10月3日、CNBCが「Trump taps Director of National Intelligence Jay Clayton as AI czar: WSJ reports」と題した記事を公開した。トランプ政権の新たなAI政策責任者(AIツァーリ)に、シリコンバレーの技術者でも研究者でもなく、元SEC委員長・ジェイ・クレイトンが選ばれた。規制・法執行のバックグラウンドを持つ人物の起用は、政権がAIをまず「安全保障と規制の問題」として捉えていることを示す人事だ。
クレイトンが率いる「Super Intelligence Force」とは
ウォール・ストリート・ジャーナルの報道によれば、国家情報長官(DNI)のジェイ・クレイトンが、トランプ政権の新たなAI政策責任者に選ばれた。クレイトンはホワイトハウスの新タスクフォースを率い、120日以内にAIのリスクと機会を調査・報告し、連邦政府の対応策を提言する。
このタスクフォースの名称は「Super Intelligence Force」(略称:SI)。トランプ大統領が「AI」という略語よりも「SI(Superintelligence)」という呼称を好むことに由来する。ホワイトハウスの高官がWSJにそう説明したという。
クレイトン自身は次のように述べている。
「大統領は、われわれが超知性において世界のリーダーであり続け、アメリカ国民の利益が最優先されることを確実にするグループを作るよう求めた」
クレイトンとはどんな人物か――なぜ「技術者」でないのか
クレイトンは証券取引委員会(SEC)の元委員長であり、ニューヨーク南部地区連邦検事も務めた法律・規制分野のベテランだ。今年7月に上院の承認を経てDNIに就任しており、18の米国情報機関を統括する立場にある。
AIの技術専門家ではなく、規制・法執行のバックグラウンドを持つ人物がこのポストに就いた点は、政権のAI政策の方向性を強く示唆している。トランプ政権は、AIを産業振興の文脈よりも国家安全保障・情報覇権の文脈で優先的に扱う姿勢を打ち出してきた。18の情報機関を束ねるDNIのトップがAIツァーリを兼ねるという構造は、その意思表示とも読める。
前政権との対比でいえば、バイデン政権は2023年10月にAI安全に関する大統領令(Executive Order 14110)を発令し、NISTや各省庁を通じた包括的なリスク管理フレームワークの構築を進めた。トランプ政権はこの大統領令を就任直後に撤回しており、今回の人事はその「脱規制・安全保障優先」路線の延長線上にある。
※編集部の考察:米中間のAI覇権競争が激化するなか、情報機関トップがAI政策を主導する体制は、民間主導の技術開発より国家主導の戦略的展開を重視するシグナルとも解釈できる。
前任者・デビッド・サックスからの交代
AIツァーリのポジションは今回が初めてではない。ベンチャーキャピタリストのデビッド・サックスが以前「AI・暗号資産ツァーリ」として務めていたが、今年3月に特別政府職員としての任期が終了した。サックスはシリコンバレー出身の投資家であり、技術・産業寄りの視点を色濃く持つ人物だった。現在も大統領科学技術諮問委員会(PCAST)の共同議長を務めている。
サックスからクレイトンへの交代は、AIツァーリの役割が「産業振興の旗振り役」から「情報・安全保障の統括者」へとシフトしたことを象徴している。
規制をめぐる緊張
今回の人事は、AI業界のトップとトランプ政権との複雑な関係を背景にしている。AnthropicのCEO・ダリオ・アモデイやOpenAIのCEO・サム・アルトマンはフロンティアAIモデルに対する連邦規制を求めているが、トランプはこれまで規制に反対の姿勢を取り続けている。
9月には、AI業界のリーダーたちがホワイトハウスでトランプ大統領と会合を開き、自主的な安全基準への合意に署名した。トランプはこれを「道義的拘束力がある」と表現した。ただし、法的な強制力を持つ規制ではなく、あくまで業界の自主基準にとどまる。
同月、トランプはTruth Social上でAIに関するリスクへの懸念を「でたらめ(原文:hoax)」と一蹴し、「急進左派」の扇動だと批判している。規制強化を求める声を政治的な攻撃として退ける姿勢は、「Super Intelligence Force」がどのような提言をまとめるかにも影響を与えるとみられる。
120日後の提言が示すもの
「Super Intelligence Force」が120日以内にまとめる提言は、連邦政府のAI調達・活用方針から安全保障上のリスク評価まで、広範な政策に影響を及ぼす可能性がある。技術者でなく規制当局出身者が主導するこのプロセスが、米国のAI政策にどのような輪郭を与えるか、注目が集まっている。
詳細はTrump taps Director of National Intelligence Jay Clayton as AI czar: WSJ reportsを参照していただきたい。