10月25日、My Electric Sparksが「DeepSeek Federal Removal Order Hits US Civilian Agencies」と題した記事を公開した。米国土安全保障省が連邦民間機関に対しDeepSeek製品の即時削除と新規購入停止を命じた行政命令を詳報したもので、これまでの機関単位のデバイス禁止とは性質の異なる、法的根拠を持つ一括排除命令として注目を集めている。
「デバイス禁止」から「製品排除」へ——規制の次元が変わった
これまでの米国によるDeepSeek規制は、「政府端末へのインストール禁止」という機関ごとのパッチワーク的な対応だった。2025年2月までに、議会・NASA・海軍・国防総省・テキサス州がそれぞれ独自にデバイス禁止を実施。上下両院でも禁止法案が提出されたが、2026年10月21日時点で委員会を通過していない。
今回の命令はそれとは性質が異なる。連邦全民間機関を対象に、DeepSeek製品の削除・購入停止を一括で義務付けるものだ。さらに、DeepSeek技術を組み込んだサードパーティ製品・サービスも対象に含まれる。
なお、DeepSeekは中国の杭州を拠点とするAI企業で、2024年末から2025年初頭にかけてOpenAIに匹敵する性能を低コストで実現したとして世界的な注目を集めた。その一方で、学習データの取り扱いや中国当局との関係をめぐり、米国の安全保障コミュニティでは早期から懸念が表明されていた経緯がある。
命令の根拠となった2018年サプライチェーン法
命令の法的根拠は2018年制定のサプライチェーン・セキュリティ法(Federal Acquisition Supply Chain Security Act、通称FASCSA)である。同法のもと、連邦調達安全保障評議会(FASC)が排除・削除命令を勧告し、以下の3者が命令を発令できる。
- 国土安全保障長官:連邦民間機関を管轄
- 国防長官:国防総省を管轄
- 国家情報長官:情報機関を管轄
今回の命令は国土安全保障長官として署名したMarkwayne Mullin氏が2026年7月24日に署名し、同年10月20日に連邦官報(Federal Register)で公開された。署名から公開まで87日が経過している。なお、同法に公開期限の定めはなく、公開タイミングは発令者の裁量に委ねられている。
同法が初めて適用されたのは2025年のことで、スイスのサイバーセキュリティ企業Acronisが情報機関の調達から排除された事例が最初だ。
命令の対象範囲:政府機関だけでなく請負業者も
命令が直接の規制対象とするのは連邦民間機関だが、政府請負業者(コントラクター)にも義務が及ぶ点が実務上の重要ポイントだ。
標準的なサプライチェーン条項を含む連邦契約を結んでいる場合、請負業者は以下を求められる。
- 少なくとも3か月に1回、SAM.govで「FASCSA order」というキーワードを検索する
- 新たな命令が自社サプライチェーンに影響する可能性があれば、合理的な調査を実施する
- 対象製品・サービスを発見した場合、3営業日以内に報告し、10営業日以内に詳細な対応策を提出する
命令に対する例外申請は書面で行い、「compelling justification(強い正当性)」の提示が必要。ウェーバー(適用除外)を認めるかどうかは発令者の判断に委ねられる。命令に関する実装上の質問はCISA内のFASCSA命令実施チームが窓口となる。
中国側の反応
中国外務省の毛寧報道官は10月20日の記者会見で「国家安全保障の概念を過度に拡大解釈することに反対する」と述べ、「中国企業の合法的権益を守る」と主張した。DeepSeekはAP通信のコメント要求に対し、記事公開時点で回答していない。
命令の対象として名指しされているのは、R1およびV3モデルの開発元である杭州深度求索人工智能有限公司(Hangzhou DeepSeek Artificial Intelligence Co Ltd)だ。
今後の見通し
同法は、発令者が命令を年1回以上レビューすることを義務付けている。今回の命令は署名から1年以内にレビューが行われる見込みだ。また、既存契約への適用は、契約担当官が修正契約(amendment)を通じて命令を追加した時点から効力を持つため、新規調達だけでなく既存契約も時間をかけて影響を受ける。
今回の命令は国防総省・情報機関を管轄する長官による命令とは独立したものであり、適用範囲は連邦民間機関およびその請負業者に限定される点には留意が必要だ。軍・情報機関向けの対応は別途それぞれの発令者による命令を要する。
詳細はDeepSeek Federal Removal Order Hits US Civilian Agenciesを参照していただきたい。