10月20日、PYMNTSが「Big Banks Won't Let Outside AI Agents Move Money」と題した記事を公開した。米大手銀行4行が外部AIエージェントによる送金・決済を禁止する一方、自社AIには同様の機能を実装しようとしている構図が詳細に描かれている。
銀行4行が相次いで「外部AIエージェントの送金」を制限
同じ1週間の間に、JPMorgan Chase・Citigroup・Bank of America・Charles Schwabの4行が相次いで外部AIエージェントに対する方針を打ち出した。各行の立場には濃淡があるものの、共通しているのは「外部のAIエージェントに顧客口座の資金を動かさせない」という点だ。
特に具体的な数字を示したのがSchwabだ。同社CEOのRick Wursterは、Metaが開発したAI「Muse」(ユーザーの代わりにタスクを実行する自律型AIエージェント)など未認証の外部エージェントによるアクセス試行を、毎週「10件から20件台」でブロックしていると明かした(Bloomberg、10月16日)。パスワードを渡したユーザーが実際にアクセスを試みており、それを銀行側がシステム的に遮断している状況だ。
JPMorgan ChaseのCEO Jamie Dimon は10月13日の第3四半期決算説明会で「rogue agents(不正エージェント)」という表現を使い、外部エージェントを銀行内に入れないと明言。顧客が外部エージェントを使う場合、責任は顧客に移転するとアナリストに伝えた。
Bank of AmericaのCEO Brian Moynihan は完全な禁止ではなく「条件付き制限」の立場をとる。AIエージェントが実行した支払いについて「どの当事者が責任を負うか」を定めるプロトコルを策定中で、その完成まで入出金へのアクセスを制限するとした。Moynihan自身は「送金の際は人間が承認ループに残るべきだ」と述べた(Financial Times、10月17日)。
Citigroupも同様に、サードパーティのエージェントによるログインおよび取引を禁止している。
なお、見出しで「4行が相次いで制限」と述べたが、各行の方針はまったく同一ではない。JPMorgan Chaseが「外部エージェントは不可」と明確に線引きする一方、Bank of Americaはプロトコル整備を前提に将来的な開放を示唆しており、対応温度差は存在する。
「読む」のはOK、「動かす」のはNG
4行すべてが認めているのは読み取り専用アクセスだ。
- JPMorgan Chase:顧客がPlaidなどのコネクタを承認すれば残高確認は可能。送金・支払いは不可
- Citigroup:認可されたオープンバンキングプロバイダーによる口座情報の読み取りのみ許可
- Schwab:MCP(Model Context Protocol)サーバーを構築し、顧客が選択したAIモデルが残高確認やリサーチを実行できるよう設計中。ただし送金は不可
Wursterは「資金を動かすことは認めない」と明言している。
銀行が外部に禁じる機能は、自社アシスタントで提供する
ここが構図の核心だ。外部エージェントに禁じている「資金の自動移動」を、銀行は自社プロダクトで実装しようとしている。
Dimonは2025年の株主レターで、JPMorgan Chaseの「Smart Cash」機能が2026年中に顧客資金を当座預金口座と高利回りの証券口座の間で自動的に移動させると予告していた。外部エージェントが提供しようとしているのとまったく同じ機能を、自行のアプリ内でテスト中だ。
Schwabも同様に、生成AIアシスタント「Charley」を9月30日に発表し、10月から段階的に米国リテール顧客へのロールアウトを開始した。Charleyは送金・取引・口座操作に関する質問への回答、相場情報やリサーチの取得、そしてSchwabの担当者へのハンドオフが可能だ。Wursterは「顧客にMuseにパスワードを渡す代わりにCharleyを使ってほしい」と述べた。
消費者はAIに「推薦」は求めるが「決定権」は渡さない
PYMNTSのインテリジェンスレポート(2025年2月)によれば、**AIのヘビーユーザーの37%**が、財務管理・バンキングの主要ツールとしてChatGPTやGeminiなどのネイティブAIプラットフォームをすでに活用している。
一方、別のレポート(2025年6月)では、米国の成人の**39%**が過去3か月以内に決済関連の活動にAIを使用していたことが判明。しかし消費者は「AIが購入を完了する前に許可を求めてほしい」と考えていることも示されている。
この「許可ステップ」を実装済みなのがRobinhoodだ。同社はMCP(Model Context Protocol)サーバーを通じて外部AIエージェントの取引を許可しており、顧客が設定した支出上限・任意の手動承認・プライマリカード番号へのアクセス不可、という3つの条件を設けている(PYMNTS、5月27日報道)。大手銀行が外部エージェントを締め出す中、Robinhoodが条件付きで開放する設計を採用している点は対照的だ。
まとめ
大手銀行が外部AIエージェントを制限した理由は、技術的な問題というより責任の所在と制御の問題だ。誰が、何を、なぜ承認したのかが追跡できない状態で資金が動くことへの拒否反応は、金融機関として合理的な判断といえる。同時に、同じ機能を自社システムで提供しようとしている点は、この動きが「AIエージェント不要論」ではなく「管理下に置いたAIエージェントの推進」であることを明確に示している。
※編集部の考察:今後の焦点は、Bank of Americaが言及した「責任プロトコル」の業界標準化だろう。誰が策定し、どの外部エージェントが認定を受けるか——その枠組みをいち早く握った側が、AIエージェント時代の金融インフラにおいて主導権を持つことになる。
詳細はBig Banks Won't Let Outside AI Agents Move Moneyを参照していただきたい。