10月22日、Zeus Kerravalaが「Zoom's next act: From video company to AI data platform」と題した記事を公開した。ZK Researchのプリンシパルアナリストである著者は、Zoomがビデオ会議ツールからAIデータプラットフォームへと事業転換を図る戦略を詳細に分析している。その核心は「会議もチャットも通話も、すべてデータを捕捉する手段に過ぎない」という認識の転換にあり、TeamsやGoogleが押さえるIT部門ではなく、営業・採用・カスタマーサポートの事業部門を入口として競合に割り込む構想だ。
「ビデオ会社」からの脱却
Zoomといえばビデオ会議——その認識を変えるための動きが、先週開催されたZoomtopia 2026で明確になった。
Zoomが発表した新戦略の核心は「Unified Context Layer(統合コンテキスト層)」だ。これは、会議・電話・チャット・コンタクトセンター・採用面接・営業通話といったあらゆる場の会話データを収集・構造化し、AIが活用できる形で企業全体に提供するインフラである。
著者Kerravalaは、この転換をシンプルに表現している。「ビデオや通話はデータを捕捉するメカニズムに過ぎない。本当の製品はデータとそれによって生じるアクションだ」。
CEO Eric Yuanはキーノートでこう述べた。「AIモデルの力は、自社ビジネスをどれだけ理解しているかにかかっている。そのコンテキストがすべての違いを生む。」
Unified Context Layerの構造
Unified Context Layerは3つのデータソースを組み合わせる:
- 一般知識:AIモデル自体が持つ知識
- ドキュメント知識:Salesforce・ServiceNow・Workdayなど連携アプリやファイル
- 動的コンテキスト:ライブ会話からリアルタイムで得られる情報
Zoomはこれらを元に、人・トピック・意思決定をマッピングするグラフを構築し、ほぼリアルタイムで更新し続ける。
Zoomはさらに、このコンテキストを自社アプリに閉じ込めない方針を取っている。15のMCPサーバー(MCP=Model Context Protocol。AIモデルが外部ツールやデータソースと標準化された形でやり取りするためのオープンプロトコル)、Search/Ask APIの提供、Claude・Codex・Copilotとの連携がその証拠だ。「Zoomをアプリケーションではなくデータ層として位置づける」という明確なシグナルである。
「会議の外」への展開:新たな買収戦略
会話データを軸に据えることで、Zoomのターゲット市場は大きく広がる。従来の「IT部門・情報システム部門向けUCaaS(統合コミュニケーションサービス)」から、営業・人事・カスタマーサポートといった事業部門へのシフトだ。
営業(RevOps)分野では、Zoom Revenue Accelerator(ZRA)が営業会話を分析してコーチングや案件予測を提供する。ZRAユーザーの65%が「大きなまたは変革的な影響があった」と回答しており、顧客数は前年比50%増。今年7月にはCommon Roomを買収し、CRM・マーケティング・製品データを統合したバイヤーインテリジェンス機能も加わった。GongやClariといった競合が占めていた領域への本格参入だ。
採用(HR)分野では、2025年12月に9,800万ドルでBrightHireを買収。面接の録音・文字起こし・候補者サマリー生成・AIによる一次選考を自動化する。Zoom上で既に何百万件もの採用面接が行われており、親和性は高い。ディープフェイク検出機能(Deepfake Risk Detection)もBrightHireの面接に適用済みで、12月には通常の職場会議にも展開予定だ。
カスタマーエクスペリエンス分野では、コンテキスト層がバーチャルエージェント・有人エージェント・バックオフィスの専門家に情報を提供することで、顧客が同じことを繰り返さなくて済む体験を実現。ユーザー企業のCricutは顧客待ち時間を89%削減したと報告している。
最大の課題:「誰が売るのか」問題
技術戦略としての一貫性はある。問題は商業面だ。
ZoomのセールスチームとパートナーはIT部門・通信部門向けに最適化されている。一方、ZRA・BrightHire・Common Roomの購買意思決定者はCRO(最高収益責任者)・RevOpsリーダー・採用責任者・CHROであり、GongやGreenhouse、ZoomInfoといった既存ベンダーとの関係もある。
Kerravalaがプリブリーフィングで直接確認したところ、Chief Product OfficerのRussell Dickerは「既存顧客への追加とグリーンフィールド(新規)の両方がある」と答えたが、具体的な数字は開示しなかった。
現場の声として、ZoomトップリセラーのConverged Technology Professionals(CTP)共同CEOのJoe Rittenhouse氏の発言が示唆に富む。
「我々はUCaaSやCCaaSより先にZRAで入ることもある。GongをそのままZRAに置き換えるだけ。データを見た瞬間、もっと欲しいという欲求が生まれる。そこからNotes他のプラットフォーム機能につながる。従来のZoomの売り方とは真逆で、会議ビジネスがアプリ販売についてくる形になる。」
また、Rittenhouse氏はパートナービジネスモデルの変化も率直に語っている。
「以前は販売支援・導入・保守契約というシンプルな動きだった。それが完全に変わった。NDMを結んでビジネスを理解し、どこに低コストで効果が出るかを見極めて現実的なプランを作る。そういう関与が必要になった。」
CMOのKim Storinは、TeamsやGoogleに標準化した企業へのウェッジ(くさび)として、営業・採用部門のリーダーを入り口と見ている。MicrosoftがCIOを押さえる中、Zoomはビジネス部門を攻めるというわけだ。ただし、ここ9ヶ月でIT部門が消費コスト予測の難しさからSaaSの購買統制を強化しているという現実もある。Zoomが発表したガバナンス機能はこの文脈で効いてくる。
まとめ
元記事においてKerravalaは、Zoomの戦略を「会話データを所有し、あらゆるAIに提供し、全事業部門の業務完遂に活用する」という方向性に整合するものと評価している。Unified Context Layer・ヘッドレスプラットフォーム化・Common RoomとBrightHireの買収は、この方針に沿った動きと見ることができる。
一方、戦略の方向性と実際の収益化が別問題であることも記事は率直に指摘している。今後2年間のZoomの成功は「Zoomを戦略的ベンダーと見ていなかった部門の意思決定者と向き合えるか」にかかっており、それができれば「ビデオ会社」というラベルは消える——これが元記事の結論だ。
※編集部の考察:MCPによるオープンなデータ連携戦略は、Zoomが単なる通話録音ツールではなく「AIのデータ供給源」として他社エコシステムに組み込まれることを狙ったものと読める。プラットフォーム化の成否は、まずこの入口としての営業・HR領域での定着度が試金石になるだろう。
詳細はZoom's next act: From video company to AI data platformを参照していただきたい。