10月23日、SiliconAngleが「AI drug development startup Pathos AI closes $237M investment」と題した記事を公開した。AIを活用したがん創薬スタートアップPathos AIがシリーズEラウンドで2億3700万ドル(約350億円)を調達し、評価額30億ドル(約4400億円)に達した。創薬AIの領域ではRecursion PharmaceuticalsやInsilico Medicineといったプレイヤーが台頭するなか、製薬大手Bristol Myers SquibbとAstraZenecaという二大メガファーマが同時に名を連ねた今回の資金調達は、Pathos AIが単なるツールベンダーではなく「共同創薬パートナー」として評価されていることを示す点で注目に値する。
製薬大手Bristol Myers Squibbが主導、AstraZenecaも名を連ねる
今回のラウンドをリードしたのは製薬大手のBristol Myers Squibbだ。既存投資家も複数参加しており、Pathos AIの投資家リストにはAstraZeneca、NEA、General Atlanticといった名前が並ぶ。
Pathos AIは、がん治療薬の開発にAIプラットフォーム「Foundry」を活用している。Foundryが参照するデータ量は約200ペタバイトのオンコロジー(腫瘍学)データに上り、同社自身の創薬プログラムが生成するデータも継続的に取り込む設計だ。
※編集部の考察:200ペタバイトという規模は、一般的な病院の電子カルテシステムとは桁が異なる。ゲノム・病理画像・臨床試験データを横断的に統合することで、単一モダリティのAIが見逃すパターンを拾える可能性がある。
Foundryが何をするのか
創薬プロセスでは、数百もの薬候補分子(ドラッグカンジデート)が生まれることがある。FoundryはそこにAIエージェントを投入し、最も有望な分子を絞り込む。さらに、その治療薬から最大の恩恵を受けられる患者を特定する機能も備える。
臨床試験の計画立案にもFoundryが使われている。同社が「バイオマーカー駆動型」と表現するアプローチで、タンパク質や血圧といった生体指標(バイオマーカー)を活用して薬の有効性を評価する試験設計を支援する。薬候補の絞り込みにとどまらず、臨床試験設計・患者選定・新疾患領域への展開まで一気通貫で支援する点が、単機能のAIツールとの差別化ポイントといえる。
CEOのIker Huergaは次のように述べている。
「私たちは、創薬における成功確率を体系的に高めるプラットフォームを構築している。Foundryにより、有望な臨床資産の特定とパイプラインへの統合が根本的に加速した。」
調達資金の使途:抗体薬物複合体と三つの共同プログラム
今回の資金が最優先で投じられるのは、JSKN016プログラムだ。「抗体薬物複合体(ADC: Antibody-Drug Conjugate)」に基づくがん治療薬の開発を目指す。
ADCとは、がん細胞表面の特定の抗原に結合する抗体に、低分子毒素などの薬物(ペイロード)を化学的に連結した分子である。抗体ががん細胞表面の抗原に結合することで標的に到達し、その後ADCが細胞内に取り込まれる。細胞内でペイロードが放出されることでがん細胞を死滅させるという機序であり、正常細胞への影響を抑えつつ高い殺細胞効果を狙える点が特徴だ。近年、製薬業界で注目が高まっているモダリティ(治療手段)の一つである。
残りの資金は三つの追加プログラムに充てられる。そのうちの一つはAstraZenecaとの共同研究で、「ER PROTAC」と呼ばれる薬の開発が目的だ。PROTAC(Proteolysis-Targeting Chimera)とは、細胞が持つタンパク質分解機構(プロテアソーム系)を利用して、がんに関連するタンパク質を標的分解する技術を指す。
Bristol Myers Squibb・Tempus AIとの三社連携
今回の出資はBristol Myers Squibbとのより広範なパートナーシップの一環でもある。この協業には、上場医療データ企業の**Tempus AI**も加わっている。
Pathos AIはTempus AIに対し5年間で5500万ドルを支払い、神経疾患患者から収集した匿名化データのライセンスを取得する。そのデータをFoundryで解析し、疾患メカニズムの理解を深めるとともに、FoundryとデータセットをBristol Myers Squibbにも提供する。Bristol Myers Squibbはそれを臨床試験の改善や患者選定に活用する見込みだ。
アルツハイマー病をはじめとする神経疾患領域への展開は、同社がこれまで注力してきたがん領域から一歩踏み込んだ動きといえる。Foundryのアーキテクチャが疾患領域を問わず適用可能であることを示す試金石にもなる。
詳細はAI drug development startup Pathos AI closes $237M investmentを参照していただきたい。