だ。診療所ごとに個別モデルをチューニングするのではなく、各クリニックの傾向をプロンプトに組み込むことでモデルの判断を適応させている。この手法が機能するには、指示追従の精度が高いモデルが不可欠だという。
「OpenAIのモデルはどれも指示に従う能力が高く、ステアリング(誘導)が容易で、安定している。」
— Michael Skupien, Engineering Lead, Anima
処理速度は、従来の1時間あたり約15件から30〜45件へと向上し、高パフォーマンスのクリニックでは45〜60件に達する。
電話待ち時間を40〜50分から10分へ
AI受付エージェント「Andi」はGPT-Liveをベースに構築されている。患者は電話でAndiに症状を話すと、Animaの独自ポリシーエンジンが臨床的に承認されたインテーク(問診受付)ワークフローに沿って会話を進める。その後GPT-5.4 miniが適切な問診票を選択し、完成した病歴がクリニックのダッシュボードに構造化された形で表示される。医師やスタッフはその情報をもとに対応を判断する流れだ。
結果として、電話待ち時間は40〜50分から10分へと75%以上短縮されたとAnimaは報告している。患者満足度調査では、86%の患者が「また使いたい」と回答。特に注目に値するのが高齢ユーザーの反応で、80〜90代の患者が最も満足度の高いグループの一つだったという。「無限に辛抱強く、とても礼儀正しい」(Shun Pang氏)という点が評価されている。
診察メモを数秒で下書き——医師の残業を削減
3つ目の機能「Scribe」はGPT 5.6 Lunaを使い、診察の会話を構造化された臨床メモに変換する。さらに同じ文脈から紹介状や患者へのフォローアップメッセージの下書きも自動生成する。

従来は数分かかっていた診察メモの作成が数秒で完了し、従来5〜15分を要していた紹介状も診察記録と患者情報から即時に下書きされる。「医師が夜8〜9時まで残業せず、定時に帰れるようになったという声が多い」とShun氏は言う。
なお、診察メモの自動生成や臨床コーディングは、AIが最終判断を下すのではなく、あくまで医師・スタッフによるレビューと承認を前提とした補助ツールとして設計されている点は重要だ。元記事でもクリニックのダッシュボードにスタッフが確認する工程が明示されており、AIの出力が直接医療記録に反映される構造ではない。医療AIにおける安全性と責任の所在は引き続き業界全体での議論が続いており、Animaのアプローチもその文脈で評価される必要がある。
OpenAIを選んだ理由
AnimaはOpenAI選定にあたり、クローズドソース・オープンソースのモデルをすべてベンチマークした上で決定したとShun氏は明かす。
「ミッションクリティカルなワークロードにOpenAIを選んだのは、インテリジェンスの優秀さ、コスト対性能、そしてインコンテキスト学習によるステアリング性の高さが理由だ。」
— Shun Pang, Co-founder and CEO, Anima
プラットフォーム全体では、ケースの大半が24時間以内に解決され、中央値の解決時間は約3.5時間とAnimaは報告している。
詳細はAnima helps clinics cut call waits by 75% with GPT-6 and GPT-Liveを参照していただきたい。