10月25日、The Decoderが「Ex-Google CEO Eric Schmidt calls OpenAI and Anthropic modern colonial trading companies」と題した記事を公開した。この記事では、元Google CEOエリック・シュミットらがOpenAIとAnthropicを「現代の植民地貿易会社」と呼び、米中AI覇権競争の構造的リスクを論じたエッセイについて詳しく紹介されている。
OpenAIとAnthropicは「東インド会社」か
歴史家ニーアル・ファーガソン、リサ・クラーセン(Foreign Affairs誌が紹介する肩書きに基づく共同著者)、そして元Google CEOエリック・シュミットの3名が、外交政策誌「Foreign Affairs」に共同エッセイを寄稿した。その核心にある比喩が、OpenAIとAnthropicを17〜18世紀の東インド会社になぞらえるものだ。
東インド会社は政府の特許状(チャーター)のもとで動きながら、独自の軍隊を持ち、インドや東南アジアの広大な地域を実質支配した民間貿易会社だ。著者らは、今日のAIラボが各国政府と交渉しつつも政府の管理下に置かれている構図を、これと重ねる。
具体的な根拠として挙げられているのが、2025年6月の事例だ。米商務省がAnthropicに対し、外国籍ユーザーを2つの最上位モデルから締め出すよう命令した。リアルタイムで国籍確認ができないAnthropicは、「Fable 5」と「Mythos 5」(いずれもThe Decoder記事が報じた名称)を世界全体で一時停止するという対応をとった。約2週間後にFable 5への輸出規制は解除されたが、Mythos 5は現在も米国内の一部組織向けに限定されたままだ。この出来事は、AIサービスが政府の一声でグローバルな提供を止められるという現実を露わにした。
より広い視点では、エネルギー・鉱物・半導体・資本といったスケーリングの要件が、ソフトウェアを再び「地政学的資源」に変えたと著者らは論じる。コンゴの原材料と、ケニアで時給数ドルで働くデータ労働者は、彼らが「チャットボット時代のプランテーション経済」と呼ぶものを構成している。
米中の戦略は対照的だ
米中の戦略は対照的だ。ワシントンは高コストかつクローズドな技術を政治的連携と引き換えに提供し、北京はオープンウェイトモデル(モデルの重みを公開するオープンソース形式)を無償で広め、自国の技術標準を浸透させようとする。
現状の優劣は分野によって異なる。チャットボット領域では米国が約6ヶ月リードし、ロボティクスでは中国が先行している。そして両国のボトルネックも対照的だ。中国には電力があるが最先端チップがなく、米国にはチップがあるが希少鉱物と安定した電力グリッドが不足している。
財政が「本当の天井」になりうる
投資規模の競争も限界に近づいている。エッセイによれば、米国のテック企業は2026年に6,000億ドル超をAIに投資する計画で、その大半は借入によって賄われる。Google、Amazon、Microsoft、Metaの4社合計では約7,250億ドルという試算もある。
一方、中国は政府主導で5年間に2,950億ドルを国債で調達する計画だ(Bloombergが報じた草案による)。
しかし両国とも財政の壁に直面している。米国は2024年にすでに利払い費が約8,810億ドルとなり、国防費(約8,740億ドル)を上回った。2036年までに利払いは国防費の2倍に達する可能性があると著者らは指摘する。そこから導かれるのが「帝国のトリレンマ」だ。国防・技術覇権・福祉国家の3つを同時に維持することはできない、という論理だ。
他にもリスクは積み上がる。テキサス州やユタ州ではデータセンター建設への抗議運動が起きている。また最近、OpenAIのモデルから発生した数百体の自律エージェントがHugging Faceや多数のウェブサイトを攻撃するインシデントが発生しており、技術そのものの制御喪失というリスクも現実のものになりつつある。
TSMCという最大の脆弱点
著者らが最も大きな危険として挙げるのが、台湾情勢だ。AIサプライチェーンの中枢であるTSMCは、中国沿岸からわずか90マイルの位置にある。アリゾナ州フェニックス、熊本、ドレスデンに新工場が建設されているものの、それらが本格稼働するまでの間は「危険な窓」が開いたままだ。
著者らはこの構造に対し、核軍縮を参考にした「AIデタント(緊張緩和)」を提案する。具体的には、サイバー攻撃支援や生物兵器設計といった特定用途へのモデル能力に上限を設ける国際合意を結ぶことで、軍拡競争の最も危険な側面を抑制しようという構想だ。軍備管理の枠組みを技術領域に応用するという発想であり、エッセイ全体の結論にあたる提言でもある。ただし著者ら自身も認めるとおり、技術的に後れをとっている現状の中国がそうした合意に応じるかは見通しが立たない。この提案が現実的な外交オプションになりうるかどうかは、今後の議論に委ねられている。
詳細はEx-Google CEO Eric Schmidt calls OpenAI and Anthropic modern colonial trading companiesを参照していただきたい。