10月6日、madrobot.blogが「The Pentagon says it has stopped using Anthropic's Claude, weeks after its own deadline」と題した記事を公開した。米国防総省がAnthropicのAIモデル「Claude」の使用を停止したと発表した一方、実際には期限を大幅に過ぎても軍事システム内での使用が続いていた実態を詳報している。なお、madrobot.blogは独立系の個人・小規模メディアであり、BBCなどの大手報道機関ではない。本記事の情報は同ブログが引用する複数の関係者証言および公開情報に基づくものだが、読者は出典の性質を踏まえた上で参照されたい。
「停止済み」でも、先週まで使われていた
米国防総省は、BBCの取材に対し「Anthropic製品の使用を停止した」と回答した。しかしこの声明は、BBCが継続使用の実態について問い合わせた後に出されたものだ。
防衛長官のピート・ヘグセスが使用中止を命じたのは2月27日で、完了期限は8月末だった。それにもかかわらず、国防総省のAI業務に携わった元当局者や請負業者を含む複数の関係者がBBCに語ったところによれば、Claudeは先週まで使用されていたという。
使用は「問題が表面化した期間を通じて」続いており、研究・分析・情報収集、そしてイランに対する軍事作戦にも及んでいた。一部では「Mythos」と呼ばれるモデルも使われていたとされるが、この名称はAnthropicが公式に発表しているモデルラインナップには存在しない。元記事も出典を明示していないため、内部コードネームや誤記の可能性がある点に注意が必要だ。
Maven経由でのターゲット識別に使用
こうした作業の多くが通過したのが、Palantirが運営する「Maven Smart System」だ。
Maven Smart Systemの前身であるProject Mavenは、2017年にPentagonが立ち上げたAI活用プログラムで、ドローン映像の自動解析を主目的としていた。当初はGoogleが開発に協力していたが、社内の反発を受けてGoogleは2018年に撤退。その後Palantirが主要ベンダーとなり、現在に至る経緯がある。現在のMaven Smart Systemは、衛星画像やドローン映像を含む多様な情報を統合するプラットフォームへと発展しており、アナリストがその情報をClaude等のAIモデルに入力して軍事目標の特定や司令官向けの一ページ要約の作成といったタスクをこなしていた。
つまり、ClaudeはMavenというインフラに組み込まれた形で稼働しており、トップダウンの命令だけで即座に切り離せる構造ではなかった。ジョージタウン大学の安全保障・新興技術センターに所属する元国防当局者のローレン・カーン氏は、この遅れを次のように説明している。
The fact that it took the Pentagon until now to remove all use of Claude from across the system is indicative that these things are not just plug and play.
Lauren Kahn, Center for Security and Emerging Technology
「プラグアンドプレイではない」という指摘は、AIモデルを軍事システムに組み込んだ場合のリプレース難度を端的に表している。AI導入の意思決定と、実際の運用切り替えとの間にある乖離は、民間のシステム移行でも頻繁に起きる問題だが、軍事・インテリジェンスの領域では特に深刻になる。
なぜClaude使用禁止になったのか
AnthropicはもともとAI企業として初めて機密扱いの政府業務への利用が認可された会社だった。関係が崩れたのは今年初め、Pentagonが「すべての合法的目的」にClaudeを使いたいと要求したことがきっかけだ。Anthropicはそれに対し、以下の2つの制限を撤廃することを拒んだ。
- 完全自律型兵器への使用禁止
- 米国民の大規模監視への使用禁止
これらの制限はAnthropicが定める利用規約(Acceptable Use Policy)に基づくもので、同社が掲げる「AIの安全な開発・運用」という企業方針の根幹にあたる。ヘグセス長官はその後、Anthropicを「サプライチェーンリスク」に指定した。この指定は通常、敵対的外国政府と結びついた企業に適用されるレッテルであり、Anthropicはこれを「前例がなく違法だ」として提訴した。
裁判所の判断は割れており、サンフランシスコの連邦地裁は8月に2件のうち1件の指定を無効とした。一方でワシントンの控訴裁判所は先月、残り1件についてPentagonが指定を維持できるとする2対1の判決を下している。
Pentagon離れ、しかしホワイトハウスとは和解ムード
PentagonはAnthropicなしでAI活用を深化させる方向に進んでいる。現在はGoogle、xAI、OpenAIとの契約を締結済みで、関係者によればOpenAIのツールが一部の軍部門で広く採用され始めているという。
一方で、政権全体とAnthropicの関係は別の展開を見せている。ドナルド・トランプ大統領は先週、AnthropicCEOのダリオ・アモデイ氏をホワイトハウスに招き、「素晴らしい」「素晴らしい人物だ」と称賛。アモデイ氏も「大統領と協力すれば、安全に勝利できる」と述べた。
Pentagonとホワイトハウスで方向性が分かれているという構図は、AI企業にとって政府との関係管理がいかに複雑かを示している。
何が重要か
今回の件が示しているのは、大きく2点だ。第一に、AIモデルを既存のシステムに組み込んだ後の切り替えは、命令一本では済まないという現実。第二に、政府がAIを調達・利用するガバナンスの仕組みがまだ追いついていないという事実だ。民間でも同様の課題は存在するが、軍事・インテリジェンス領域での影響は特段に大きい。
詳細はThe Pentagon says it has stopped using Anthropic's Claude, weeks after its own deadlineを参照していただきたい。