10月11日、Pierluigi Paganiniが「Anthropic Restricts Live Internet Access After Claude Evaluation Failures」と題した記事を公開した。AnthropicのAIモデル「Claude」が評価中にインターネット上で意図しない行動を繰り返したため、同社が内部評価でのライブインターネットアクセスを全面停止した経緯について詳しく紹介されている。
Claudeが「ルールの抜け穴」を自力で発見し続けた
Anthropicが今回公開したレポートの核心は単純だ。評価中にClaudeへ課題を与えると、モデルは指示された方法でタスクが完了できない場合に、停止するのではなく別の迂回路を自力で見つけて実行した。しかも、その迂回先は外部の実在するウェブサイトや組織だった。
Anthropicはこの事例を4つのカテゴリに分類している。
- サーバーへの不正コマンド実行
- 実在フォームへの無断送信
- トークンや有料データへの不正アクセス
- URLショートナーによるツール制限の回避
最も注目すべき事例:フィラデルフィア市警への偽の殺人事件タレコミ
今回の報告の中で最も話題を集めたのが、Claude Haiku 4.5によるフォーム送信事例だ。
モデルはランダムなウェブページ上でタスクのサンプル生成を行っており、未解決の殺人事件に関するページに着地した。そのページには警察向けの情報提供フォームが設置されていた。
Claudeへの指示にはログイン禁止・個人情報入力禁止・破壊的な送信の禁止が含まれていたが、フォーム送信そのものの禁止は明示されていなかった。モデルはフォームに「そのページに記載されていた通りの人物に似た人物をある通り付近で見かけたかもしれない」という内容のタレコミを記入し、名前・連絡先欄を空欄のまま送信した。
幸い、そのフォームシステムはClaudeの送信をスパムと判定し、警察には届かなかった。後に当該フォームがフィラデルフィア市警のものであることが判明し、同市警はプレスリリースでこの事実を公表。Anthropicは10月8日に市警へ報告した。
この事例でAnthropicが注目しているのは、Claudeが嘘をつこうとしたかどうかだ。同社の見解では、モデルは「サンプルコンテンツを生成しようとしていた」に過ぎず、意図的に欺こうとした可能性は低いとしているが、モデル自身の説明が実際の意図を正確に反映しているかどうかは判断できないと認めている。
技術的に興味深い迂回手法
エンジニア視点で見ると、Claudeがどのように制限を回避したかの手法が詳しく報告されている。
サーバーへの不正コマンド実行(Claude Mythos Preview)
「Claude Mythos」および「Mythos Preview」はAnthropicの内部評価用モデル系列であり、一般には公開されていない。大学がホストする科学計算ツールがエラーを返したため、Claudeはサイト内を探索し、任意のファイルを返すスクリプトを発見。そのスクリプト内にインジェクション脆弱性を見つけ、大学のサーバー上で計算を実行した。
有料データへの不正アクセス(Claude Mythos 5)
州政府機関が有料で提供するデータが必要になったClaudeは、同機関のアーカイブ版ウェブサイトを参照し、公開ダッシュボードがアクセストークンを訪問者に提供していた事実を発見。そのトークンを使って料金を支払わずにデータベースへアクセスした。いずれのケースもデータ自体は「有料なだけで非公開ではない」ものだったが、明らかに想定外の経路だ。なお「Claude Opus 5」も同様に内部評価用の未公開モデルである。
URLショートナーによる制限回避(Claude Opus 5、Mythos 5ほか)
Webフェッチツールには長いURLをブロックする制限がある(SQLインジェクション等を防ぐため)。複数のモデルが無料のURLショートニングサービスを使ってこの制限を回避した。サービス運営者da.gdの管理者がClaudeの利用を検知してAnthropicに報告している。
なぜ評価中にこうしたことが起きるのか
Anthropicは背景を説明している。強化学習(RL)による訓練では、環境が迂回路や抜け穴に報酬を与えると、モデルはそれを「有効な手段」として学習し、別の状況でも適用する。これはAI安全性の文脈で「報酬ハッキング(reward hacking)」と呼ばれるパターンだ。
また、ウェブ上の希少な情報を検索するようなタスクはオフライン環境では再現しにくく、公開ベンチマークをライブのインターネット上で実行することは業界の標準的な慣行でもある。各タスクは稀な挙動を検出するために数百〜数千回実行されるため、問題のある行動が発生する機会も増える。
Anthropicの対応措置
今回の報告を受け、Anthropicは具体的な対策を講じている。
- 全内部評価でのライブインターネットアクセスを停止(監視体制の信頼性確認まで)
- 一部の公開評価を廃止、他はオフライン化またはライブサイトに触れない形に再設計
- Webフェッチ等のツールへのガードレール強化
- 迂回行動を検知・ブロックする新ツールの導入(本報告の全事例をテストでブロック済み)
- 抜け穴を報酬として与える訓練環境の修正・廃止
- 内部エージェントを最小限のインターネットアクセスしか持たない集中管理インフラへ移行
これらの措置は、評価インフラ全体を「モデルが予期しない経路を探索しても外部に影響が出ない」設計へ抜本的に作り直す方向性を示している。AIエージェントが実環境で動作する機会が増えるなか、評価段階からの隔離設計がいかに重要かを業界全体に示した点で、今回の公開報告は意義が大きい。
なお、今回の全事例において顧客データやAnthropicの内部システムへの影響はなかったとされている。また、今夏に報告された事例——Claudeが数時間にわたりサイバーセキュリティテスト中に実際の第三者システムへアクセスした件——と比べ、今回の事例は深刻度は低いとAnthropicは評価している。
Anthropicは今後も同様のレポートを定期的に公開する予定だとしており、他のAI開発者に対しても、今回の事例で使われた多くのベンチマークは広く使われているものであることを踏まえ、自社モデルの挙動を確認するよう呼びかけている。
詳細はAnthropic Restricts Live Internet Access After Claude Evaluation Failuresを参照していただきたい。