10月2日、ZME Scienceが「This AI Scientist Can Design Experiments, Run Them in the Lab and Learn From the Results」と題した記事を公開した。この記事では、スウェーデンのチャルマース工科大学が開発した、仮説生成から実験実施・結果解釈までを自律的に行うAIシステムについて詳しく紹介されている。以下に、その内容を紹介する。
単に論文を要約したり実験データを整理したりするだけでなく、仮説を立て、実験を設計し、ロボットで実行し、結果から次の仮説を導く——そのサイクルを自律的に回すAIシステムが登場した。
「自己駆動型ラボ」の最新形
チャルマース工科大学の研究チームが構築したのは、「セルフドライビング・ラボラトリー(自己駆動型実験室)」の一形態だ。ソフトウェアとロボティクスが連携し、最小限の人間介入で実験を継続的に進める。
ベースとなるロボットは「Eve」。Ross Kingらが薬剤探索向けに開発し、2015年には熱帯病の治療候補化合物スクリーニングにも使用された実績を持つ装置だ。今回のシステムはEveの物理的なインフラを流用しつつ、最新のAI技術を上に乗せた構成になっている。
具体的な仕組みは以下の通りだ:
- 知識グラフの構築:酵母の遺伝子・代謝・形質に関する約6万件の関係性を収録したデータベースを出発点とする
- 仮説生成:パターン探索アルゴリズムが数百の論理ルールと約2,000件の仮説(アミノ酸に関するもの)を生成
- 実験計画の立案:複数のLLM(大規模言語モデル)エージェントが連携。1つ目が実験計画を提案し、2つ目がバリエーションから選択し、3つ目がラボ装置向けの実行命令に変換する。この段階ではGPT-4oを使用
- 自動実験の実施:ロボットが酵母を培養し、化学物質や栄養素を添加し、成長を追跡し、代謝物を分析
- フィードバック:実験データがシステムに戻り、次の仮説生成に使われる
「失敗した実験」が次の発見を生む
このシステムの本質は、失敗実験を捨てない点にある。
予測が外れた実験結果もデータベースに保持され、後続の仮説生成に活用される。実際にその仕組みが機能したケースが記録されている。
AIはまず「グルタミン酸を添加すると酵母がギ酸に対して脆弱になる」という仮説を立て実験した。ところが結果は逆で、酵母はわずかにギ酸への耐性を示した。仮説は外れたが、システムはこの代謝データを使って「ギ酸ストレス下での生存に関連する別の分子」を探索し直した。
ランク付けされた候補の中から、ラボで容易にテスト可能なアミノアジパート(aminoadipate)を選定し、追加実験を実施。その結果、アミノアジパートはギ酸ストレスから酵母を部分的に保護し、濃度1ミリモルあたり約7%の成長改善をもたらすことが確認された。論文著者によれば、この保護効果はこれまで実証されていなかったという。
また別の実験では、グルタミン酸が酵母をスペルミン(細胞成長を阻害しうる化合物)に対して著しく脆弱にすること、アルギニンとカフェインの間に予期せぬ相互作用があることも見つかった。どちらも従来ほとんど注目されていなかった現象だという。
この研究は Journal of the Royal Society Interface に掲載されている。
「自律的」だが、完全に独立してはいない
現時点では、システムは完全に無人で動くわけではない。
- 一部の材料準備や機器間のプレート移動は人間が担当
- 提案された実験の安全確認は研究者がレビュー
- より複雑な仮説(生物学的効果の方向性など)ではLLMが混乱するケースも確認された
開発者であるRoss Kingは「研究優先事項の設定、科学的意義の解釈、倫理的監督において人間の科学者は依然として不可欠だ」と述べている。
類似のアプローチは生物学以外にも広がっており、2023年にはLLMで化学実験を計画・実行する**Coscientist、AIとロボティクスで無機材料を合成するA-Lab**が発表されている。チャルマース大学の研究はその流れをシステム生物学の領域で推し進めた形だ。
詳細はThis AI Scientist Can Design Experiments, Run Them in the Lab and Learn From the Resultsを参照していただきたい。