10月26日、Ars Technicaが「Highway thieves are spoofing GPS to steal millions in data center-bound cargo」と題した記事を公開した。GPSスプーフィングや偽造免許証、マルウェアを組み合わせた高度な手口で、データセンター向け貨物を狙う窃盗団が急増している。6月以降の被害総額はすでに1億ドルを超えており、護衛として雇われた非番の警察官がひき逃げで標的にされる事案まで発生している。
なぜ今、データセンター向け貨物が狙われるのか
背景にあるのはAI投資の急拡大だ。大手クラウドプロバイダーや新興AI企業がデータセンターの増設に数百億ドル規模の資金を投じる中、サーバー、GPU、高性能メモリ、光ファイバーケーブル、銅線といった資材の輸送量が急増している。こうした機器は単価が高く、転売しやすい。組織的な窃盗グループにとって、これ以上ない標的だ。
イリノイ州で発見された2台の盗難トレーラーには、銅線スプールで約30万ドル相当とカスタム製のデータセンター用モジュール電源装置で約100万ドル相当の貨物が積まれていた。ロサンゼルス郡の案件では、データセンター向け冷却装置メーカーであるDeepcool AIの製品が、ニコチンパウチや靴、スキンケア製品などと混載された形で発見されている。捜査当局は、こうした混載が被害実態の把握をさらに難しくしていると指摘する。
デジタルと物理を組み合わせた多段階の手口
窃盗の手順は単純な強奪ではない。まず、貨物ブローカーのアカウント乗っ取りから始まる。配送マーケットプレイス上に偽案件を投稿し、入札してきたトラック業者に悪意あるリンクを送りつけてマルウェアを仕込む。アカウントを乗っ取ったのち、今度は本物の配送案件に入札して貨物を横取りする。
ドライバーの調達も巧妙だ。実在するドライバーを善意のまま雇い入れ、荷物を受け取らせた後で別の人間に引き渡すケースもあれば、偽造運転免許証を使って共犯者を正規ドライバーとして潜り込ませるケースもある。
そして最大の特徴がGPSスプーフィングだ。正規のGPS信号より強い偽の信号を送出することで受信機に誤った位置情報を掴ませる技術で、軍や研究分野では以前から知られていたが、近年は民間の犯罪利用が急増している(FBIによる貨物犯罪対策情報も参照)。最大規模の窃盗事件の一つでは、追跡システムに送信される座標データ自体を偽装することで、デジタル監視による発覚を防いだとされている。
護衛の警察官がひき逃げで標的に
特に深刻なのが、護衛として雇われた非番の警察官がひき逃げで標的にされた事例が、少なくとも2件報告されている点だ。いずれの案件でも貨物は回収されていない。物理的な妨害とデジタル追跡の撹乱を組み合わせたこの手口は、背後に組織的な犯行グループの存在を強く示唆している。
業界のコンサルタントや捜査員からは「被害はAI業界にとどまらず、米国全体のサプライチェーンに広がる可能性がある」という懸念が出ている。捜査当局が最も警戒するのは、GPSスプーフィングの技術的な敷居が下がり、この手法が広く模倣されることだという。貨物追跡の業界団体CargoNet(北米の貨物犯罪情報を集約・共有する民間機関)も関連する注意喚起を行っており、輸送会社側のセキュリティ強化が急務となっている。デジタルとフィジカルを融合させたこの新型の犯罪手口が、サプライチェーン全体の脅威として定着しつつあることを、一連の事件は示している。
詳細はHighway thieves are spoofing GPS to steal millions in data center-bound cargoを参照していただきたい。