10月23日、madrobot.blogが「Sweden's government is blocking ChatGPT and Claude on staff computers from Monday」と題した記事を公開した。スウェーデン政府がChatGPTとClaudeを職員PCでブロックし、Microsoft Copilotに一本化する決定を下したというのが骨子だが、この話には技術的な逆説が潜んでいる。Copilotの内部では、禁止されたはずのClaudeが動いている可能性があるのだ。
ChatGPTとClaudeを月曜からブロック、理由は「契約なし」
スウェーデンの首相府・全省庁を統括する政府機関「Regeringskansliet(政府官房)」は、職員が業務用PCでChatGPTおよびAnthropicのClaudeを利用することを今週月曜から禁止した。スウェーデン公共放送Sveriges RadioのニュースプログラムEkotが報じた。
禁止の根拠は明快だ。政府官房のデジタル化担当ディレクターであるMikael Wettercrantzが職員イントラネットに投稿したメッセージによれば、「契約なしにAIサービスを利用することは、情報セキュリティに影響を及ぼしうる」というのが判断の軸だ。Wettercrantz氏はEkotのインタビューは断ったが、この論点は明確に示している。
要するに、ブロックの基準は「AIかどうか」ではなく「契約があるかどうか」である。Microsoft CopilotはGovernment Officesが正式に承認したサービスであり、ChatGPTやClaudeはブラウザから直接アクセスする形では契約関係がない。職員はAI利用を禁じられたわけではなく、承認済みのサービスだけを使うよう求められている。
なお、中国のDeepSeekについては多くの政府がすでに公用デバイスでの利用を禁じており、政府官房でも以前から制限済みだった。
皮肉な構造:CopilotはClaudeを内包している
ここに技術的なねじれがある。
Microsoftの公式ドキュメントによれば、Copilotの一部機能(Researcher、Copilot Studio、Word/Excel/PowerPointのCopilotツール等)では、AnthropicのClaudeモデルがサブプロセッサとして利用されている。つまり、「Claudeは禁止、Copilotは許可」という整理をしながら、Copilot経由でClaudeを使う可能性があるという構造だ。
ただし条件がある。EU・EFTA諸国・英国向けには、Anthropicモデルはデフォルトでオフになっており、管理者が明示的に有効化しなければならない。さらに、これらのClaudeモデルはMicrosoftの「EU Data Boundary」(欧州顧客のデータをEU内で処理するという取り組み)の対象外となっている。政府官房がCopilot内でClaudeを有効にしているかどうかは公表されていない。
スウェーデン国内でも広がるブロックの動き
政府官房が最初というわけでもない。スウェーデン税務局(Skatteverket)や国家施設ケア委員会(SiS)はすでに同様のブロックを導入済みで、スウェーデン執行機関(Kronofogden)も検討中だとEkotは伝えている。
一方、方向性が真逆の動きもある。米国の保健福祉省(HHS)はAnthropicのClaudeを職員向けに単独調達する契約を結んだことが報じられており、各国政府のAI調達戦略は分岐しつつある。
首相本人が「ChatGPT愛用者」だった
今回の決定には政治的な文脈もある。スウェーデンのウルフ・クリステション首相は2025年8月、経済紙Dagens industriのインタビューで次のように発言し批判を浴びていた。
私自身もかなり頻繁に使っている。セカンドオピニオンのためだけでも。他の人たちは何をしているのか?まったく逆に考えるべきではないか?
ウルフ・クリステション首相(Dagens industri紙)
報道官のTom Samuelsson氏は当時「そこに機密情報は入っていない」と釈明した。これに対しウメオ大学の責任あるAI担当教授Virginia Dignum氏は現地紙Dagens Nyheterで切り捨てた。
信頼性が保証できることを要求しなければならない。私たちはChatGPTに投票したわけではない。
Virginia Dignum(ウメオ大学教授)
Ekotの報道では、今回のブロックが首相本人の利用に影響するかどうかは言及されていない。
政府のAI調達が「ブランド選び」から「契約選び」へ
この件が示すのは、政府機関がAIツールを選ぶ基準が、機能や性能ではなく「契約・データ処理の合意があるか否か」に移行しつつあるという動向だ。職員が習慣的に使っていたチャットボットが、契約の有無という一点で別のサービスに置き換えられていく。データの扱いに関するルールが、どのAIがどの職員に届くかを実質的に決める構造が生まれている。そしてその構造の中で、「禁止したはずのモデルが承認済みサービスの内部で動いている」という逆説が静かに成立しうる点は、AI調達ガバナンスの難しさを象徴していると言えるだろう。※編集部の考察
詳細はSweden's government is blocking ChatGPT and Claude on staff computers from Mondayを参照していただきたい。