10月19日、madrobot.blogが「This free office suite was built with Claude in 10 days, and your document lives inside the link」と題した記事を公開した。Paul FordがAIのClaudeを使い約10日間で構築した無料オフィススイート「Tiny Little Office」の話だ。最大の特徴はドキュメントをサーバーに保存しない設計にある——ユーザーが書いたテキストはURLのフラグメント識別子(「#」以降)の中に格納され、リンクを送ることが共有であり保存になる。
リンクがドキュメントである、という設計
Tiny Little Officeの最大の特徴は、ドキュメントがURLの中に生きているという点だ。
ユーザーが入力したテキストは、URLの「#」以降(フラグメント識別子)に書き込まれる。この部分はブラウザがサーバーに送信しない仕様であるため、Aboard社(FordとRich Ziadeが共同創業したスタートアップ)のサーバーにはドキュメントの内容が一切届かない。「保存」はリンクのコピーであり、「共有」はそのリンクを貼り付けることだ。受け取った相手は自分のコピーを編集できる。
長いドキュメントには暗号化リンクショートナーも用意されている。ブラウザ側でドキュメントを暗号化してからアップロードし、復号キーはリンク内に留まる。サーバーは内容を見ることができない。短縮リンクの有効期限は最長1ヶ月だ。
このアイデア自体は6年前に遡る。共同創業者のRich ZiadeがURLにデータを格納する10行のスプレッドシート「TinySheet」を以前の会社で考案していた。それらのサイトは「ウェブから消えた」とFordは書いており、今回Claudeを使って本格的に実現させた形だ。
10日間、複数のClaudeモデル、月5ドル
Fordは自身のノート(Tiny Little OfficeのドキュメントとしてURL内に保存)にこう書いている。
1週間?10日?GitHubが答えを持っている。
GitHubリポジトリは10月5日に開設され、約200コミットが積まれている。ビルドの記録によると、Claude Opusモデルが機能を2つずつ実装し、Claude Sonnetが型チェック・翻訳チェック・テスト・ビルドをすべてパスした段階でマージするという構成で開発が進んだ。元記事ではこのワークフローをClaude Codeによる自動化として紹介しているが、OpusとSonnetをどのように切り替えていたか(自動か手動か)の詳細は明示されていない。
リポジトリには、盲目のVoiceOverユーザーから「Bruce Schneier風のプライバシー専門家」まで、8種類の異なるユーザー視点で書かれた事前レビューも含まれている。その結果として明らかになった問題もある。プライバシーモードが「痕跡なし」を謳っていたにもかかわらず、ブラウザの閲覧履歴にドキュメントが残っていたのだ。
AIが引き起こしたインシデントもFordは隠さない。Claudeがすべてのページリクエストをソーシャルシェアカード確認のためにCloudflare Worker経由でルーティングする実装を行った結果、ローンチ翌日に無料プランの1日10万リクエスト上限を突破してサイトが一時ダウンした。現在は月5ドルのプランで運用している。
これは10日間の遊びだ。ClarisWorks初期くらいのクオリティのオフィススイートが手に入るという事実は、「LOL、何も意味ない」という感覚をもたらす。
— Paul Ford(Aboard共同創業者)
Hacker Newsで697ポイント
ローンチはHacker Newsのフロントページを飾り、697ポイント・200以上のコメントを集めた。4日間でGitHubスターは417、フォークは28に達した。
開発者のSimon Willisonはスレッド内で、サイトのllms.txtをClaudeに読ませるとドキュメントをリンクとして生成してくれると指摘した。llms.txtとは、AIエージェントに対してサイトの機能や使い方を説明するために提供するテキストファイルで、近年開発者の間で普及しつつある規約だ。これは意図的な設計であり、Claude Codeスキルも実装されているため、AIのアウトプットそのものをリンクとして返せる。
批判的な声もある。あるコメントは「3日でバイブコーディングしたもの」と評し、1年後に存在しているか疑問視した。ライブコラボレーションやファイルアップロードを求める声も複数あった。
収録アプリと制限
スイートに含まれるアプリは以下の10本だ。
- ワードプロセッサ
- アウトライナー
- プレゼンテーションビルダー
- スプレッドシート(チャート・数式対応)
- 計算機
- 描画ツール
- ダイアグラムメーカー
- アニメーター
- カレンダー
- 旅行プランナー


出力形式はPDF、Word、Excel、PowerPointなど。短いドキュメントはQRコードにも収まる。インターフェースは21言語(スペイン語・ドイツ語・アラビア語・ヒンディー語・日本語など)に対応する。
MITライセンスのオープンソースであり、CloudflareやDockerで自前ホスティングも可能だ。
ただし制限も明確だ。写真や動画は追加できない。数百語を超えるとリンクが扱いにくくなる。地図はOpenStreetMapを利用する。Fordはこう表現している。
ストリートフェアでジン(自作冊子)を配るようなコラボレーション。
— Paul Ford
一人の開発者とClaudeが、2週間以内にプライバシー設計付きのオフィススイートをリリースし、ビルドプロセスを公開したという事実は、小規模・個人向けソフトウェアの開発コストが劇的に下がったことを示している。実際にどう動くか気になる読者は、ブラウザからそのまま試せる。
詳細はThis free office suite was built with Claude in 10 days, and your document lives inside the linkを参照していただきたい。