9月30日、PYMNTSが「Mastercard Deploys New Risk Insights to Support Agentic Payments」と題した記事を公開した。MastercardがAIエージェント決済プログラム「Agent Pay」に新たなリスクインテリジェンス機能を追加したことを伝えている。
AIエージェントが「代わりに買い物する」時代のリスク管理
AIエージェントが人間に代わって商品を検索し、比較し、決済まで完了する——いわゆる「エージェント決済(Agentic Payments)」の実用化が加速している。この流れに対応すべく、Mastercardは自社のエージェント決済プログラム「Agent Pay」に、新たなトラスト・インテリジェンス(Trust Intelligence:取引の信頼性を多角的に評価・スコアリングする仕組み)サービスを追加した。
Agent Payは2025年4月に発表されたプログラムで、AIエージェントがコンシューマーや企業に代わって決済を完結させるユースケースを想定している。今回追加されたのは、そのトラストレイヤーを強化する機能群だ。
新機能の核心:「この取引はAIがやったのか?」を判定する
新サービスの目玉は、「トランザクションがAIエージェントによって開始された可能性を示すスコア」だ。従来の不正検知モデルは人間の行動パターンを前提に設計されているが、AIエージェントの行動はその前提を外れることがある。このスコアは、その差異を検出するための指標となる。
加えて、以下のような「エージェント向けトラスト・インテリジェンスシグナル」が提供される:
- アイデンティティシグナル:誰(何)がトランザクションを開始したか
- インテント(意図)シグナル:そのアクションの目的は正当か
- ビヘイビアルシグナル:行動パターンとして異常がないか
- フロードシグナル:不正の兆候があるか、追加レビューが必要か
これらを組み合わせ、金融機関や加盟店が「オーソリ(Authorization:決済承認)判断をよりスマートに行える」ようにするのが狙いだ。不必要な摩擦を減らしつつ、リスクのある取引を精度高く検出するというトレードオフを解消しようとしている。
Mastercardのセキュリティ部門EVP(執行副社長)を務めるAnn Johnson氏はこう述べている。
「AIエージェントはコマースをより直感的で、効率的で、パーソナルなものにする——ただし、代わりに動くシステムを人々や企業が信頼できる場合に限る。トランザクションごとに新たなエージェントインテリジェンスとリスクインサイトを加えることで、支払い方法を問わず、ユーザーが安心して『Yes』と言えるようにする。」
エージェント決済の現在地
Mastercard U.S. 共同プレジデントのChiro Aikat氏は9月17日のPYMNTSとのインタビューで、Agent Payの動作を具体的に説明している。AIエージェントは顧客のニーズに関する情報を取得し、適切な商品を特定、販売元を見つけ、加盟店の設定次第でデジタル体験に誘導したうえで、card on file(あらかじめ登録・保存済みのカード情報)を使って購入を完結させる。
また、エージェントが開始するトランザクションをサポートするためのエージェント専用トークンと標準規格の開発も進めており、加盟店との連携を図りながら、最終的な意思決定はコンシューマーが保持する設計になっているという。
消費者側の受容性についても数字が示されており、PYMNTSインテリジェンスレポート「Global Digital Shopping Index: The AI-Powered Shopper Has Arrived」によれば、56%のコンシューマーがAIショッピングエージェントによる商品比較を許容し、35%が保存済み決済手段へのアクセスを許可する意思があると回答している。
なぜ今これが重要か
エージェント決済の文脈で難しいのは、従来の「人間が画面を見て承認する」フローが消えることで、不正検知・認証の設計を根本から見直す必要がある点だ。Mastercardが今回整備した「Agent Pay Trust Framework」は、その基盤となるインテリジェンスレイヤーを標準化しようとするものであり、金融機関や加盟店がエージェント時代の決済インフラをどう設計するかの参照点になり得る。
※編集部の考察:エージェント決済は利便性とリスクの両面を同時に拡大する技術であり、Mastercardのようなネットワーク事業者がトラスト基盤の標準化を主導することは、業界全体の実装速度に大きく影響する。今後、Visa等の競合や各国の規制当局がどう対応するかも注目点となる。
詳細はMastercard Deploys New Risk Insights to Support Agentic Paymentsを参照していただきたい。