10月20日、Paul Nashawaty氏が「ServiceNow AI Passport: Runtime Governance for AI Agents」と題した記事を公開した。この記事では、ServiceNowが発表したAIエージェント向けの実行時ガバナンス基盤「AI Passport」と、非技術系社員がAIエージェントを自作できる「EmployeeWorks」の拡張機能について詳しく紹介されている。
AIエージェントに「身分証明書」を発行する仕組み
ServiceNowが発表したAI Passportの最も注目すべき点は、オープン仕様上に構築されており、任意のIDプロバイダーやサードパーティがエージェントのクレデンシャルを発行・検証できる設計になっている点だ。プロプライエタリな標準に閉じることを意図的に避けており、エコシステム全体で採用が進めば相互運用性の高いインフラになりうる。
AI Passportの核心は、AIエージェントおよびMCP(Model Context Protocol)サーバーに対して、実行時に検証可能なクレデンシャル(資格情報)を発行する点にある。MCPとはAIエージェントが外部ツールやデータソースと連携するためのプロトコルで、マルチエージェント構成では複数のエージェントが連鎖して動作する。AI Passportはその各ステップで「このエージェントは何をしてよいか」を強制的に検証する。事後に「正しく動いていたか」を確認する監査ログ型のアプローチではなく、ワークフローの各ステップで認可をリアルタイムに強制する点が技術的に重要だ。
エンタープライズ環境でAIエージェントが増殖するにつれ、「何が動いていて、何にアクセスできるのか誰も把握していない」という問題が深刻化している。ServiceNowはこれに対し、AI Passportという実行時ガバナンス層で正面から答えようとしている。
ガバナンスの実装:シャドーAI検知から予算管理まで
AI Passportは、ServiceNowのSuper Intelligence Control Towerを拡張する形で以下の機能を提供する。
- シャドーAI検知:企業内で許可なく動いているAIの発見
- 400以上のディスカバリーコネクター:既存システムへのアクセス状況をマッピング
- 段階的ポリシー強制:アラート→スロットリング→ブロッキングの3段階
- AIコスト管理:フロンティアモデルAPI、SaaS組み込みAI、ハイパースケーラーのGPUコンピュート、オンプレGPUにまたがるコストを一元集約
コスト管理の部分はCFO・CIOへの訴求を明確に意識している。Paul Nashawaty氏が主宰するECI ResearchがGoogle向けに実施したGoogle GovTech Surveyによると、最終的な技術選定においてTCO(総所有コスト)を最重要視する回答者は**32.6%**に上り、消費コストの予測可能性が意思決定の軸になっている。
また同調査では、回答者の**45.6%**が「AIエージェントの利用は定義されたポリシーのもと承認済みユースケースのみに許可」と回答している。ServiceNowの段階的強制モデル(オール・オア・ナッシングではなくダイヤル型)は、この組織的な姿勢にそのまま対応する設計だ。
EmployeeWorks:非エンジニアがエージェントを自作する
EmployeeWorksの拡張は、ガバナンスとは別の文脈で重要な発表だ。
- Productivity Assistants / Productivity Routines:管理者が定義したガードレールの範囲内で、一般社員が自分専用のAIエージェントを構築できる
- ToolSmith:自然言語でオートメーションを記述すれば、エージェントのビルドをエンド・ツー・エンドで処理するツール。いわゆる「エンタープライズ向けバイブコーディング」的な位置付けだ(※コードを書かずに自然言語でシステムを構築するアプローチ。バイブコーディングとも呼ばれる)
- Conversations API:EmployeeWorksの機能を社内の独自アプリやキオスク端末に組み込める
Conversations APIにより、社員がServiceNowのNowプラットフォームに移動しなくても、すでに使っているアプリの中でAI機能を利用できるようになる。プラットフォーム側が社員のいる場所に出向く設計は、導入摩擦を大きく下げる。
競合との構図とリリース時期
AI PassportとAIコスト管理機能のGA(一般提供)は2026年第4四半期が目標とされており、本記事公開時点でまもなくGA予定の段階にある。EmployeeWorksのコンポーネントは現在コントロールド・アベイラビリティ(限定提供)中だ。
競合圧力はMicrosoftから来る可能性が高い。EntraやAzureを通じてアイデンティティとガバナンスの基盤を持つMicrosoftは、同じ領域で強力なポジションにある。また純粋なAIガバナンス専業ベンダーも「ワークフロープラットフォームがガバナンス層を持つべきではない」と主張するだろう。ServiceNowの反論は「ワークフローのコンテキストなきガバナンスはオブザーバビリティの見せかけにすぎない」というものであり、すでにNowプラットフォームを標準化している企業には響くロジックだ。
オープン仕様を維持したままGA時点で有力なサードパーティ統合を揃えられるかどうかが、このアーキテクチャの実質的な価値を決める試金石になる。
詳細はServiceNow AI Passport: Runtime Governance for AI Agentsを参照していただきたい。