10月2日、The Decoderが「Businesses are using more AI and paying less for it, Ramp AI Index shows」と題した記事を公開した。米国企業のAI利用量が過去最高を更新し続ける一方、APIへの支出単価は低下しているという逆説的な構造変化を、Ramp AIインデックスの最新データをもとに報告している。
利用量は増加、支出は減少という逆転現象
企業のAI利用は拡大しているにもかかわらず、支出額は減少している。フィンテック企業Rampのエコノミスト、Ara Kharazianが公開したRamp AIインデックスの最新データが示す構図だ。
Kharazianによれば、支出が7月にピークを迎えた後、トークン利用量は約50%増加し、9月末には過去最高を記録した。しかし支出額は逆に低下している。要因として挙げられているのは、主要モデルの価格引き下げと、より安価で効率的な標準モデル・軽量モデルへの移行だ。
この「利用増・コスト減」という構図は、過去にも一時的に観察されたことがあった。しかし今回Kharazianが強調するのは、「今回は異例に長く続いている」という点だ。7月のピーク以降、利用増加と支出減少が同時進行するフェーズが継続しており、単なる価格調整期の一過性の変動とは異なる持続的な構造変化の可能性を示唆している。
競争が生んだ価格引き下げ圧力
このコスト低下について、Kharazianは「ほぼ全面的にOpenAIとAnthropicの競争によるもの」と断言している。両者の競合が価格引き下げ圧力を生み出し、企業がより安価なAPIオプションへ移行しやすい状況を作り出している。
背景には、2024年に相次いだ主要モデルの価格改定がある。OpenAIはGPT-4o miniなど低コストモデルの投入を加速させ、AnthropicもClaude 3系モデルにおいて性能と価格のバランスを積極的に見直してきた。特にClaude 3 HaikuやClaude 3.5 Sonnetといったモデルは、ベンチマーク評価での高い評価と相まって、コスト効率を重視する企業開発者からの支持を集めた。こうした両社による段階的な価格競争が、API単価の持続的な低下を後押ししている。
※編集部の考察:両社の競争は今後も継続する可能性が高く、モデルの能力向上と価格低下が同時進行する状況はしばらく続くとみられる。
マーケットシェアはAnthropicがわずかにリード
9月最終週のデータでは、**トークン支出シェアはAnthropicが51%、OpenAIが44.5%**と、Anthropicがわずかに上回る結果となった。生成AI市場においてOpenAIの優位が語られることが多いが、API利用ベースではAnthropicが拮抗、あるいは上回る局面が出てきている。
この逆転の背景には、前述したClaude 3系モデルの性能評価と積極的な価格設定がある。コーディング支援や長文処理といった実務用途でのAnthropicモデルの評価が高まったことが、企業のAPI選択に影響を与えたとみられる。
一方、オープンソースモデルのシェアはビジネス支出全体の5%未満にとどまるとKharazianは指摘する。LlamaやMistralといったオープンソースの選択肢が広がっている中でも、企業のAPI支出は依然としてOpenAIとAnthropicの二強に集中している実態が浮かび上がる。
データの出典と信頼性
Ramp AIインデックスは、7万社以上の米国企業の取引データを追跡している。RampはAIスタートアップではなく、法人カード・経費管理SaaSを本業とするフィンテック企業であり、顧客企業が実際に支払ったAPIコストを経費データとして直接把握している点がこのインデックスの信頼性の根拠となっている。サーベイや推計ではなく、実取引に基づくデータである点は留意に値する。
ただし、トークンに関するデータはその中のサブサンプルから取得しており、Kharazianは「分析対象はAPIへの支出のみで、大口AIユーザーに偏りがある」と明示している。社内で独自ホスティングするケースや、APIを経由しない利用形態は対象外となるため、あくまでAPIコスト動向の指標として捉える必要がある。
何を意味するか
今回のデータが示すのは、「利用量が増えても単価の低下によって総コストが下がる」という構造の定着だ。これはAPIコストがボトルネックとなっていた用途での導入判断を変え得る。OpenAIとAnthropicの競争が継続する限り、この傾向はしばらく持続する可能性が高い。企業がAI活用の範囲を広げるうえで、コスト面の障壁が着実に下がっていることを示すデータとして注目される。
詳細はBusinesses are using more AI and paying less for it, Ramp AI Index showsを参照していただきたい。