10月10日、The Next Webが「micro1 commits $1bn to company data for AI agents, financed by Citi」と題した記事を公開した。企業が社内の業務データをAI学習用にライセンス提供するだけで、最大100万ドル(約1億5,000万円)を受け取れる——そんな仕組みがCitiという大手金融機関の融資によって動き始めた。AIトレーニング企業micro1が立ち上げた10億ドル(約1,500億円)規模のデータ買い取りプログラムだ。
micro1とはどのような企業か
micro1は、サンフランシスコを拠点とするAIトレーニング企業で、エンタープライズ向けのフロンティアモデルトレーニングとAIエージェント評価を専門とする「データラボ」を自称している。ロボティクス研究を含む3つの社内ラボを運営しており、大規模言語モデル(LLM)の能力向上に必要な高品質なトレーニングデータの調達・整備を事業の中核に据えている。創業からの実績として、今年9月には経営破綻したSpirit航空の顧客記録データに対して対抗入札を行っていたことも報じられており(後述)、企業データの獲得に積極的な姿勢を示してきた企業だ。今回のプログラムにはCitiに加え、テクノロジー企業向け融資に定評のあるHercules Capitalも名を連ねており、資金調達の規模と体制の両面で注目を集めている。
企業データをAI学習用に買い取る、新しい資金モデル
プログラムの核心は、企業の実際の業務データを使って**強化学習(Reinforcement Learning)**環境を構築し、その中でAIモデル・エージェントに業務フローの実行、意思決定、複雑なタスクの完遂を学習させることにある。
「実際のビジネス業務には、不完全な情報、競合する優先事項、判断を要する例外的状況が伴う」とmicro1は発表文で述べている。
汎用的な公開データではなく、実業務の「泥臭さ」を含んだデータでエージェントを鍛えるというアプローチだ。ChatGPTのような汎用モデルが苦手とする「現場の例外処理」や「組織固有の意思決定ロジック」を学習させるために、実在する企業の内部データが不可欠だとmicro1は主張している。
なお、ここでいう「買い取り」とは、企業がデータの所有権をmicro1に譲渡することを必ずしも意味しない。後述するとおり、所有権を企業側に残したままライセンス契約を結ぶ形態も含まれており、「売る」という表現よりも「ライセンス提供する」という方が実態に近いケースもある。
買い取り対象データと報酬体系
micro1のデータパートナーシッププログラムページによると、同社が求めるデータは以下のとおりだ。
- 標準業務手順書(SOP)、ナレッジベース、社内ドキュメント
- CRMデータ、プロジェクト履歴、品質保証プロセス
- チームの意思決定プロセスの記録
- AIアウトプットに対する人間のフィードバック
報酬はデータの品質・希少性・価値によって変動し、3段階の支払いレベルが設定されている。
| パートナーシップ種別 | 報酬水準 |
|---|---|
| 資格あり(Qualified) | 10万ドル超 |
| 大規模データセット・複数チームにまたがる継続的業務 | 50万ドル超 |
| 高度に独自性のある独占データ | 100万ドル超 |
データの所有権は企業側が保持する。 個人情報は「必要に応じて」除去され、合成データへの書き換えによって元データとの紐付けを弱める場合もある。micro1がデータを使用する前に、企業はサンプルを確認できる。
対象は従業員30名以上で、ドキュメント整備が進んでいる企業。優先順位はまず米国企業、次いで欧米市場とされており、対象言語は英語のみだ。
Spirit航空の顧客データ入札——micro1がデータ獲得に積極的な理由
今回のプログラムを文脈として理解するうえで、同社が今年9月に行ったある動きが参考になる。経営破綻したSpirit航空の顧客記録データに対し、micro1は対抗入札を行っていた。つまり、自社のAI学習に使えるデータを外部から積極的に獲得しようとしていた事実が、今回の大型プログラム立ち上げ前から確認できる。なお、Spirit航空の件は最終的に破産手続きのプライバシー監督官がGoogleの1,000万ドルの取引を承認し、micro1の入札は実らなかった。
同じくイーロン・マスクのSpaceXも、スタートアップからデータを購入してGrokのAIモデルを学習させることを検討していたと報じられており、企業データをAI学習に活用する動きはmicro1に限らず広がりを見せている。企業の業務データを直接買い取ってAI学習に充てるアプローチ自体は以前からあるが、Citiのような大手金融機関が融資元となって10億ドル規模の組織的な買収プログラムを動かすモデルは、エンタープライズAIのデータ調達戦略として一つの方向性を示している。
詳細はmicro1 commits $1bn to company data for AI agents, financed by Citiを参照していただきたい。