10月9日、Steven Vaughan-NicholsがZDNetに「'I use AI to do the things that I'm bad at': Linus Torvalds on why it works for him」と題した記事を公開した。プラハで開催されたOpen Source Summit Europeで、LinuxとGitの生みの親Linus TorvaldsがAI活用に関する自身のスタンスを語った。
オープンソースコミュニティではAIへの反発が根強い。つい最近も、Rustで書かれた次世代Linuxデスクトップ環境COSMICを開発するSystem76がAI生成コードの使用を禁止したばかりだ。そうした空気の中でTorvaldsは「AIが本当に好きだ」と明言した。ただしそのスタンスは「AIで何でも解決する」というものでは一切ない。
「自分が苦手なことにAIを使う」
Torvaldsが語ったのは、ギタープリアンプの自作プロジェクトでのエピソードだ。マイコン上で動くUIをC言語で書いたが、見た目が「80年代のもの」になってしまった。JavaやモダンなUIフレームワークは専門外だったためAIにプロンプトを与えたところ、最初の結果は「ひどいもの」だった。しかし「自分がCで書いた正しい実装を見せる」というアプローチで改善させることに成功したという。
このエピソードが示すのは、AIを「苦手領域の補助ツール」として割り切って使う姿勢だ。万能視でも拒絶でもなく、自分の強みと組み合わせることで初めて機能するという、きわめて実用主義的な見方である。
初心者の「入口」としてのAI
Torvaldsが特に評価しているのが、プログラミング初心者に対するAIの効果だ。
彼が1981年頃にプログラミングを始めた当時、コンピュータはシンプルで、自分のコードとプロを比較しても大きな差はなかった。しかし現代は「ソフトウェアエンジニアリングのハードルが非常に高くなり、磨き込まれたプロのプログラムばかりと比べると、自分の小さな成果が価値のないものに見えてしまう」と語る。
その文脈で彼が肯定的に捉えているのが「バイブコーディング(vibe coding)」だ。プロンプトで意図を伝えてAIにコードを生成させ、動作を確認しながら作り上げる開発スタイルを指す言葉で、2025年頃からエンジニアコミュニティで広まった概念である。「多くの人がバイブコーディングをバカにするが、プログラミングの楽しさを見つける素晴らしい方法だと思う」とTorvaldsは述べ、AIを「プログラミングへの入口となる麻薬」と表現した——ここでの「麻薬」は依存性があるほど魅力的という肯定的な比喩である。一方で「本当に重要な作業でAIを使う際は、非常に慎重である必要がある」とも明言しており、ツールとして正しく扱うことを強調している。
LinuxカーネルにおけるAIの現実
趣味プロジェクトへのAI活用と、Linuxカーネルへの適用は別次元の話だ。
現在、Sashikoというエージェント型のLinuxカーネルコードレビューシステムがLinux Kernel Mailing List(LKML)上でパブリックレビューを行っている。AIがコードを自律的に解析してフィードバックを返すシステムで、一部のサブシステムメンテナーはパッチ受け入れ前にこのレビューの通過を要求し始めている。AIによるコードチェックは長年気づかれていなかった古い未使用ドライバのセキュリティ問題なども発見しており、Torvaldsはコードベースの改善への貢献を認めている。
しかし同時に「メンテナーへのストレスが問題になるほど大きくなっている」とも述べた。もっともらしいが虚偽のバグレポートへの対応には多大な人的コストがかかり、根本原因を修正しない対症療法的なパッチを「mindless band-aid kind of patches(思考停止の絆創膏パッチ)」と批判している。直前日に開催されたLinux Kernel Maintainer Summitでは、議論の4分の3がAI生成・レビューによるストレスをいかに軽減するかに費やされたという。ボトルネックはパッチの数ではなく、レビュー担当者を疲弊させずに有益な作業を通過させることだとTorvaldsは指摘する。
Linux 35年とGitの誕生
Linux 35周年にちなみ、開発プロセスの変遷についても語られた。初期はtarballパッチで変更を管理し、少なくとも週次でソースコードをリリースしていた。2002年まで続いたこの方式を「自分、自分自身、そしてコンピュータだけの世界だった」と振り返る。
その後採用したBitKeeperはプロプライエタリ製品だったためコミュニティを二分したが、分散型ソース管理の有用性をTorvaldsに示した。2005年のライセンス問題でBitKeeperが使えなくなった後、Torvaldsはわずか11日でGitの最初の動作バージョンを書き上げた。2022年のStack Overflow開発者調査によれば、当時すでに回答者の約94%、プロ開発者の約97%がGitを使用しており、その後もデファクトスタンダードとしての地位は揺るいでいない。Torvalds自身は「Gitに対して過大評価されすぎている」と述べており、約6ヶ月後にはメンテナンスを引き渡している。
詳細は'I use AI to do the things that I'm bad at': Linus Torvalds on why it works for himを参照していただきたい。