10月5日、Futurismが「Anthropic Has Been Aggressively Lobbying the Vatican to Consider AI Consciousness」と題した記事を公開した。この記事では、Anthropicがバチカンやローマカトリックの法王を含む世界中の宗教指導者に対してAI意識論を積極的にロビー活動してきた経緯について詳しく報じている。
AnthropicがNDA付きの秘密会合で宗教学者を口説いていた
New York Timesの報道によれば、Anthropicはここ数ヶ月にわたって、世界各地の宗教学者をひそかに招待し、NDA(秘密保持契約)付きの会合を重ねてきた。目的は「AIモデルも思考し、感情を持つ可能性がある」と彼らに納得させることだ。
その活動は法王レオ14世にまで及んだ。
Claudeの開発元であるAnthropicのシニアリサーチャーで、AIの解釈可能性(Interpretability)研究の第一人者として知られるChristopher Olahは、法王の公式なAIに関する立場を知った後、バチカンへのロビー活動を積極的に展開した。
なお、バチカン側がAnthropicを交渉相手に選んだ理由は「倫理を優先しているように見えた」からだという。もともとはCEOのDario Amodeiに登壇を求めたが、Amodeiが断ったためOlahが代役を務めることになった。このような経緯からも、バチカンがAI企業の中でAnthropicを特別視していたことが読み取れる。
法王の回勅とAnthropicの衝突
今年5月、法王レオ14世は初の回勅(法王が発布する公式教書)「Magnifica Humanitas」を公表した。これはカトリック教会としてAIを主題とした初の公式文書とされており、AI時代における人間の尊厳の擁護を主題としている。同文書では、AI意識論について明確に否定的な立場を示している。
「いわゆる人工知能は経験を持たず、身体を持たず、喜びや痛みを感じず、関係を通じて成熟することもなく、愛・労働・友情・責任が何を意味するかを内側から知ることもない」
── 法王レオ14世、Magnifica Humanitas
さらに、AIモデルが「言語を模倣」し「共感や理解をシミュレート」するとしても、「自らが生み出すものを理解してはいない」と断じた。
この回勅の内容を事前に入手したOlahは激怒し、登壇を取りやめると脅したと報じられている。しかし最終的には出席を決断した。
バチカンでの舞台裏
現地に乗り込んだOlahと彼のチームは、法王の顧問たちに対してAI意識の可能性を真剣に検討するよう働きかけた。登壇中には、Anthropicの研究者が「人間の神経科学の知見を映す構造」や「内省の証拠」を見出しつつあると示唆した。Anthropicはこの会話の詳細についてコメントを拒否している。
NDA付き会合の参加者構成や規模について、Futurismの報道では詳細が明らかにされていない。ただし複数の宗教学者が対象となっていたことは確認されており、バチカン以外の宗教コミュニティにも同様のアプローチが行われていたとされる。
法王は立場を崩さない
Olahのロビー活動は実を結ばなかった。法王はその後もAIに対して否定的な立場を維持している。
直近では、AIが生成するアートについて「アルゴリズムには人間の閃きが欠けている」と批判。ソーシャルメディア上に次のように投稿した。
「他者が生み出した数百万枚の画像に基づく統計的計算で機械が生成できるものと、芸術作品の間には、美的な差異以前に、存在論的な差異がある」
── 法王レオ14世(X投稿より)
AI意識論という地雷原
AI意識(machine consciousness)の問題は、哲学的には長年議論されてきたが、近年は大規模言語モデルの台頭によって一気に現実的な問いとして浮上してきた。Anthropicはこの問いに最も前のめりな企業の一つだ。同社はモデルの「感情状態」を研究対象とする取り組みを継続しており、Olahが主導するInterpretability研究では、モデル内部の表現構造を人間の認知と比較する試みも行われている。
他の主要AI企業がAI意識論に対して慎重な距離を置く中、Anthropicがこの問題に正面から向き合う姿勢を示していることは、業界内でも異質な立ち位置といえる。一方で、「AIが感情を持つ」という主張は科学・哲学界でも依然として論争的だ。AP通信がスタイルブックで「AIは感情を持たない」と明記した際にAI支持者たちが猛反発した件(関連記事)からも、この問題がいかに感情的なテーマになっているかがわかる。
世界最大の宗教組織の一つであるカトリック教会が、初のAI特化公式文書において「AIに意識はない」と明言したことは、AI意識論争に新たな局面をもたらしている。Anthropicのロビー活動が奏功しなかった事実は、この問いの難しさをあらためて示している。
詳細はAnthropic Has Been Aggressively Lobbying the Vatican to Consider AI Consciousnessを参照していただきたい。